水の子守謳 ‐‐六‐‐
「つまりそれは…どうゆう……。」
命の問いかけに 蓮仙が口を開こうとした時
「親方さまー!!若様ーー!!」
声を荒げ 幸がこちらへ駆けてきた。
「どうした幸。」
花仙は持っていた草履を懐に仕舞い込んで幸の方へと振り返る。
その様子に命は少し違和感を感じた。
「…がッ…想が!帰ってきたのです!!」
今にも泣き出しそうな笑顔を浮かべる幸。
「想が…?」
「はいッ!たった今…!今屋敷で食事をしています、お腹を空かしていたようで…。
親方様、若様。早く会ってあげて下さいませ。」
幸はせかすように花仙の手を引き屋敷へと向かった。
その後を追うように蓮仙も命も屋敷に向かう。
食間へ付くと 中からはガツガツとした音が聞こえる。
「想!親方様と、若様がいらしてくれたわよ!」
襖を開けると 幸の声に反応もせず 目の前に並べられたご馳走に
必死で喰らいつく少年の姿。
「想…か。」
花仙の言葉にようやく反応し顔を上げた。
「花仙さまッ!蓮仙さまッ!お久しゅうございます!!」
嬉しそうにニッコリと笑う少年。
真っ白の短髪に 碧い瞳。
「ああ…久しいな。まさか無事でおったとは…。」
「はい!自分でも驚いておりまする!母さん!おかわりを!」
そう言って椀を差し出す想に嬉しそうに飯を盛る幸。
想は幸の一人息子。
「おい。じじい。どうなってる?」
再びガツガツと食事を始めた想と隣で嬉しそうにそれを眺める幸に聞こえぬよう
蓮仙はちいさく耳打ちする。
花仙は蓮仙と命を食間から連れ出し庭へと出た。
「…儂にもわからん…。が、確かにあれは想…。少し大きくなっているが間違いない。幸の息子だ。」
「どーゆう事だよ?」
「あ、あの!蓮仙様に花仙様…!さっきから一体何を言っているでありんすか?」
蓮仙と花仙のやり取りに全く追いて行けない命。
「ああ…。あの餓鬼はな。幸の息子なんだ。」
「はい…。其れは分かるでありんす…。それが何かおかしいでありんすか?」
「…想は天地大戦時に死んだんだ。死んだはずだった。」
「…え?」
村の向こう側に見える瓦礫の山を見つめる蓮仙の髪が小さく揺れた。
『血生臭い餓鬼が紛れ込んだようだな。』
池に浸かって居眠りをしていた天悟丸の視線は食間へと向けられた。
そのまま体を静かに起こし、鋭い瞳を光らせた。
「…骸池へ向かう。命、天悟丸、行くぞ。」
そう言うと蓮仙は踵を返し歩き出した。
「あ、はいでありんす!」
ピョンピョンと命も後ろから付いて行く。
『老人、貴様はあの餓鬼を見張っているがいい。気を抜けば頭ごと食いちぎられるぞ。』
欠伸をしながら天悟丸も後に続く。
「…全く、誰に物をゆうておるんだか…。」
骸池へ向かう一人と二匹の背中を眺めながら 花仙はお決まりのため息を付いた。
生温かい風が頬擽り 世界がこれまでとは違う匂いに支配されつつあると。
そう感じているのは 人だけではないであろう。




