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-鬼仙歌(おうせんか)-  作者: 神楽 桜
3/21

水の子守謳  ‐‐弐‐‐

襖を開けると こちらに背を向け一人酒をあおりながら

これでもかとゆう存在感を放ち、胡坐をかいて座っている人影。


「はあ~!此処の酒はうまいのう~!のう?花仙。」

クルリと振り返ったその姿を見て

命は思わず声を上げる。


「…婆様ではないでありんす!綺麗な…女の子でありんす…。」

あんぐりと口を開け驚く命。


「なんじゃ?その女子は蓮仙の式神か?」

酒を置き 立ち上がったその容姿は

婆などとは程遠く 

珠の肌に 綺麗に流れる一つに束ねられた黒髪。

しなやかなくびれに 少し控えめな胸のふくらみ。


どこからどう見ても 少女である。


未だ状況を掴めない命に花仙も蓮仙も苦笑する。


「命。婆はああ見えても儂よりも遥かに年上ぞ。」


「えええ!?」

花仙の言葉にますます驚愕し、目をくりくりさせる。


「じじい。ややこしい言い方すんな、余計混乱するだろう。」

呆れた様子で蓮仙がため息をつく。



「無理もない。式神よ、わしゃの名は夜神(よみ) 麟仙(りんぜん)。1000年続く夜神家の初代当主じゃ。数えるなら今年で齢1059歳よの。」

目の前で大口を開けガハハと笑う少女の言葉に命の頭はもう付いて行かず

プスプスと煙を出し今にも破裂しそうだった。


「…命。婆様のあの姿は“逆成長”とゆうんだ。」

蓮仙の言葉にまたも首を傾げる。

生まれてまだ5年しかたたない命には

何も理解できなくて当然なのである。


「逆成長…?」


「ああ、そうじゃ。遥か昔、海鬼埜蛇子(うみおにのみこ)にかけられた呪いよ。」


「海鬼埜蛇子…!!」


「そう、今は貴様(きさん)の右目に封じられし邪よ。のう?蓮仙よ。」

麟仙の眼が捕えた蓮仙の右目は 赤く 暗く 静かに光っていた。



「あの時、あの女を殺(と)れんかった報いよ…。この平成の世がこんな姿になったのも…。」

悲しげに窓の外を眺める麟仙の視線の先には

青々と広がる緑。せっせと畑を耕す村人の姿。

そしてその向こうに見えるは 横たわる黒く錆びついた鉄骨の塊。

所狭しと転がる瓦礫の山。

そう此処は 平成の世。2020年の日本である。

しかし、其の光景には人類の築きあげてきた文明も 堂々たる高層ビルも

車も むせ返るような人の群れも 面影など何一つありはしない。


「…仕方あるまい。天地大戦…力を持たぬ人間には只の地獄であったろう。婆が手を下していたとしても

いずれはこうなっていたのだ。」

同じく窓の外を眺めながら花仙が呟く。


「天地大戦とは数年前に起きた、人と“邪使(じゃしん)”との戦の事でありんすか?」


「そうだ。その戦で人間は敗北し、すべてを失った。」


邪使(じゃしん)其れは1000年も前から、人間の生活を脅かしてきた悪霊を言い

夜神家は其れを滅する能力、退魔の力を神から与えられし一族。


「我らの様な退魔の力を持った亡術師(ぼうじゅつし)は夜神家しかおらぬ。人類を守れなかったのは

我ら一族の罪だ。」


花仙の悲しげな顔を見て 命は思わず花仙の服を掴む。


「でもッ!花仙様も、蓮仙様も、夜神家のみんなは懸命に闘ったと幸様が言ってたでありんす!

みんなの…せいではないでありんす…。」

ついに命はしくしくと泣き出してしまった。

その様に花仙は困ったように頭を掻く。


「じじい。何泣かしてんだ。」


「ばッ!儂ではないわッ!」


「命。俺も、じじいも、まだ戦える。もう、守れなかった過去じゃなく

守る未来を見てる。見なきゃなんねえんだ。だから、泣くには早い。」


そう言い蓮仙が頭を撫でると 涙を拭いながら

命は蓮仙の胸に擦り寄る。耳をピコピコさせながら。



「ふふふ。蓮仙も変態じゃのう。流石、花仙の子じゃ。」


「殺すぞ。ババア。ところで、何か用があって来たんだろう?」

麟仙は今は日本中を放浪しながら生活している。

そしてたまに思い出したように此処に立ち寄るが

今回は用があっての事らしい。


「おう。そうじゃった。此れを見ろ。」

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