羅生門
「この形跡は、魔力爆発か?」
ひとしきり叫んだ俺は、勝手に爆発した屍を解析しながら呟く。
延ばした爪は剃刀で切り取って、つけていたポーチから薬用ポーションを取り出し、包帯に染み込ませて指に巻いてある。
あまり良いポーションでは無いが、ある程度の効果は期待できるはずだ。
で、魔力爆発とはなんぞや? というと、すごくざっくり説明すればそれはこの世界における自然現象だ。
この世界の魔法属性はそのものにも相性があり、火と水、風と地、光と闇が反発しあっている。
それが混ざるとどうなるか? はい、物凄い斥力が発生します。
その斥力が魔力爆発と呼ばれるものだ。
発生するメカニズムは解明されているが、全く事前予測が出来ない自然現象だ。一説によると強力な魔法が発動した時に周囲の魔力が乱れ、それによって発生するのでは、とか言われている。
まあ、俺の運が良かった、ということだ。
剣を拾って、魔石を探すために肉をほじる。
草原で薬草を採っていた時に襲ってきたゴブリンで何回かハリーさんに解剖をやらされたので、ある程度は耐性がついた。
最初にやった時は これなんて拷問? って思ったが、もう慣れた。慣れてしまった。
オークの素材はよくわからないが、皮や骨、牙などのなんとなく高く売れそうな印象の部位は切り出していく。
お世辞にも上手いとは言えないが、なんとか切り出すことに成功した。
こういった残った肉は魔物の成長を促進してしまうようなので、土に埋めてしまう。
道は覚えていないが、多分帰れる、はずだ。
オークに出会ったら人生終わるが、今日の俺は本当にツイてるのか、オークどころか生物一つにすら出くわさずに森を抜け出ることに成功した。
まさに奇跡だろう。
いつものように、夕暮れ時に街に帰還した。
一か月過ごした街だ。俺は今、モーレツに感動している。
ギルドに立ち寄って、今背負っている状態のオークの素材を売っぱらってしまおう、と思い、通行の邪魔になっていた体を再び動かしていった。
◆
「お、おまぇ…… 生きてたのか!」
気持ちよくギルドで酒を呑んでいた男は、それこそ幽霊でも見たかのような顔で俺を見る。
「よ、よかったな! あんなのから逃げられるとは思ってなくってよぉ」
……ダメだこいつ。
あからさまに動揺している。見捨てる気だったのは子供でもわかるだろうに。
だいたい、一人も増援なんてきてなかったぞ? あそこで本当に運よく魔力爆発が起こらなかったら俺どころかこの街の人の命も危ぶまれたんだよ。
この男はそれがわかって酒を呑んでいたのか?
そんな駄目人間の眼は、俺の背負っていた毛皮を見ると色が変わった。
「お前、そ、それはあのオークの毛皮か?」
食らいつくように毛皮を見ている男。
彼は何かを思いついたような顔をして、再びその口を開く。
「おい、それは俺のものだろう? パーティーメンバーの取得物はまずパーティー内で最もレベルの高い俺に渡されるべきだ。その毛皮は俺が貰う権利――いや、義務がある!」
いや ねえよそんな規約。
どう考えても今でっち上げた、某アニメのガキ大将と同じ理論じゃないか。
暇つぶしに熟読したから規約は丸わかりだ。物を買った後は取説を読む派の俺にとっては造作もないことだった。
溜息をつきたくなったが、我慢する。
こういった場面ではおそらく逆効果だろう。
「おい、とっとと渡せ! 渡さねえと、これだぞ?」
そう言い、腰の剣に手を掛ける男。
俺は「冒険者同士は戦闘行為及びその他の妨害行為を行ってはならない」という規約を知っているので、余裕綽々といった具合だ。流石にギルド内での狼藉は職員も見過ごせはしないだろう。
ただ、もし俺がギルドの外に出た時には、どうなるか分かったものではないが。
不快を噛み殺して、毛皮を男に渡してしまう。
金と命を天秤にかけたら、今は、命に傾く。
厄介だなと思いつつ、内心ではほくそ笑んでいる俺。
毛皮なんて一応取ってきたものの実際、比較的何の付加価値のない唯の血濡れたかさばる何かだ。
変異種の体の一部ということで、ある程度の魔力適正はあると思うが、せいぜいその程度。一部のコレクターが欲しがるくらいだろう。
それにひきかえ――
魔石。こいつはいい収穫だ。
でかいものを渡して小さいものから目を逸らさせる。政治家なんかがよく使うやり口だ。
思わず黒い笑みがこぼれそうになる。
そそくさとその場を立ち去る俺。
レベルも上がったみたいだし、楽しみな話だ。
依頼の報告をちゃっちゃと済ませ、やや時間は早いがレベルが上がった検証の為にも、宿に帰ってしまおう。
最近では慣れてきたというか、目新しいものもなくなってきたので、道に迷うことも30パーセントくらいの確率でしかなくなった。
ふむ、いい傾向だと思いつつ俺は荷物を宿の部屋に置き、いつもの広場に赴くことにした。




