冒険者ギルド練兵場
時早かれど、あれからすぐに街に戻った。
流石に賊を縛ったまま薬草採集するなんてことをするほど俺もハリーさんも警戒心がないなんてことはない。
やはり第37騎士部隊を壊滅させたのはゼノ達だったらしく、報酬は段違いであった。
賊の生き残りは監獄送り、その中でも悪名高かった者は処刑されたが、ゼノは才ゆえか、奴隷落ちという刑であったようだ。
――天下りという言葉が浮かび複雑だったが、聞くに奴隷落ちは死刑を超える極刑らしく、これから彼には馬車馬のようにこき使われる未来しかないようだ。
……命あっての物種、か。
はたしてどうなのかね。
今回の報酬はハリーさんがもらうべきだと俺は主張したが、今回の功労者は俺だと言ってハリーさんも俺に渡そうとするので結局八割が俺の取り分になってしまった。
結構前にギルドカード代も払い終わり、今のところ特にニーズは存在しないが持っていても損は無いはずだ。
お金は冒険者であればギルドで預けられるので必要最低限の額を残して全て預けてしまう。
「さて、時間はまだ早いんだけど……これから予定とかある?」
「いや、別にないですけど……?」
「じゃあ、ちょっとついてきて」
言うので、ついていくこととする。
ギルドから少し離れると、そこにはざっとみてドーム球場程度の大きさの土地があった。
話には聞いていたが、広いなー。
ここ、冒険者ギルド練兵場はギルド会員なら誰でも使える訓練の場だ。
――ただし、有料だが。
銅貨10枚と、俺のような駆け出し冒険者には痛い出費だから俺は利用していない。
その分、模擬刀や、弓や魔法の的といった設備は整っている。高ランク冒険者に媚びを売った、それってどうなのと思うやり口だがギルドにも考えがあるのだろうか。
ハリーさんは練兵場の中でも広めな、模擬戦を行うのであろう区画に移動していく。
ハリーさんはそこに刺さっている刃引きされた剣を一本、こちらに投げてよこした。
――握ってみると、結構しっくりくる。まるでいつも使っている剣のようだ。
見るとハリーさんは既に剣を持っている。
……戦え、とな。
気分じゃないんだけど…… 言い出せない俺が憎い。
軽く肩を回した。
改めてハリーさんを見る。
――隙がない。
安定している。たとえトラックがぶつかってきたとしても軸がぶれることはないのではないかと思うほどだ。
それでも、いつでも攻勢に出られるようになっているから凄いと言うかなんというか。
俺も中段の構え――剣道での基本的な構えで相対するが、これじゃあ月とスッポンだな。
「さっきも思ったんだけど、珍しい剣術だよね。東方の剣に似てるけど…… 本質は全く違いそうだ」
全く、よくお見通しで。
剣道の本質は人を斬ることにあらず。
事実、昨今の剣道は武道や護身術、というよりはむしろスポーツという側面が強いだろう。
まあ社会が社会だったからね。
対し、ハリーさんのそれはまさに百戦錬磨。実戦経験の浅い俺でもわかる。
「ルールは無用、好きなようにかかってきていいよ」
そう言い、ハリーさんの顔に真剣さが灯る。
一陣の風が流れた。
にじり、にじりと摺り足で近寄って行く。
間合いに入った――瞬間、駆ける!
この人に小手先の技は通用しない。狙うはそう、脳天――剣道で面と呼ばれているところに――
ハリーさんは動かない。
俺は、当たりそうになる剣を寸前でぴたりと止め、地を踏むことで勢いのベクトルを反転させて間合いを開いた。
「おかしいなぁ、ルールは無用、当てても構わないんだよ?」
言われなくても分かってますっての!
笑みを浮かべる彼を、無意識下で睨んでいる自分に気がついた。
その後、何度も間を詰めては開きを繰り返す。何度も、何度も何度も何度も――
ハリーさんは動かない。
「これが君の欠点だ」
――欠点?
「そ、欠点。具体的にいうと、サブロー君、君には人を傷つける覚悟が無い」
「人を傷つける覚悟……」
俺にあるだろうか? 内省する。
――言われれば、無いかもしれない。
「言っちゃうとね、君は優しすぎるんだよ。実際、ゼノの肩に刺したあれ使ったら、心臓を貫くことだってできたんじゃないのかい?」
「……」
延爪の事だろう。たしかにそれもそうだ。――でも、俺にはできそうに無いし、おそらくこれからも、きっとできない。これが覚悟の欠如だろうか。
「まあ、あんまり考えすぎないほうがいいよ。ただでさえ君はものを考え過ぎなんだ。――僕が言いたいのは、取り敢えずこのくらいかな?」
言いながら模擬刀を納める。
「……ありがとうございます」
俺も剣を仕舞った。
――斬るための道具、か。
いつか使いこなせるようになるのか?
想像して、気味が悪くなった。
「では……失礼します」
寝たい。そんな気分だった。
寝れば、忘れる。感情を翌日に持ち越さずに済む。
一人、帰途についた。




