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隔絶した世界に転生した親友と  作者: まーくん
青年期ーリュート編ー

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第60話 手の先に

(アリシア視点)


 ユリウスがリュートを呼び止めた後、クラリスと一緒にいつもの場所へ来ていた。


「ユリウス君、変わったよね」とクラリスが言った。

「そうだね」と短く返した。


 変わった、というクラリスの言葉は間違っていなかった。ただ、どこがどう変わったのかをクラリスに説明するには、春季休暇の話から始めなければいけなかった。口を少し開いて、どこから話すかを探したが、すぐには出てこなかった。そのまま閉じた。


「さっ、練習始めよう」とクラリスに告げた。

「うん」と返ってきた。


 クラリスはその場に座り、そっと目を閉じた。


 いつものように、火の精霊にクラリスに近づくようにお願いした。


 クラリスはまだ目を閉じていた。その姿は、いつもより少し静かだった。集中している、というより、何かを待っているような静けさだった。


「……温かい」


 クラリスが小さく呟いた。


「この辺に……何かいる、気がする。気のせいかな?」目を閉じたまま、手を体の右側で円を描くように動かしながら言った。


 確認してみると確かに、小さな火の精霊がクラリスの手が辿った辺りにいた。


「いるわよ。クラリスが感じたの、正しいわ」


 クラリスが目を開けた。最初、何も言わなかった。瞬きを一度してから、また瞬きをした。嬉しいとも安堵とも違う、何かが解けていくような表情だった。ずっと信じようとしていたことが、やっと本当のことになったときの顔だった。


 喉が動いた。言葉を探したが、何も出てこなかった。


 クラリスに飛びついて喜んだ。


 クラリスは最初、されるがままになっていた。それから、ゆっくりと手が上がってきて、背中に触れた。力は弱かった。でも、離そうとはしなかった。


 少しして、クラリスがそっと体を離した。また目を閉じて、続きを感じようとし始めた。今度は、さっきより呼吸が深かった。


 その隣に座って考えた。


 クラリスが精霊を感じられるようになるのが早い。


 特別講義の前日は、精霊に腕を触ってもらったりして、感じやすくしてもらった上でようやくできた。しかし今日はただ近づいてもらっただけだった。積極的に感じられるようにしてもらってはいなかった。


 精霊契約をしていると感じにくいのかと、なんとなく思っていた。でも違った。精霊契約をしていても、感じられるようになった。


 それが何を意味するのかはわからなかった。わからないまま、忘れないでおこうと思った。


 子どもの頃を思い返した。


 最初は何も感じなかった。リュートに土の上位精霊の人形を見せてもらって初めて、精霊がいるということを意識できた。そのあとは、リュートにお願いして、精霊を感じられるように手伝ってもらった。


 今日のクラリスと同じくらい感じられるようになるまで、一年以上かかった。


 でも、クラリスは八ヶ月くらいで感じられるようになった。


 ただ、「すごいな」と感じていた。そして、今の自分も、あの頃よりずっとできるようになっている——ということにも気づいた。クラリスの変化を目の前で見ることで、自分の歩みが見えた気がした。


――――――


 暗くなってきた頃、遠くでリュートが歩いてくるのが見えた。


 いつもと少し歩き方が違った。何かを整理しながら歩いているような、どこか内側を向いている足取りだった。


 ちらりとクラリスの周りの精霊に目をやり、すぐにクラリスに視線を移した。


「もう少しだけ続けよっか」と言った。


 リュートに何があったかは後で聞けばいい。今はクラリスのそばにいる方が大事だった。


 クラリスが目を閉じた後、自分の両手を見た。


 精霊に頼むとき、最初は、リュートに体の動きを入れてみたらどうかと言われて、何となく手を出してみただけだった。でも、それがいつの間にか、自分のやり方になっていた。手を出さないと、始まらない気がした。


 精霊が触れてくれた感触が、手のどこかに残っている気がするときがあった。練習が終わった直後は確かにそこにある。でも、時間が経つにつれて薄れていく。その度に、何かが足りないという感触だけが残っていた。


 「もっと」、という思いが、言葉になる前のところで静かに在った。何に向かっている「もっと」なのか、自分ではまだわからなかった。ただ、両手を見ていた。


 少しして、三人が、また揃った。そのときはもう、手は見ていなかった。


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