罪悪感
多勢に無勢である。
小粋に意気込んだはいいが、正直に言おう、残念勝てる気がしない。
経験もステータスもあちらが上。ミスリルを何とかしたところで同じ土俵に立てたとは限らないのだ。
こちらの攻撃手段として有用なのは延爪チートと、燃費下落チートで強化された火魔法のみ。
というのも、このチートが働いている現状、火によって物が焼ける速度は倍以上になるのだ。当たれば決定打になり得る。さっきの賊のようにね。
逆にいえばそれ以外――例えば水魔法や剣術は使えないだろう。特に距離というアドバンテージを失う剣術は。
「残念だったな!当たらねぇぜ!」
無論、魔法を撃っても当たるとは限らない。さっきの塩水で相当量魔力を消費してるので、バカスカと撃ち込むわけにはいくまい。
――⁉︎ 後ろからの攻撃!
まずい、かわせない。体勢がまずい。
くっそ、意外と良いところまで行ったと思ったんだがな……
やはり自力の違いか。
万策尽きた――
「わけねぇだろ!【採集】ッ!」
魔言を唱えると、俺の体が勝手に動き始める。
屈んだその身の上を大剣が通り抜けていった。
危ねぇ。
しかし、その大剣は切り返すと、俺を叩き切ろうと振り下ろされる!
回避、回避!
――体が、動かせない⁉︎
そうか、魔言はその動作が終わり切るまで、それこそテープレコーダーみたいに記録した行動しかとれないのだ。……ってそんな悠長に考えてる暇はねぇ!
頼む、終われ動け終われ終われ動け終われ動け動け終われ動け終われ終われ終われ動け動け動け終われ動け終われ終われ動け終われ動け草刈ってる場合じゃねぇよ動け動け頼む終われ動け動け動け終われ動け動け動けどうか終われ終われ動け終われ終われ動け終われ終われ終われ動け動け動け、動けぇぇぇぇ!
――っし、終わった!
動くようになった足から力を伝え跳躍し、大剣の男との間合いを詰める。
そうして駆け抜け、すれ違うと同時に相手のアキレス腱を絶った。
――この男はもうまともに立てないだろうか。
……ええい、考えるのは後だ!
駆けながら構成した火の玉を、この中で唯一動けない男にぶち込む。
「ギーク、お前だッ!」
ハリーさんを抑え込み身動きの取れない状態で、その背中に思惑通りに的中した。
……奥歯が割れそうだ。
ハリーさんは、体が燃えて焦燥するギークを押しのけて追い討ちのように、落ちていた自分の剣でギークの首を絶った。
「ありがとう、助かった!」
ハリーさんの言葉に『戸惑い』を覚えつつも、簡単に会釈して返す。
――人が死んだ。
俺が、殺した?
わからない。ただ、突然、罪悪。
ギークという俺にとっての"人間"が死んだからか?
死ぬのは怖い。殺すのとどっちが怖い?
わからないよ。
「……サブロー君。君は考えすぎだ。そこが君の良いところでもあるけど、今はそれどころじゃないだろう?」
――そうだ、今は戦闘中。それどころじゃない。
「――分かりました。僕が、不躾ながら後方から援護させていただきます。ハリーさんは……前の方で……その……お願いします」
「了解っ」
駆ける。
俺は俯瞰しながら的確に――というと些か微妙かもしれないが、賊に魔法を当てていく。
――感覚的にいくつかレベルが上がっている。
だがここで攻撃を止めるとむしろハリーさんの身が危ない。意思でねじ込める。
――にしても、流石はCランク冒険者だ。
計算され尽くした流動的な、それでいて荒々しさをはらんだ剣術。
俺はその背中が指示する通りに魔法を打ち込むのみだ。
召喚で現れた魔物を、連係する賊を、鎧袖一触で斃していく。
「ありえない……! 何故ですか、何故、世界は私を見捨てるのですか!」
ゼノの声を無視し、火の魔法を構成してそこに撃ち込んだ。
レジスト――風の妨害魔法とかだろうか。
召喚魔法は地水火風全てに秀でていないと使えないと聞いた。ゼノはその中では特に風属性が得意なんだろう。
「歯車が狂ったのは――そうだ、先代が死んであの女が。そうだ、あれのせいです。それまで、世界は、王は、っぁぁぁぁあ!」
狂ったように咽び泣く。
「王は私に期待した。王は私を咎めなかった。王は私に与えてくださった。王は私の研究を支援してくださったのです。王は私を寵愛していた。王は私を、王は。王はァ!」
……。
「あいつの仕業なんです。――知らしめる必要があった! 私を敵に回すとどうなるか! 目には目を潰す、つもりだったんだ!」
踵を返し、もつれながらも野の奥へ逃げ去ろうとするゼノ。
――背中に"俺"を見た気がした。
「【延爪】」
追いかけながら伸ばした爪を、ゼノめがけて突き出す。爪の先は魔法障壁を貫通し、右の肩を突き通した。
ビクン、という痙攣が伝わった。
ハリーさんもちょうどかたがついたようで、戦後処理を開始している。
生きている者は縄にかけ、死んだ者は首を刈る。
魔物みたいに魔石を取ればいいわけではないので、なかなか原始的な方法だ。
俺も延ばした爪をポーチから出した剃刀で切ってから、ゼノを回収した。
――奇絶こそしているが、息はある様子である。
……ハリーさんは何も言わなかった。
ニクの焼ける匂いがする。
――俺が焼いた、のか。
「悪い、な」
口が動いた。
果たしてどういう意味だったのか。




