第54話 呼び出し
(リュート視点)
ユリウスが話しに来てから約一ヶ月後、二年生に進級した。
ユリウスとはあれ以降、言葉を交わせていなかった。春季休暇で領地に帰っていたらしく、寮に戻ってきたのは昨日の夜だということだった。
進級に合わせて訓練場の修復工事も終わり、また授業で使われるようになった。外部実習の評判や効果もあり、外部実習は頻度を下げて継続されることになった。
二年生になって最初の外部実習の日、ユリウスはまだ記録係として参加していた。
その日の実習でいつものように精霊に念じてから詠唱するふりをして精霊術を発動させると、ユリウスの記録板に何かが書かれた。横から覗き込んだゲオルグ先生が、無言でその板を受け取り、何かを書き直してユリウスに返した。
ユリウスは返ってきた記録板を見て、一瞬だけ表情が止まり、視線が俺に向き、すぐに戻った。しかし何も言わなかった。自分の書いたものが消された。なぜ正確に書いてはいけないのか——という問いが顔をよぎったのが、リュートには見えた気がした。見ていないふりをしながら。
――――――
訓練場が修復されて最初の実技授業の日。
工事の痕跡がわずかに残っていたが、ほぼ元通りになっていた。いつものように精霊術を発動させると、エーレンバルト先生が近づいてきた。
「アーデン、何度言えばわかる。精霊を従えるイメージで発動させろ。それ以外の方式は認めない」
「はい、気をつけます」
エーレンバルト先生は一度俺を見てから、他の生徒のところへ移動した。
授業終了後、片付けをしていると、ラインハルトが来た。周囲にはまだ何人かの生徒が残っていた。
「アーデン、お前の精霊術は間違っている。エーレンバルト先生も、シュタイナー司教様も、そう判断している。それでもまだ改めないのか」
周囲の視線が集まった。
一呼吸分だけ、間があった。
「……改めるよう努力している」
「努力では足りない。結果を出せ」
ラインハルトはそれだけ言い、歩き去った。俺は表情を変えなかった。周囲の視線がわかった。それでも変えなかった。
――――――
(グランツィリア大聖堂)
大聖堂の一室。
ゲオルグとルーフェンが向かい合っていた。
「改善は見られませんか?」
「はい。特別講義以降も変化は見られません。外部実習でも学院内でも同様です」
「わかりました」
しばらくの沈黙。
「お越しいただきましょう。直接お話しする必要があります」
「承知いたしました。日程はいかがいたしましょうか」
「来週の終わりに。午後でよいです」
「では学院側の調整をいたします。アーデンには私から伝えます」
「よろしくお願いします」
ルーフェンはそれだけ言い、書類に視線を戻した。
――――――
(リュート視点)
授業が終わり廊下を歩いていると、エーレンバルト先生に呼び止められた。
「アーデン、少し良いか」
「はい」
エーレンバルト先生が周囲を確認してから続けた。
「八日後の午後、グランツィリア大聖堂に出向いてもらいたい。シュタイナー司教様が直接話をしたいとのことだ」
「……わかりました」
「一人で行くように。余計な者を連れていく必要はない」
そう言い置いて、エーレンバルト先生は歩き去った。「余計な者」という言葉が引っかかった。アリシアのことを言っているのだろうか。
そうだとしても、アリシアには言わない方がいい。言えば心配する。それはわかっていた。




