第46話 事実の重さ
(精霊術学院 正門)
二週間後、今度は学術院の視察団が学院を訪れた。
視察団を代表するのはルーカスの父、学術院卿、ヴァルター・フォン・フリーデンタール伯爵だった。
「学術院卿閣下におかれましては、ご多忙の折、当学院までお越しいただき感謝申し上げます。本日の視察が実りあるものとなるよう、学院として全力で対応いたします」
ヘルミーネが一礼した。
「学院長。対応に感謝する。事実の確認と、再発防止のための状況把握が本日の目的だ。必要な情報を順に示してほしい」
ヴァルターの言葉は短く、簡潔だった。
まず訓練場に案内された。ヴァルターは手を後ろで組み、破損の状況をゆっくりと眺めた。他の視察員が確認や質問を続ける中、彼だけが動かなかった。視察員が「これで人的被害はなかったのですか」などと教師に確認している横で、ヴァルターはただ爆発の中心と壁の損傷を交互に見ていた。何かを計算しているような沈黙だった。やがて小さく、「ふむ」とだけ言い、早々に講義棟の方へ向かった。
――――――
(精霊術学院 講義棟)
聴取は教会とは逆の順番で、ユリウスから始まった。
ヴァルターが姿勢を正し、端的に告げた。
「君は精霊が暴走する直前、どのような行動を取った?」
「試験が僕の番になり、前に出ました。エーレンバルト先生が体調が悪そうだから休んでおけと言われたのを無視し、詠唱を開始しました」
俯きながら答えるユリウスを、ヴァルターは一度だけ見た。体調不良だったことは確認した、という目に見えた。
「その教師が休めと言ったのは一回か?」
「二回です。最初は大丈夫か、無理するな、と。次に、大丈夫には見えないから休め、と」
「他の教師からは何かあったか?」
「ありませんでした。少し離れていたので、気がつかなかったと思います」
「ふむ。わかった。退室して良い」
ユリウスが「え?」という顔をした。予告された十五分の半分も経っていなかった。ヴァルターはユリウスを見てはいなかった。すでに次の整理をしているような目に見えた。一礼して、ユリウスは戸惑いながら部屋を出た。
マリオンへの聴取が続いた。マリオンが当日の役割と行動を答えていくと、ヴァルターが静かに遮った。
「当該生徒の様子がおかしかったことには気づいていたか?」
「周囲の環境確認に注意を払っておりましたので、気がついていませんでした」
「気がついたのはいつか?」
「別の生徒が叫んだときでした」
それまで一定の速度で書類にペンを走らせていたヴァルターの手が、一度だけ止まった。止まったまま、次の質問まで少し間があった。
「気がついた後、どういう行動をとった?」
「申し訳ありません。あまりのことに気が動転し、何もできませんでした」
「ふむ」
それだけだった。ペンがまた動き始めた。




