水の子守謳 ‐‐九‐‐
蓮仙達が屋敷へ戻ると 庭には麟仙の姿があった。
「戻ったか、蓮仙。」
「婆、今まで何処行ってたんだよ?」
「ああ、少し野暮用でな。ところでどうじゃった?骸池は?」
蓮仙の右目を見て 麟仙は目を細める。
「…沈められてた空残獄の封はほとんど解けていた。そして…」
蓮仙は右目を抑え 黙り込んだ。
そんな蓮仙の様子に麟仙は確信する。
こやつの右目の封も解けかけている…と。
『あの餓鬼はどこへ行った?』
天悟丸はキョロキョロと屋敷を見渡す。
「幸の部屋で寝ておるわ。」
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すうすうと穏やかな寝息を立て 眠る想の顔を優しく撫でる幸。
その瞳には母親が子供へ向ける愛しさと
僅かに 戸惑いの色が滲んでいた。
「想…なのよね…。母さん…喜んでいいのよね…?あなたが生きててくれた事…。」
不安とこみ上げる愛しさ。
真っ白の髪を細い指でとく。
「なら…今度は必ず、守ってみせるからね…?」
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「あの餓鬼は本当に想だと思うか?」
蓮仙の言葉に麟仙も命も目を見開く。
「…確かに。生きているはずはないからのぉ。じゃが…」
皆思うは幸の事。
我が子が生きていて嬉しい母の心を壊すような事はしたくないと。
「想は天地大戦時、母殺しの実を喰わされ、その邪気に体が負けて喉が裂け、骸池へ捨てられた。」
話を聞いて命はきゅっと目を閉じる。
ふるふると肩を震わせ、天悟丸の首元へと顔を押し付ける。
命の心を察し、天悟丸は命の頬をペロリ舐め上げる。
「…想が姿を現した事と、空残獄の解放。そして貴様の右目の封が弱まっている事…。
あの邪がまたこの世に蘇らんとしておるようだな。」
海鬼埜蛇子が再び この世界を血に染めんと
蓮仙の右目の中で 鎖をひとつひとつ 掻き切っている。
そう その感覚を蓮仙も確かに感じていた。
懐の刀を眺め 蓮仙はめんどくさそうにため息を付く。
「それでも 俺はこの右目が腐り堕ちても あの女を此処から出すわけには行かない。」




