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隔絶した世界に転生した親友と  作者: まーくん
青年期ーリュート編ー

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第36話 精霊術と異端

(リュート視点)


 本格的に授業が始まって、二週間が経った。


 座学の授業は、霊素に関すること、教会が定めた八精霊に関すること、詠唱の構成……様々な内容だった。知らなかった知識ばかりで、正直、座学は楽しかった。


 実技の授業は辛かった。精霊がざわめく内容がほとんどで、俺とアリシアは詠唱による精霊術が使えないため、精霊に同じような効果になるようお願いして発動させていた。詠唱はごまかすために口だけで唱えていた。精霊がそのとき楽しそうにしているのが、わかった。


 だが、この微妙な違いをエーレンバルト先生は見分けた。


「アーデン、こっちに来い」


 呼ばれて近づくと、エーレンバルト先生が言った。


「精霊術は、従えている精霊に詠唱によって術のイメージを送り、発動させるものだ。だが、お前の精霊術はなにかおかしい。なにか違うことをしていないか?」

「いえ、習った通りの詠唱をしています」

「であれば、お前の精霊術のイメージが間違っているということになる。正しく精霊術をイメージしなければ、この先やっていけなくなるぞ」


 意味がわからなかった。同じような効果は出ている。それなのに、やっていけなくなるとはどういうことか。


「この先やっていけなくなる、とはどういうことでしょうか」

「お前の精霊術は、異端と呼ばれるようになるということだ」

「それはどうしてですか?」

「教会がそう定めているからだ」


 教会が。ホフマン神官とベルクマン神父のことが頭をよぎった。あの二人は、そんなことを言うような人間には見えなかったが。


「わかったなら、もう一度やってみろ」


 もう一度、詠唱しながら精霊にお願いして精霊術を発動した。エーレンバルト先生は頭に手を当て、首を振った。


「いいか、アーデン。従えた精霊に術のイメージを送る。これは精霊に命令するということだ。お前にはそのイメージが足りない」

「ですが、エーレンバルト先生。詠唱での精霊術は、精霊が苦しそうにしています」

「精霊に感情や意思はない。それゆえに命令することが必要なのだ。これが精霊術が長く使用されてきた本質だ」


 精霊がエーレンバルト先生の発言に、拒絶の感覚を示した。俺はそれを感じながら、言葉が出てこなかった。


 そのとき、訓練場の奥で小さな破裂音がした。


 全員が音の方を向いた。一人の生徒が「すみません、詠唱は間違えていなかったと思うんですが……」と言った。


「詠唱ミスだな。気をつけろ」とエーレンバルト先生が注意した。他の生徒たちがため息をついた。


 あれは詠唱ミスじゃない。俺はそう思った。アリシアと目が合った。アリシアも同じことを考えていた。


「次回までにできるようになっておけ」とエーレンバルト先生が言い、授業を終わらせた。

 

――――――

 

 また別の日、今度はフェルウィン先生の座学だった。フェルウィン先生は詠唱以外の方法で精霊術を発動できないかを研究している先生だと聞いた。授業の内容も他とは少し違っていた。常に顔が見えないほど深くローブのフードを被っていて、話す声が少し震えていた。話しかけに行くのに、どうしてもためらいを感じる先生だった。


「今日は属性についてです」


 フェルウィン先生が言った。


「精霊術の発動には何が必要か?それは空気中に存在する霊素です。この霊素には属性があり、火・水・風・土・光・闇の六属性があるとされています。あなたたちが使用している精霊術の現象も、この六属性に帰結しています。また、霊素はその属性に関係する自然が近いほど多くなります。川の傍では水属性の霊素が多く、常に光のない地下では闇属性の霊素が多くなります。ですが、昼と夜で光と闇の霊素の量はかわらず、常に同じ程度存在します。そして、霊素が多くなれば、その属性の精霊も多くなります」


 なるほど、と思った。土の上位精霊がいたこともあるが、村は道が土でできていて、近くに森もある。だから最初に発現した精霊術が土属性だったのか。あの光が夜にできたのも、光の霊素が均等にあるためだろう。


 それより、フェルウィン先生の授業のとき、精霊が安心している感じがした。エーレンバルト先生のときとは、まったく違った。


 話を聞いてみたいと思っていた。でも、あの近づきがたい雰囲気と、震える声が、なかなかそれをためらわせた。四年あるのだから、いずれ機会もあるだろう。今はそれでいいことにした。


 授業で安心できる時間がある。今はそれだけで、十分だと思った。

 

――――――

(精霊術学院 生徒会室)

 

 二人の人物がいた。


「アレクシス様、報告いたします」落ち着いた声の男が言った。

「今年の新入生で、一人異質な生徒が在籍しているようです。リュート・アーデン。実技の授業でエーレンバルト先生と精霊術の発動について、やり合ったようです。まだ入学したてのため、判断はできませんが、監視は必要かもしれません」


 椅子に腰掛けたまま、アレクシスはただ正面をまっすぐ見ていた。


「そうか。報告ありがとう、ルーカス」


 それだけ言った。

 

――――――

(精霊術学院 学院長室)


 二人の人物がいた。一人は椅子に座り、もう一人はフードを下ろした格好で机に両手をついて、机越しに正面から相手を見ていた。


「ヘルミーネ、今年の新入生に面白そうな子を見つけたわ。あの子、精霊に好かれていたわ」興奮を抑えきれない声だった。

「落ち着きなさい、リセル。あなたにとってはいいことなのかもしれないけれど、あなたは事情があるのだから、安易に接近してはダメよ」

「わかっているわ。でも、あの子が協力してくれたら、私の研究は進むはずだもの。興奮せずにいられないわ」

「今は自制して。観察までにしておいて。隠しきれなくなっても困るでしょ」

「ええ、ちゃんと距離は取るから、大丈夫よ」


 そう言って部屋を後にするリセルの顔には、期待の色が満ちていた。わずかに揺れた髪の隙間から、すっと細く長い輪郭が一瞬だけ覗いた。


 扉が静かに閉まった。あとに残ったヘルミーネは、しばらく何も言わなかった。なぜかを、自分でもうまく説明できないまま。

 

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