酸化
きしのトムキンスは、あるひ、おしごとでみなとまちまでいきました。
「よろいがさびるから、ちゃんと、おていれしろよ」と、ぶたいちょうさんがいいますが、トムキンスはいうことをききません。
「まものだー!」うみのそこからおそろしいまものがでてきました。トムキンスは、なかまといっしょにたたかいました。
きしたちのよろいには、まもののまほうも、つめもききません。
でも、トムキンスにまもののまほうがあたると、トムキンスはもえて、しんでしまいました。
「あぁあ、ちゃんとものをだいじにしないから、しんじゃったんだ」
ぶたいちょうさんがいいました。
みんなは、ものをだいじにしようね。
出典:トムキンス物語
◆
――とまあ、こんなダークな物語がこの世界には存在する。いや、この世界にも、というべきか。
本当に昔話なんかでは人がじゃんじゃか死んでいくからね。かちかち山なんかが典型的な例か。
――なんて目を逸らさず、しっかりと現実を直視する。
目の前に迫るはゴブリンの群れ――ざっと10はいるだろうか。正直言って、足がすくんでいる。
いやだってゴブリンなんて俺、殺したことなんてないからね。大抵はハリーさんかギークが倒していて、よく考えたら俺はこの世界にきてからというものまともに魔物と戦ったことがない気がしてくる。というかその通りだ。
オーク変異種と戦ったような気もするが、あれはむしろ戦いなどといえないのでノーカンの方針である。
「ふぅ……」
さて軽く息を整える。
よし、掛かってこい!
構えを整えて出方を待つ。
ゴブリンが上段に振りかぶり――って待て、隙大きすぎじゃね?
えっ、腹部ががら空きだけどいいの? 斬るよ? 斬っちゃうよ?
「ギャガァァァァァァァァァァ!?」
いや『!?』じゃねえよ、それどう見ても打ってくださいのポーズだったでしょ。
ギークに比べれば遅いのなんの。自惚れじゃないが、あれの動きを見て重傷を負わない程度には受け身をとれるので、それなりの動体視力がついているはずだ。
人間万事塞翁が馬ってね。
流線的な動きで――って自分で言うと小恥ずかしいが、ハリーさんの動きを真似て頸動脈を断ち切り、先ほどと同様の火の玉の魔法を発射して別の一体を倒す。
――案外戦えている。
おっと油断大敵。
ここで井の中の蛙な無双劇を繰り広げたところで賊に囲まれている事実は何ら変わらないのだ。
と、ここで呑気にもぐう、と俺の腹がなった。
――奇遇だな、ちょうど俺もコイツを使ってやろうと思っていたところだよ!
俺は切り札となりうる魔法を練っていく。
「おやおや、意外とやりますね。リサーチには無かった…… なるほど、面白いです。が、私の力をもってすれば変異種の召喚でさえも容易なのです、いつまで持ちますかねぇ」
嗜虐的な笑みを浮かべて言う。
変異種――俺が連想するのは件のオーク。
思えばあの時"運良く"魔力爆発したと思っていたが、もしゼノがあれを召喚したとしたら、どうだろう。
強力な魔物を召喚するには相応の魔力が必要だろう。そうなれば空気の魔力も乱れる。
そうすれば魔力爆発が起こるリスクも高まるだろうから、もしかしたらあれはある種の必然だったのかもしれない。
だが、一度の僥倖に頼ることほど愚かしいことはない。もしあんなのともう一度戦えなんて言われても100パーセント無理だ。幸い多くの魔力を使うには時間もかかるので、それまでにけりをつける!
――と、やっと例の魔力を練り終える。後は属性を付与して打つだけ、と言う状態にし、水属性を雑にかつ精密に付与していく。
本来なら属性は雑に付与してしまうと純度が下がる。それは泥水になるかも、あるいは海水並みに塩っぽくなることもある。昔、ある魔術士がその傾向を研究した資料を読んだことがあるから、その通りに付与していくのだ。一歩間違えば効果が変わってしまうので、精密にしていく。
「ほう、なかなかの魔力。その上二属性持ちですか…… ですが水属性は苦手な様子。その程度で我々に傷がつけられるとでも?」
「別に? ハナからそんなつもりじゃありゃあせんよ!」
顕現させ、上空に向かって射出する!
巨大な水の塊はビルの三階くらいまで打ち上がると、バシャアという音とともに弾ける。
霧状になったそれは周囲に降り注いだ。
――あっ、虹だ。
無論攻撃力なんて無い。そんなものは目的ではないから。
持ちうる魔力を7割ぐらい使ってしまったが、効果は見込める。
「な、何をしたんだ!」
「こんなもの俺たちには効かないぞ!」
「気でも触ったか――っ、なんだこれは! しょっぺぇ!」
そう、しょっぱい。
海に行った時は、帰ってからしっかり車なんかを洗うだろう。それは海から吹きつく風に潮が乗っていて、それが鉄なんかを錆びさせるからだ。
もっと詳しくいうと塩化物イオンの腐食性が〜、などという話をする必要があるが、ここでは割愛させてもらう。
――と、何故俺がこんな話をしているのか? 察しのいい方なら分かるだろうか。
俺はもう一度、火の玉の魔法を賊の一人にぶち当てる。
「ハッハ! お前は鳥以下の馬鹿か! ちっとは学習しろ――ってギャァァ!?」
一瞬で火ダルマになった。
このミスリルという金属。一見完璧なものに見えるが、その実は錆びやすいという欠点があるのだ。しかも、錆びるとその性質がほとんど失われる。
そして錆びとは、酸化――言い換えれば『燃焼』である。
毒も料理の仕方によっちゃあ薬になるってね!
「さあて、ラウンド2と洒落込みますか!」
仲間がやられ、気構えが変わった様子の賊に俺は剣先を向けた。
チートっていうのはスゴイチカラなので、本来酸化とは別個で起こるはずの金属のイオン化などもチートで加速されているものだと理解してください




