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隔絶した世界に転生した親友と  作者: まーくん
青年期ーリュート編ー

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第51話 統制の言葉

(リュート視点)


 特別講義の日。空は厚い雲に覆われ、わずかな隙間から日が差していた。


 続々と講堂に集まる生徒たち。俺は奥の方に一人で座った。アリシアとクラリスは少し前の方に並んで座っていた。ラインハルトは最前列に着席した。座るとき、俺の方に視線を向けたように思えた。


 やがてアルトリース学院長とエーレンバルト先生、そしてシュタイナー司教が入ってきた。


 エーレンバルト先生が全生徒を見渡しながら壇上に立ち、告げた。「グランツィリア大聖堂のシュタイナー司教様から特別に精霊と精霊術に関する講義をしていただけることになった。皆心して聞くように」俺の方に視線が来たとき、一瞬だけ止まった気がした。


 シュタイナー司教が登壇した。


「グランツィリア大聖堂司教、ルーフェン・シュタイナーです。本日は特別講義という形で、皆さんにお話しさせていただきます」


 少し間を置いてから、続けた。


「まず、精霊とは何か」


 精霊は神の御意志によって世界に遣わされた存在であり、神の秩序を体現している——その言葉を、体の奥で確かめるように聞いた。


 精霊は、何も反応しなかった。まるで聞いていないように。関係のないことが遠くで話されているような、静かな無反応だった。


 講堂のどこかから俺を意識する視線を感じていた。エーレンバルト先生が俺を見るときと同じ質の視線だった。


「ここで少し歴史を振り返ってみましょう」

「遠い昔、精霊術が今とは異なる形で使われていた時代がありました——」


 その言葉を聞いたとき、アリシアがほんの少しだけ動いた気がした。顔は見えなかった。ラインハルトは大きく一度頷いていた。


「精霊術の統制が失われた者たちが現れました。彼らは精霊を正しく扱う術を持たぬまま、大きな力を引き出そうとしました。その結果、精霊が暴走し、地域一帯を焼き、川を変え、山を崩しました——」


 そのとき——。


 精霊が揺れた、というのも正確ではない。静かだった何かが、一瞬だけ深いところで動いた。胸の奥に、重さのようなものが落ちてきた。怒りでも肯定でもなかった。もっと古い、傷のような何かだった。かつてそこに何かがあったという——残っているもの。


 シュタイナー司教が語る「統制の失敗」という解釈への反応ではない、と感じた。その出来事があった、という事実そのものへの反応のように感じられた。


 それは精霊にとっても、同じ記憶なのか。それとも——


 問いが生まれたが、言葉にはならなかった。


 そのざわめきが静かに引いた頃、シュタイナー司教の声が続いた。


「神はその惨状を憂い、教会に啓示を与えられました。精霊術に正しき形を与えよ、と。契約による精霊術がその答えでした。統制の形を定めることで、精霊の力は人々を守るものとなりました」

「だからこそ今があります。契約による精霊術は、惨禍から人々を守るために神が与えてくださった秩序です。詠唱を守ること、契約の形を守ることは、過去の悲劇を繰り返さないための、神への誠実な応答です——精霊術を学ぶ者として、この歴史を胸に刻んでほしいのです。過去の者たちが正しい形を持たなかったがゆえに、多くの命が失われました。皆さんはその過ちを繰り返さぬよう、正しき術を磨いてください」


 一拍置いてから、シュタイナー司教が生徒全体をゆっくりと見渡した。


 名指しはなかった。しかし「正しき形を持たなかった者」という言葉が誰に向けられているか——わかる者にはわかったはずだ。


「ご清聴ありがとうございました」


 拍手が起きた。立ち上がって手を打つ者もいれば、座ったままそっと手を合わせる者もいる——熱心なものもあれば、形だけのもの、どこか怪訝そうなものまで、さまざまな重さが入り混じった拍手だった。


***

(ユリウス視点)


 拍手をしながら、立ち上がった。

 

 内容は知っていることばかりだった。正しい話だと思った。思ったのに、何かが引っかかっていた。

 

 何が、とは言えなかった。ただ、すんなりとは収まらなかった。

 

 それが何なのかを考えようとしたが、すぐにやめた。今ここで考えることではない気がした。

 

 帰り支度をして、講堂を出た。


***

(リュート視点)

 

 講義が終わり、生徒たちが席を立った。俺は動かなかった。


 ラインハルトが近づいてきた。通り過ぎながら「間違った精霊術を改めろ」と言った。


 こちらを見ることなく、そのまま立ち去った。この時もまた、どこかからの視線を感じていた。


 しばらく座り続けてから、席を後にした。


――――――


 講堂を出た後、リュートは修復中の訓練場にやってきた。修復が進み、一部の区画の使用は認められていたが、人の影はなかった。中に入り、足場の影に腰を下ろした。


 あの講義は、俺に向けての警告だ——考えてみて、やはりその結論以外が出てこなかった。まぁ、そうだろうな、と思った。


 精霊が揺れたあの感触。あれがなんなのか。


 事実はあったのだろう。ただ、全てではない。何が事実だったのか、何が入れ替えられたのか——今は言葉にならなかった。今はわからなくてもいい気もした。ただ、アリシアにまで向かなければいい。


 立ち上がり、訓練場を出た。


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