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隔絶した世界に転生した親友と  作者: まーくん
青年期ーリュート編ー

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第64話 炎の中の石

(アリシア視点)


 次の日、言われた時間より早く、昨日の場所にやってきた。


 朝、リュートとクラリスには「しばらく一人で練習する」と伝えた。二人は少し心配するような顔をしていたが、「わかった」と言ってくれた。


 外に出ると、冷たい空気が頬に当たった。今日は特に冷えていた。息が白く出た。それでも足が止まらなかった。


 あの声の人は姿を現さないから、来ているかどうかはわからない。それでも、きっと来てくれると思い、昨日のことを思い出しながら先に練習を始めた。


 少しして、声がした。


「早いわね」

「楽しみで」笑顔で答えた。

「そう」声が少し柔らかくなった気がした。「始める前に、まずは、あなたの目標を教えて」

「二重発動——二つの精霊術をまったく同時に発動できるようになることです」

「わかったわ。じゃあ、始めるわよ」

「はい!よろしくお願いします!」


「はじめに、あなたは二重発動するとき、どうイメージしている?」

「二つの精霊術を両方とも発動させるようにイメージしています」

「そうね。それは昨日見ていてわかったわ」声が続いた。

「けれど、二つの精霊術のイメージを交互に行っていたわ。それではダメ。交互にイメージするのでは、必ず発現のときに時間差が生まれるの。だから、二つの精霊術ではあるけれど、一つの精霊術の形としてイメージしないといけないわ」


 なるほど、と思った。そんなことは考えてもいなかった。


「質問してもいいですか?」

「どうぞ」

「どうして、そんなことを知っているんですか?あと、どうして昨日見ただけで、交互にイメージしていたことがわかったんですか?」

「知らなかったら教えられないでしょう。それと、交互にイメージしているのは精霊の反応を見ればわかるわよ」


 知らなかったら教えられない——少しだけずらした答え。きっと、教えられない事情があるのだろう。そう思うことにした。


 それに、精霊の反応を見ればわかる——精霊の動きが見えるから、私が何をしているかが外からわかるのだ。この人には、私よりもずっと、はっきりと精霊が見えているのだ。


「もう大丈夫かしら。じゃあ、やってみて。発現はさせなくていいから、発動させるイメージをしっかり思い描くこと」


 イメージする。二つの精霊術が一つの精霊術——。


 しばらく続けた。


「まだ交互にイメージしてるわね」


 言葉ではわかる。でもやってみると、難しかった。繰り返した。繰り返すほどに、自分が交互にしているということはわかるのに、一つにする感覚がつかめなかった。


「そうね……」


 少しの間があった後、続きが聞こえた。


「落ち葉や枯れ枝を集めて。あと、小石も少し」


 よくわからなかったけれど、言う通りに集めた。


「集めたら、落ち葉と枯れ枝に火をつけて」


 精霊術で火をつけた。なんとなくわかってきた。


「じゃあその中に小石を入れて」


 小石を入れた。そういうことか、と思った。


「今見えている様子を精霊術でイメージして」


 炎の中の小石をイメージした。


「そういうことよ」という声が聞こえた。

「そのまま続けて」


 返事をする余裕はなかった。返事をすると、イメージが崩れる気がした。


 炎と、その中にある小石。二つではなく、一つの光景として。


 目を閉じてイメージすると、炎が先に起こり、小石が後から起こった。順番があった。一つの光景ではなかった。


 目を開けて、実物を見た。炎の中に小石がある。同時に、そこにある。


 その状態のまま、目を閉じた。


 少しずつ、できるようになってきた。


 日が傾く頃には、炎の中の小石がなくても、そのイメージができるようになっていた。


「今日はこのくらいね」


 やっと息を吐いた。


「はい」と答えてから、続けた。

「あの、名前を聞いてもいいですか?私はアリシア・ブランデルといいます」


 少しの沈黙があった。


「知っているわ。私のことは、ただ「先生」と呼べばいいわ」


 名前は教えてもらえなかった。姿を見せないことから、なんとなくそうだとは思っていた。でも「先生」という呼び名は教えてくれた。私の名前は知っていた。


 やっぱり何か事情がある。今は教えてくれるだけでいい、と思った。


「はい、先生。また明日よろしくお願いします」


 深く頭を下げて、寮へ戻った。


 明日はどんなことを教えてもらえるのか。寮に戻ったらイメージの復習をしよう。もっとできるようになれば、きっと、もっと楽しくなる。


 寮の自室に戻ってからも、目を閉じると炎の中の小石が浮かんだ。

 

 暗い部屋の中で、その感覚を確かめながら、やがて眠りに落ちた。


――――――


 二日目。午後の光が木々の間から差し込んでいた。


 場所に着くと、先生はもう来ていたようで、すぐに声をかけられた。


「今日も早いわね」少し声が高かった気がした。

「先生のほうが早いですよ」と返した。

「そうね」少し笑い声混じりに聞こえた。

「じゃあ、始めるわよ。準備はいい?」

「はい!」


「今日からはバランスを調整するわよ。昨日できたのは、一つの精霊術としてのイメージ。でも実際には二つの精霊術を発動させるのはわかるわね?」

「わかります。それが目的ですから」

「そうね。正確には『同時』に発動させること。そこで大事なのが、発動と感応それぞれの意識のバランスよ」

「意識のバランス……」自然と声に出して繰り返した。

「そう。一つの精霊術の形でないと発動に時間差が生まれると教えたけど、意識のバランスも同じ。バランスが崩れても時間差が生じるの」


 また驚かされた。先生はどこまで知っているのだろう。


「バランスは均等にすること。どちらが強くてもダメ。発動と感応どちらも同じよ」


 発動と感応、その二つの意識のバランスを均等にするとはどういう感覚なんだろう。

 

「まずは発動からね。昨日と同じように一つの精霊術の形でイメージして、それを二つの精霊それぞれと対話する。均等にね。じゃあ、やってみて」


 いきなりだった。でもどうすれば、と思いながら、まず試してみることにした。


 きっと先生には考えがある。だから、やってみる。


 炎の中の小石をイメージする。それを火の精霊と土の精霊に投げかける。均等を意識する。


「火の方が強いわね。もう少し抑えて」


 バランスが、見えている。先生にはそれが見えるから、調整できるのか。


「余計なことを考えない。乱れているわよ」


 それもわかるの、と静かに衝撃を受けた。


 落ち着いて、火の方を少し抑える。土の精霊に意識を向ける。


「今度は土の方が強くなったわね。少しずつ意識を火の方へ」


「火の方が強くなったわ」


「いい、これだけは近道はないわ。何度も繰り返して、体で、感覚で覚えるしかないの。これができていないまま次に進むとそこでつまずくわ。だから、確実に意識しなくてもできるようになるまで、ひたすら繰り返すわよ」


 心の中で深く頷きながら、意識を集中させた。


 気がつくと、日が暮れていた。


 今日は意識のバランスが取れなかった。


 先生は「明日もよ」と言った。先生がバランスを見てくれている。今どうかを教えてくれる。だから、まだ続けられる。


 これを自分たちだけでやろうとしていたなんて。先生と出会えて本当によかった。


 先生みたいにバランスは見れないけれど、寮に帰ったら傾きをなだらかにする練習をしよう。傾きを小さくすれば、先生も調整しやすくなるはず。


 寮に戻る道すがら、ふと立ち止まった。


 先生は、精霊の反応を外から見ていた。それだけで、私が何をしているかが、はっきりわかっていた。


 どこで、どうやって、そんなことができるようになったのだろう。


 その問いはそのままにして、また歩き出した。


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