表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
隔絶した世界に転生した親友と  作者: まーくん
青年期ーリュート編ー

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

63/78

第61話 もう一歩の先

(アリシア視点)


 冬期休暇に入って五日が経っていた。


 大半の生徒が領へ帰った学院は廊下まで静かで、足音がよく響いた。石畳の冷たさが靴の底から伝わってくる。窓の外には昨夜降ったとおぼしき薄い雪が残り、冬の低い光を鈍く照り返していた。


 午後の早い時間に、いつもの場所へ向かった。授業がない分、朝は少しだけゆっくり眠れた。それでも気づけば制服に手を伸ばしていた。


 今年は、クラリスも帰省しなかった。ラントベルク領はグランツィリアから比較的近い。一ヶ月程度の冬期休暇であれば、十分な帰省期間が取れる。それでもクラリスは残ることを選んだ。精霊を感知する練習を続けたい、と言った。


 その言葉が、素直に嬉しかった。


 いつもの場所は、葉を落とした木々の間から空が広く見えた。霜の降りた地面は朝の光を受けて白く光り、歩くたびに枯れ草の茎が静かに折れた。一月の光は低く、影が長かった。冬の間中よく聴こえる風の音も、今日は遠かった。


 場所に着くと、リュートとクラリスはすでに来ていた。それぞれ静かに、それぞれの集中の中にいた。リュートは少し離れたところで精霊術を試みていた。クラリスは木の根に腰を落ち着け、目を閉じていた。


「おはよう」


 小さく言うと、リュートが振り返った。「おはよう」と短く返してきた。クラリスはほんの少し遅れて、瞼をゆっくり開けた。「おはよう、アリシア」——その声には、眠気とは違う遠さがあった。深く集中していた、そういう遠さ。


 三人はそれぞれの場所に落ち着き、それぞれの練習を始めた。


 こうして続けてきて、もうすぐ一年三か月になる。


 リュートがアルトリース学院長との面談してからおよそ半年が経った。以来、私とリュートはずっと二重発動の練習を積み上げてきた。


 詠唱による精霊術を持たない私たちには、「不自然な間」を自覚する手段がなかった。クラリスも手伝ってくれて、三人で試行錯誤して、まず「二つの精霊術を同時に発動させる」という基礎から始めることにした。


 最初はまったくできなかった。意識すると、二つどころか一つも発動しなかった。何がいけないのかだれにもわからなかった。


 ある日、クラリスが「アルトリース学院長に相談しない?」と提案した。


 リュートは「自分たちでできるようになるほうが楽しいだろ」と笑って返した。リュートらしかった。その気持はわからなくはなかった。でも、時間がかかりすぎるのでは、という不安もあった。


 結局、当面は自分たちでやろうということになった。


 今では、リュートは二つの精霊術を連続して発現できるようになっていた。ただ、目で見ても「同時」とは言い難いズレがあった。私は一つ目の精霊術は発現した。二つ目は——精霊が反応している手応えはあった。なのに発現には至らないかった。何かが、もう一歩のところで止まっていた。


 今日も、その「もう一歩」を探した。


 一つ目の精霊術を安定させる。そのまま二つ目の精霊術へ意識を向ける。精霊が反応する。感じる。届いている、はずなのに——そこで止まる。これを繰り返した。


 何がいけないのかわからなかった。意識が足りないのか。お願いの仕方が足りないのか。どちらを試しても、変わらなかった。


 少し離れたところで、リュートが同じように繰り返しているのが見えた。二つの精霊術が、時間差はあれど発現していた。


 クラリスの方に視線を向けた。


 クラリスはそっと目を閉じていた。ただ待っているのではない。感じようとしているのとも少し違った。何かを、すでに知っているかのような静けさで、そこにいた。


 アリシアはしばらくその横顔を見つめた。


 一年三か月で、クラリスは発動の一歩手前まで来ていた。アリシアが同じ段階に辿り着くまで、二年は掛かった。


 嬉しかった。クラリスの成長は、純粋に嬉しかった。


 目を戻して、また始めた。一つ目の精霊術を安定させる。二つ目へ意識を向ける。精霊が反応する。そこで、止まる。


 気づけば日が傾き始めていた。ここまでにして、三人は寮へ向かった。


 帰り道、歩きながら自分の手を見た。


 後少し、という感触だけが指の先に残っていた。それが嬉しいのか、もどかしいのか、自分でもわからないまま、足を進めた。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ