水の子守謳 ‐‐十四‐‐
蓮仙に言われるまま 陣の最前線へとでた幸は
吹き荒れる重苦しい空気に 息苦しさを感じながらも
眼を逸らす事無く もがき苦しむ空残獄を見つめる。
「想……。」
ポツリ、そう呟くと
苦しんでいた空残獄はピタリ動きを止めた。
そして 顔を上げたその瞳は 透き通る碧。
「想ッ…!!」
幸の眼からはポロポロと大粒の涙がこぼれる。
蓮仙のしいた陣の中で 幸を見つめるのは確かに
あの醜い化け物ではなく 想だった。
「母さん…ごめんね?僕はまた母さんを悲しませている。」
天地大戦のあの日。邪使に囚われ悪しき実を食べさせられ
僕の体は朽ちた。あの池に沈んだ僕を想い 絶望と悲しみを抱え
何度もあの池に母さんが来た事を僕は 知ってるよ。
この朽ちた魂まで 喰いつくされる前に
もう一度 母さんに会いたかった。
そして伝えたかった。
“僕の事は忘れて”ただそれだけ。
僕を守れなかった事を今も後悔してる母さんに。
「でも…僕も先へ行くよ。だから母さんも、僕を置いて生きて。」
「想ッ…。」
幸が陣の中へと手を伸ばそうとした瞬間。
陣を激しい炎が取り囲む。
バチ…バチッ
「時間だ。」
そう呟くと 蓮仙は再び卍を唱え始める。
ゴアッ 炎はますます増大し、想の姿は見えなくなる。
チラチラと炎の隙間から覗く碧。
願っている 願っている ただひたすらに
貴女の 幸せを 強く願う
どうか 泣かないで どうか 悲しまないで
貴女の為なら 僕は 最後の時も笑っていよう。
だから どうか 笑った顔を見せて
そして きっと 僕の事を 忘れてね。
天まで舞い上がる業火の炎に焼かれながら
うっすらと 微笑む想の姿が見えた。




