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つかえない勇者のつかえないチートによる何の差しつかえもない物語  作者: エカMo
御見合いチートと絶対落とし穴チート
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ステータス

「あの……ちょっと、出来れば離していただけないでしょうか」

「あーっ、また敬語で話した。今離そうと思ってたのに。延長ね」


 餓鬼か。


 薬草採集が終わって街に着いたところでアンの態度は変わらなかった。

 むしろもっと密着してるような。それでもってなんか、当たってる気がするんですが。


「恥ずかしいです」

「上等じゃない。なんて言ったって、蜜の月(ハネムーン)だし」

「……初対面なんですよ、僕にとっては」

「でも夫婦じゃない」


 間違ってはいないんだが論点はそこじゃない!

 こうなんか、モヤっとした気分にさせないでほしい。

 結局、帰宅までその手を離してはくれなかった。


「えっと、じゃあ僕は勉強しますので。ベッドは使って構いません」

「いや、私も付き合う。ベッドはサブローが使って」

「いえいえ、僕は床で寝たい『気分』なので大丈夫です」

「サブローの方が疲れてるんだから…… はぁ、言っても無駄か」


 流石は並列人格、よくお分かりで。

 質素な机に向かい、魔術の研究を開始する。

 俺の隣で、アンも本を開いているようだ。


 ――さて、現在の課題はひとまず、魔法のバリエーションを増やすことだ。流石に火の玉――後で【火球】として魔言登録しておいたこの魔法のみでは色々と拙い。


 例えば、塩水を魔法で出したように強酸や強アルカリ、酸化剤や還元剤、はたまた毒まで生成出来ればそれだけで戦術の幅が大いに広がるだろう。今はひとまず、資料を漁って似たような記述を探している。

 近いものといえば発泡する水や苦い水などがあったが、どの資料も詳細が書かれている訳ではなく、正直難航している。

 以前に読んだ、塩水を出すヒントとなった本も更に熟読したが、著者には当然科学の素養はないので顕著な反応以外は記録されていなかった。

 そもそも水属性というのがもともと不憫属性のようで、攻撃もままならない上に他の属性に比べ使い勝手が悪く敬遠されていた結果研究が進んでいない。

 蒸留水や消毒用のアルコールといった、本当に生活に密着したような魔法しかないのだ。

 この世界にはリトマス紙どころかベネジクト溶液もBTB溶液もないので不便極まりないが、いつぞやに聞いた紫キャベツでのpH判定法などを応用して事細かに記録。

 いくつかの大まかな傾向は見えてきそうである。


 と、ここでふとアンの方を見た。

 ……寝てるよ。


 仕方がないので、ベッドに寝かしてやることにした。流石に机に突っ伏すというのは肩が凝ってしまうだろう。

 僭越すぎる、とか余計なお世話だ、とか頭をよぎったが結局運んでやることにした。


 必然的にお姫様抱っこになった。


 意外と、ずっしりとしている――なんて、女性に言うのは失礼かも知れないが、その感覚に色々なものを感じてしまう。

 生きている人の感触だ。


 守れるだろうか? 分からない。でも、可能かどうか以前に、守りたいという意思はきっと、確実なんだろうと思う。

 ――守る守ると言ってるが、俺が守られる側かも知れないな。それだけ、というのは情け無い話だ。


 毛布を掛けてやった。

 幸せそうに寝ている。そうか、考えてみればこれは彼女にとっての初めての睡眠ということになる。今日だって薬草採集は初めて、ギルドも外も――果ては呼吸から心臓の拍動までもが、いわば初めてだったのだ。


「……強い人だ」


 口から漏れていた。


 俺は、女将さんが気を利かせて置いておいてくれた毛布にくるまり、床で寝た。


 そういった、『気分』だったから。



  ◆



 目が醒めた。

 もう朝か。


 日課のごとく、飯を掻き込み剣を携えて広場へと向かった。


 空が切れる音が、する。


 咄嗟に身を隠して様子を見た。

 彼女は箒のような長い棒を振るっているのだが、さながら真剣のようである。


 ――ヒュッ、ヒュヒュッ、ヒュッ


「たぁぁぁぁあああああッ!!!!」


 スパァン!!


 ――斬った。いや、空気をではない。

 おそらく、彼女の見ている『敵』をだろう。


 ……凄い。


 無論、ハリーさんや他の冒険者に比べれば劣るかもしれない。だが、その中にとてつもない才能を感じるのは、俺だけだろうか。

 曲りなりにも剣の道を齧った身、凄いものを見る目くらいは俺にもある。


 彼女――アンが一息ついたところで身を踊りだす。


「おはようサブロー、今日は早いわね」

「あっ、はい。おはようございます」


 今日は早い、だって? 確かに比較的早く目が覚めたが、それでも彼女よりは遅いだろうに。


「昨日はありがとね。やっぱり初めての身体だから慣れてないみたい」


 勉強してると眠くなるのよ、とはにかむ彼女。

 ……俺はいつもより目を逸らした。


「……そ、そんなことより、ですね。そういえば僕はまだアンのステータスを見ていないので、その……お願いします」

「わかったわ」


 快諾したアンは、前に伸ばした手の上に半透明のSFチックなディスプレイを表示させた。


[ アン Lv.1

 筋:9

 魔:1

 抗:2

 技:6

 スキル:

 アビリティ:剣術 Lv.1

 魔術適正:土、雷

 リンク:大村 三郎(配偶者)]


 色々と見たことのない文言がある。

 アビリティ、とかリンク、とか。

 特に、このリンクって何だよ、と思い自分のステータスも開いた。


 ……あったよ、リンクの欄が。

 しっかりと【アン(配偶者)】と記載されている。


 ステータスの欄は増えるものなのか? 内部的には存在するけど、空欄なら表示されないとか。

 ……スキルは、空欄なんだよな。

 謎だ。


 意外にも脳筋編成になっているが、そんなことはおくびにも出さない。

 ただ、俺なんかよりも冒険者に向いていそうだ、という感想を持ったのみだ。

 ――ということにしておこう。


「とりあえず、レベルくらいは上げておきたいわね」

「……まだ多分身体にも慣れていないことと思いますし、当分は薬草採集いたしましょうか」


 結局、あまり日常と変わりそうにない。

 ただ、これでパーティーが組めるのでハリーさんがいない日にも薬草を取りに行ける。

 ギークに時間を徒(いたず)らにしていた頃よりも家計は上手く回るだろう。

 ああ、アンの分の剣や鎧も必要だよな。


 ただ、こんな日常が永く続けばな、なんて。

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