第81話 濃くなる空
(リュート視点)
冬期休暇が明けた。
四年生全員が一つの教室に集められ、エーレンバルト先生から卒業試験の概要説明が行われた。試験期間、場所、大まかな規則。班構成は自由で、一班四人編成、合計十班——その場で決めるように指示が出た。
俺とアリシアとクラリスは、特に話し合わなかった。目が合えば決まるような関係になっていた。その自然さが、どこか心地よかった。
「あと一人だね」
アリシアが周囲を見回した。
教室の中では、あちこちで声が飛び交っていた。ラインハルトはすでに三人の傍に立っていた。ヘルムート、カスパー、イネス——声をかけるまでもなく、その四人の班は自然にまとまっていた。
そんな空気の中で、ユリウスが近づいてきた。
「一緒に組ませてもらえるか?」
ユリウスの顔を見た。自然な顔だった。拒まれることを気にしている様子は、どこにも見えなかった。まるで最初からそこにいるのが当然だったかのような顔だった。
「ああ。よろしく頼む」
クラリスが「やった!」と声を上げた。アリシアが静かに頷いた。ユリウスは語らなかった。
――――――
一週間後。学院の正門前に四年生四十名が集合した。
冬の終わりが近づく王都。それでも朝の冷え込みはまだ厳しく、石畳に霜の名残が見えた。馬車が六台並んでいた。一ヶ月の行程に必要な荷物が積まれていた。
エーレンバルト先生が全員に向かって立った。
「先週も説明したが、目的地は王国東部の森林地帯。片道およそ二週間。現地での滞在は六泊七日だ。試験内容の詳細は現地で説明する。移動中も班行動を基本とする」
一拍置いて、続けた。
「移動中に怪我をしないこと。班から離れないこと。それだけは守れ」
「それでは出発する」
その声が、空気を切り裂いたように響き、列が動き出した。馬車に乗り込む生徒たちの様子は、それぞれ違っていた。背筋を伸ばして歩く者、隣の班員と肩を並べて話しながら向かう者、どこか遠くを見たまま黙って歩く者。四十人がそれぞれの速度で馬車へ向かっていた。
俺たちもその流れに続いて、馬車へ乗り込んだ。
――――――
移動途中の休憩で馬車を降りると、冷えた空気が頬を打った。各自が体を伸ばし、水を飲んでいた。
ユリウスが馬車から降りるなり、別の方向へ歩いていくのが見えた。
別の班の馬車のそばに、エリンがいた。ユリウスが近づいていくのを、俺は少し離れたところから見ていた。エリンがユリウスへ振り返った。栗色のセミロングが冬の光の中でわずかに明るく見えた。
二人は短く言葉を交わしていた。その距離感が、妙に自然に見えた。
***
(ユリウス視点)
僕は、カーヴェルの前に立った。
馬車の列の外れで、大半の生徒がまだ馬車の傍にいた。少し離れた場所だった。
言葉を発するまでに、ほんの一瞬だけ息を整えた。
「学院に戻ったら、もう一度戦ってほしい。今度は負けない」
カーヴェルがしばらく顔を見てきた。灰赤色の瞳が確かめるようだった。やがて首元のペンダントに手が触れた。古い金属製で、細い三日月の形をしたそれを、無意識に指で押さえる動作だった。
「……わかったよ。学院に戻ったら、ね」
大会の時の不敵な笑みではなかった。どこか静かな笑みだった。
短く頷いて、その場を離れた。
――――――
(リュート視点)
馬車に戻り、移動が再開された。
「ユリウスって、エリンに何しに行ったんだろうね」
アリシアが窓の外を見ながら言った。
「さあな」
ユリウスがエリンの方へ歩いていった。その背中を見た瞬間、胸の奥で小さく何かが動いた。——ああ、そういうことか、と。言葉にするほどのことでもなかった。
窓から空を見た。冬の空は低く、灰色がかっていた。精霊のざわめきが、静かだった。
移動を続けるにつれて、精霊のざわめきの質が少しずつ変わっていった。
王都を出た頃は静かだった。しかし、道が進むにつれて、その静けさが別の色を帯び始めた。「静寂」から——前方へ引かれていくように変わっていった。精霊たちの意識が、まだ見えない何かへ向かっている——そんな感触だった。
何を感じているのかは、今はわからなかった。
冬枯れの木々が、馬車の窓の外を流れていく。王都が遠ざかるにつれて、空の色が少しずつ濃くなっていった。




