↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
つかえない勇者のつかえないチートによる何の差しつかえもない物語  作者: エカMo
御見合いチートと絶対落とし穴チート
19/86

夢

 切っ先を向けた。


 制服は嗤う。

 嗤っているから、切っ先を向ける。


 振るおうとした。だが、剣に、俺に、ナニかが、ついて、付いて、憑いていて、泥を掻くようにしか、動かない。


 制服は嗤う。嗤う。嗤う。


 殺シタイ。

 切に願っている筈なのに、泥は消えてくれない。


 不甲斐なさが、残雪のように俺にこびりついた。


『なら、死ネばいい』


 剣がその輪郭を溶かして、見慣れた形になる。

 ――カッターナイフ。


 五月蝿い、お前に、俺の、葛藤が、分かってたまるか。

 泥が粘度を増す。


 消えろ、消え去れ。

 瞬間、制服に火がついた。制服は未だ嗤う。嗤いながら、紅蓮に呑まれていく。

 まるで、俺を嘲笑うように、その散りざまを見せつけるように、斃(たお)れ――


 これで、制服は消えたのかもしれない。あるいは、制服はまだそこにいるのかもしれない。

 少なくとも、まだ俺の『ドコカ』に、いる。


 泣く。咽ぶ。叫ぶ。

 泥は音の波ですら、通すことを能(あた)わなかった。


 縋るように手を延ばした。この手を、誰かに取って欲しい。

 その一抹の望みも、消える。

 そして、深い闇――



  ◆



 ――目が覚めた。


 ……夢、か?

 むくり、と身体を起こす。

 まだ寝ぼけた目をぱん、と顔を打って醒ました。


 曇天の空だった。

 闇は、無い。ただ、雀のような鳥が一、二といるだけだ。


「ああ、もう。らしくねぇな」


 ――久しぶりに敬語が口から出なかった。

 寝癖のついた髪をぐしゃぐしゃと掻く。


 人の目がないところは好きだ。誰にも気を遣わなくて済む。思う存分、羽を広げられる。

 だから、俺は右手を前に掲げてステータスを表示させた。


[ 大村 三郎 Lv.13

 筋:12

 魔:15

 抗:7

 技:13

 スキル:採集、着火、湧水、刺突、撫斬

 魔術適正:火、水

 チート:延爪、燃費下落、御見合い

 ギフト:チート取得]


 またチートが増えてやがる。

 しかもなんか名前がおかしい。まあ、それは毎度のことか。


 御見合いチート、か。彼女とか出来るチートだろうか。俺は彼女というのは存在しない都市伝説か何かだと信じているので欲しいとは思ったことは、一度も! なかったが、ここは異世界。もしかしたらネッシーやツチノコとかと同じように、彼女なるものもいる可能性がある。いや、ネッシーとかの話はこの世界では聞いたことがないけれども。

 まあ、仮にその彼女とやらがいたとしたらそれはそれで妬ましいが……。残念だったな、異世界の非・リア充達。俺にはこのチートがあるのだよ。


 この御見合いチートとやらがなっ!


 ……まあ、まだ何も把握してないけど。


 実際、何が起こるか分かったもんじゃない。言うなればパル●ンテのようなものだ。

 もしかしたら周囲になんらかの影響のあるものかもしれないが、この建物は女将さんの魔法で金剛にも勝る強化をされていて安心してチートをぶちかませるので、その心配はない。硬度10超過ってどういうことだよ。どう見ても木だろうに。


 ――とにかくだ。このチートを発動させてみるに越したことはない。少なくとも、俺以外への損壊はあり得ないだろう。


 さて、と。


「お、【御見合い】チート!」


 口に出すとやはり小恥ずかしかったが、発動には成功したようだ。

 ぽう、と目の前に光が灯った。


 ――これだけ?


 そう思うも束の間、刹那フラッシュを焚いたようにそれは膨張、眩しく照った。

 くっ、なんだこれ、空中都市が滅んだ時と同じくらいの光量じゃないか!


 網膜が焼けそうだ……ッ!


 ――しばらくすると光はおさまったようで、目を開いてみる。

 目の前には見目麗しい女性。


 待って。


「なんだ、見間違いか」


 白いワンピースを着た黒髪の美少女が紙を片手に立っていた気がするが気のせいだろう。

 きっと疲れているに違いない。


「……無視は酷いんじゃない?」


 うわぁぁぁ幻聴が聞こえるぅぅぅ!

 待って、待って待って!


 蹲(うずくま)って、混乱する俺。

 床を見ていると、目の前にさっ、と紙とボールペンが差し込まれた。

 こほん、という咳払いの音が聞こえる。


「ここにお名前をお願いします」


 ――名前? というかボールペン??


 そうか、そういうことか!


「宅配便ですね!わっかりました!」


 さらさらーっと名前を書く。


 そして、荷物をよこせ、と言わんばかりに右手を彼女のいたあたりに突き出した。


 しかし、いつまで経ってもボール紙の感触は訪れなかった。ただその代わり、ふわり、と手が包まれたような気がした。

 見ると、少女は陽のような笑顔で笑っている。

 そして、もう片方の手で、俺にさっきの紙を見せた。


「じゃあよろしくね、私の旦那様」


 ――その紙には、『婚姻届』と書かれていた。

 なるほど、意味わからん。


 ……いや、見間違いじゃない。というか、こんなことになった原因なんてわかってるはずじゃないか。

 どう考えても【御見合い】チートの仕業である。


 混乱の真っ只中だが、俺には分かったことがあった。


 俺の延ばした手に、『夢の続き』を見た気がしたことだ。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。