ゴブリン討伐
「という訳で、ゴブリンの討伐がしたいのですが」
「うん、何が『という訳』なのかな?」
ハリーさんに相談したところ、難色を示した、という訳ではないが至極不思議そうな顔をされた。
事実薬草採集だけで生活は回せるし、無理してゴブリンを倒す必要はないはずだ。
「僕もアンもそれなりにですが戦えるようになってきたので、もう少し家計に余裕を持たせたいんですよ」
「へぇ……」
ハリーさんは軽く考える素ぶりをしてから、再び口を開いた。
「いいんじゃないかな、ゴブリンくらいなら問題ないと思うよ。現に、前にゴブリンなら倒していたわけだしね」
思い返すは、ゼノと戦った時。確かに、あいつが召喚した魔物の中にゴブリンもいた気がする。
「なるほど、そうですね。ですが、些か不安なので……」
「サブロー君ならそういうと思ってたよ」
ニッコリと笑いながらゴブリン討伐のクエストのパーティー申請用紙を俺に見せてくる。
お仕事が早いなぁ。
「いや、あの、すいません、わざわざ」
笑顔を浮かべながら手で制すハリーさん。さながら昭和天皇である。
「いいんだよ。――君には、そういった『依頼』だからって説明したほうがいいかな?」
「それは…… ありがとうございます」
「……いいから、早く行きましょ」
ペコペコする俺に辟易したのか、アンが急かしてくる。
ハリーさんが同意し、俺も異議がなかったのでアンが右手で俺の袖を引っ張るのに任せながらギルドから出ていった。
ハリーさんを先頭に『狩場』に向かう。今まで来たことのない森の中を進んでいった。
この世界において、ゴブリンの魔石はさしずめ元の世界でいうボタン電池のようなエネルギーリソースであり、魔道具、というのを動かすのに使われる。
ゴブリンの魔石は容量純度ともに劣るが、その分安価でコンパクトなので需要は絶えない。
ゴブリンといえど集団で人海戦術――ゴブ海戦術? いやどうでもいいんだが、連携してかかられれば無視できない脅威となりうるので、駆除がてらの依頼が多々貼られるのだ。
さすがに、はぐれのゴブリンならば超初心者冒険者でも数でかかればまず死ぬことはないので、Fランク冒険者の依頼としては最もポピュラーな類だと言える。
もちろん、薬草採集よりも、だ。
「さて、この辺りから魔物が出始めるから、気を引き締めてね」
そう言うハリーさんに倣い、柄に手をやる。
さすがにゴブリン程度なら、と思ってしまうが、こと戦闘においては常にイレギュラーを想定して戦わなければならないだろう。
がさり、と音がする。足音は二つ――はぐれではないか。
ハリーさんに目線で意見を求める。彼は首肯する。――ならば大丈夫だろうか。
ハリーさんがわざと小枝をぱきりと鳴らす。
向こうもさすがにこちらに気がついたようだ。
――両者息を止める。
先に動いたのは、しびれを切らしたゴブリン。
藪をかき分け、堂々と俺たちの前に登場した二体の姿を確認すると、隣で駆ける少女の姿が――
「一番槍、ってとこね!」
一閃、喉笛を切り裂く。
噴き出す血飛沫に色々と思うところこそあったが、押し込めて俺もかかる。
ゴブリンとてさすがに仲間がやられて平静を保てる筈もなく、目を腫らせて睨んでいる。
――すまない。
間合いを詰め、剣を大振りに振りかぶる。
気がついたゴブリンが手の棍棒で防御に入る。
……脳筋の冒険者なら、その対処であっていただろうが。
フェイントの軌道を変えて、袈裟に斬る。
――野に伏した。
「うん、上出来だね」
手を叩きながら笑顔を浮かべるハリーさんがそう言う。
向こうではアンが地面に座ってゴブリンの胸から魔石を取り出しているところだった。
絶望の面持ちの屍をずっと眺める。
…………………。
「……生かさせてもらいます」
略式ながら手を合わせてから、ナイフに持ち替えて表皮に傷を入れる。
血が出てきて、内臓が切れて、ようやく魔石を取り出した。
……ここまでを全部一人でやったのは初めてか。
そこまでやってから、ふとレベルアップの感覚を感じた。
オークのパワーレベリングでも上がりにくかったレベルが、こうもあっさりと、か。
屍に、魔法で作った火をつける。
――くさい。
肉が焼けているのか。食欲がそそりはしないな。
「……次へ、向かいましょうか」
逃げるようにそう言った。
もう考えたくない、というところがある。
とにかく、ゴブ海戦術さえとられなけば敵ではない、ということはわかった。
――にしても、この魔石一つで薬草三十分ぶんの収入ねぇ、確かに人気な理由はわからないでもない。
――冒険者も、生半可な仕事じゃねぇか。
それから魔石を十数個取って、俺たちは街へ戻った。
ゴブリンの命は、薬草の五割増しぐらいのお金になった。




