魔言
『第37騎士部隊が盗賊により壊滅 犯行グループは依然逃走中』
『勇者召喚失敗に終わる 税収不足による予算問題明るみに』
『コラム:魔王復活による経済影響 あの物品は今後どうなる⁉︎』
冒険者ギルドの中では、こういったニュース記事も読むことができる。
この世界では印刷技術がほぼないため一枚一枚手書きなのだが、ギルドは外交の上では基本的に中立の立場を保っているので情報の信憑性は高い。
ただし、そのソース自体が間違っていた場合はその限りではないが。
というのも、この間勇者の記事があったのだが、その中での俺は言葉を解さない上特殊能力もないゴブリンということになっていた。
結構な誤魔化し方だが、まあそういうことらしい。俺だってはじめてその記事を見た時は「酷いな……」と口から出ていた。
一旦ゴブリンの反応を観察し、それから危険と判断し殺したということに世間一般の認識ではなっている。真実がどうであれ俺自身に実害がない方向になったようで運が良かったと言えよう。
閑話休題。
今日はハリーさんは欠勤(というか本業)をしているのでいないし、ギークも今日はいないようである。
日課のようにギルドに来て日課をこなしていったたのだが、なにぶん暇ができてしまった。
くあ、と欠伸をしながら考える。
どの道暇ができてしまったので、ゆくゆく行きたいと思っていた魔法屋に足を運ぶことにした。
流石の俺といえどおおよその土地勘はつかめてきたのでギルドのそばにある店にまで行くのに迷うはずもなく、その戸を開けることに成功した。
まず鼻についたのは謎のお香の匂い。
そして魔石を用いているらしき道具や多数の書籍が目に入った。
今日は冷やかしのつもりなのでそそくさと見て回り、平置きされていた適当な魔術理論書に目を通す。
「……えっ?」
なんだこれ。
かっ……簡単すぎる。
どうやら相当簡略化された魔法書のようだ。きっと入門者用なんだろう。
もう少し専門的な本はないのか?
パタリと閉じる。
『これが分かれば教えることなし! 魔術理論皆伝』
……アッ、ソウデスカ。
どうやら俺が今まで勉強していた本は相当なものだったらしい。そんなものを持っている宿屋の女将さんってどうよとは思う訳だが、一度見ただけでも凄いと思えるようなあの技術ならば仕方ないのかもしれない。
とにかく、単に冷やかすのみというのも心地が悪いので適当な本を選び、カウンターへと持って行く。
この世界では紙の価値があまり高くないらしく、俺の持ち合わせで十分買うことができた。
当然知っていることの本などあっても仕方ないので、『魔言のコツ 登録方法から応用まで』という本を購入。
この魔言ってやつがいまいちまだよくわかんないんだよな。
店を出て、それからずっとほっつき歩いているのもなんだかなぁと思うので帰宅しようと思い立った。
何より多分俺なら街で遭難する自信がある。結局二宮金次郎みたいにさっき買った本を読みながらいつもの近道を通って帰ることにした。
途中すれ違ったのはガチャガチャとせわしなく走り去る騎士――鎧の型が召喚された時に見た時と酷似しているのですぐわかったのだが、果たして何かあったのだろうか。
まあ、大方俺には関係のないことであろうが、物騒だな……
どの世の中でも警察さんは忙しいらしい。
さて、それで魔言とはという話だが、これは簡単にいってしまえばステータス上の『スキル』を発動するためのトリガーのようなものである。
例えば剣士のスキルに【スラッシュ】があるが、あれらは魔言にあらかじめ記録した動作を再生しているというわけだ。
基本的に魔言を唱えると体が勝手に動くという認識でいいだろう。
……思いっきり今買った本の受け売りだけどね。
宿のそばのいつも練習している広場に着いたので、早速いろいろと試してみよう。
「魔言登録開始」
こうして動作の記録が開始される。
例えば地面に生えている草を剃刀で採る動作を登録してみよう。
「魔言登録終了」
その後にステータスを開き、今の動作に名前をつければいい訳だ。
適当に【採集】とでもしておく。そうすれば
「【採集】」
こうした時に、勝手に体が動いて足元の草を刈ろうとし――空振った。
そりゃあテープレコーダーみたいに同じ場所を同じように刈ろうとすれば空振る。これについては熟練度なるものを上げればある程度制御はできるらしい。
少し魔力は減るが、いつでも同じ動作ができるのは特に戦闘時には役立つ。
そうでなくとも料理やら洗濯やらでも応用が利くし、ステータスと並んで原理がさっぱりわからないシリーズ第二弾だが十二分に有効活用させてもらおう。
[ 大村 三郎 Lv.7
筋:8
魔:10
抗:5
技:11
スキル:採集、着火、湧水、刺突、撫斬
魔術適正:火、水
チート:延爪、燃費下落
ギフト:チート取得]
……ネーミングの凡庸さには触れないお約束。まあ、わかりやすい方がとっさに使いやすいだろう。
ともあれ、少しステータスが賑やかになった。大学浪人を経験した俺にとって、空欄があるのはやっぱり気分がいいものじゃないのでこれは嬉しい。
また一つ、強くなった気がした。




