超大馬鹿者
「心配したじゃないの! 本当に」
「……すいません」
何故か、怒られている。
いやまあ、怒る理由も分かるし、落ち度(落とし穴だけに)は完全に俺にあるのだが、なんかこう、腑に落ちないというか。(落とし穴だけに)
やったのは【絶対落とし穴】だし、勝手に勘違いしたのはアンだし。
「なに?文句あるの⁉︎」
「いえ何にも!」
投げつけ気味に言われたが、文句はないんだよ、文句は。
「……はぁ、ほんとにもう」
「……すいません」
呆れ気味なアンに俺は相槌を打つことしかできなかった。
「それで? どうやって出るの」
「……登ればいいんじゃないんですかね?」
「じゃあサブローがやってよ」
残念ながら俺にボルダリングの知識はないんだが……
まあ、できないというわけではないのだけれど。
地層部分に足を引っ掛ける。
――なかなか硬い地盤のようだ、感触は岩そのものなのだが、体重をかけても崩れるどころか欠片ですら落ちそうにない。
「にしても、不器用ね」
「重々承知しております」
手探りで岩肌の出っ張りを探して、体重を掛ける。初めのうちこそ上手くはいかなかったが、段々と慣れるもののようである。何度目かのリトライの後、ようやく落とし穴のフチ部分に辿り着き、それに手をかけようとしたのだが――
「……なんだこれ」
見えない天井だろうか、そんなものに阻まれた。
パントマイマーもかくやという動作でそれの存在を確かめたところ、どうやらそれはこちらから向こうのへりまで続いているようで、ちょうど蓋をするようにこの落とし穴を塞いでいるようだ。
「じゃあ、出られないってこと⁉︎」
「いえ、まだわからない……と思います。流石に僕にも手段がありますので」
そう言ってバッと人差し指を立てる。
「――【延爪】っ!」
俺が絶対的な信頼を置くこのチート。伸ばした爪で、一息に突く。
「――ッツ!」
しかしながら天井の強固さには勝てなかったようで、爪が剥がれるのではないかというくらいの痛みが俺を襲った。
慌てて手を引く。
「すいません、大口叩いてしまいました」
「――いいわよ、あれが限界なんでしょ?これで無理なら私たちには絶対に出られないわね」
それもそうだ。今の俺たちにはあれ以上の手段が講じられそうにない。
――ところで、ん?
「い、今なんとおっしゃいましたか⁉︎」
「な、何よ急に」
「早く!」
「ええっ、うーんと『あの【延爪】が私たちの限界なのよね?』」
いや、そこじゃないんだよ!
「ち、違う! もっと、もっと」
「どうしたのよ」
「こう、なんか、掴めそうなんです! 続き!お願いします!」
「はぁ……『【延爪】で無理なら私たちには絶対に出られない』」
「そうです!それですよ!」
怪訝そうな顔をしたアンに矢継ぎ早伝える。
「要するにこれは絶対に出られない落とし穴だということなんです!」
「ちょっと、サブロー、落ち着こう?」
「これが落ち着いていられますか! なるほど、これは確かに……」
「何が言いたいの?」
「いや、絶対に出られないんですって!」
「何が⁉︎」
「全てのものがこの落とし穴から出ることができないんです! これはそういうチートなんですよ!」
まだいまいちわかっていない顔をするアン。
「えーっと、要約するわね。その、サブローの新しいチートが、絶対に抜け出すことのできない落とし穴を生み出すってこと?」
「はい! それも何もかも、それこそ光や音に至るまで、全てです」
アンが外から俺の姿を認識できなかったのはそのせいだろう。
「――だったら、私達はいつまでも助けも呼べないでこの中で野垂れ死ねって言うの? 冗談じゃないわ」
「……その可能性は、否定できません」
残念ながら、俺にチートのキャンセル方法はわからない。もっとも、キャンセルできないから【燃費下落】チートはずっと起動しているし、【延爪】チートで延びた爪も剃刀で切る、というようなアナログなことをやっているのだが。
――そこで、俺は考えた。
「取れうる策は、大方三つです」
一つ目、俺が死ぬことでチートが解除されることを願い、死ぬ。
二つ目、なんらかの、チートを解除する方法を探す。
三つ目、時がなんとかしてくれるのを待つ。
「……いかにもサブローらしいわね」
「……何がですか?」
怪訝な顔をしていると、ずいっとアンが顔を近づけてきた。
「何よこの一つ目。サブローは自己犠牲の塊なの? 馬鹿なの?」
「ば、馬鹿ってなんですか。いくらなんでも――」
「いいえ馬鹿よ。それも超が付くほどの大馬鹿者ね」
「ですが――」
「じゃあいいわ、サブローが納得するように言ってあげる。いい? もしかしたらその方法でチートを解除できるかもしれない。でもそしたら、同じチートで生まれた私はどうなるの? この状況から考えてサブローは私のことを考えて言ってくれてることはわかるわ。でもサブローが死んで、全てのチートがなかったことにされたとしたら私も死ぬことになるのよ。そうすればそのサブローの死は全くの徒労になるの。わかる?」
「あっあっ、はい。分かりました」
早口でまくし立てられて少し混乱しながらも返答を返した。
「わかったならいいわ。サブローに死なれたら私が困るんだから。いい? 絶対に死なないでね」
「はい、僕は貴女のためにも一生死なないことを約束いたします」
俺にしては仰々しくそんなことを言うと、アンは咄嗟に俺から顔を背けて、今までの威勢とは対照的な声で何か呟いた。
「もう…………落ちちゃうじゃないのよ」
「何がですか?」
「ううん、なんでもないっ! それより出る方法を模索しましょ!」
――何に落ちるのか。俺にはわからなかったが、彼女なりの落とし穴ダジャレであるとしたらこれは反応をまずったかなと思ったので反省しなければならないだろうか。
ああ、空気が読めるようになりたいな。




