表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
隔絶した世界に転生した親友と  作者: まーくん
青年期ーリュート編ー

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

35/48

第33話 欠ける感触

(リュート視点)


 試験当日の朝、宿の女将さんが「頑張んな」と送り出してくれた。


 朝の空気が澄んでいた。アリシアと並んで学院に向かって歩く。「大丈夫か?」と聞くと、「ちょっと緊張してる。試験なんて初めてだし」とアリシアが答えた。確かにそうだった。


 俺は試験というものにどこか懐かしさを感じていた。でも、それは言えなかった。「今まで勉強してきたんだから、大丈夫さ」と言うと、「じゃあ私もそう思うようにする」とアリシアが言った。顔から余計な緊張が抜けた気がした。


 学院に着くと、受付にはすでに列ができていた。早めに来て正解だった。名前と出身を言い、ヴァルデンブルク様からもらった推薦状を見せる。受験番号の書かれた札を受け取り、控え室に向かった。アリシアは93番、俺は196番だった。


「隣で受付したのに、なんでこんなに離れてるんだろう」とアリシアが言った。「謎だな」と俺は答えた。


 控え室は受験番号で部屋が分かれていた。「ここで一旦お別れみたいだな」とアリシアに伝えると、「そうみたいだね」と口を尖らせた。「大丈夫だ」と言って頭を軽く撫でたら、「子ども扱いしないで」とぷいっと振り返り、ツカツカと歩いていった。緊張はほぐれたようだった。


 俺も気持ちを引き締めて指定された部屋に入った。


 部屋には二十枚ほどの番号札が席に置いてあった。隣には、貴族と思われる男子が目を閉じて座っていた。


 俺が席に着くと、その男子は目を開けて、横目で俺を見た。


「ちっ、平民が……」


 聞こえてしまった。なにか言い返しても意味はないと判断して、黙って座った。男子はもう一度舌打ちをして、また目を閉じた。なんなんだ、と思いながら、部屋が静まるのを待った。


 試験官が入室し、試験の流れを説明した。まず筆記、その後に実技らしい。実技が終わった者から順に帰ってよく、結果は三日後に発表されるとのことだった。


 筆記の問題は読み書き、計算、理解力だった。全体をざっと確認して、これなら問題ないと判断した。ホフマン神官とベルクマン神父が出してくれた練習問題と、傾向がよく似ていた。ありがとうございます、と心の中で言いながら、最初の問題から順に解き進めた。


 つまずくことなく早めに終わった。周りの様子を確認しようかと思ったが、不正していると思われるかもしれないと考えて止めた。残りの時間は机の木目を数えていた。


 筆記の解答が回収される間中、隣の男子がずっと俺を睨んでいた。俺が早く終わったのが気に入らなかったのかもしれない。気づかないふりをして反対側を向いた。


 移動して、実技試験の会場に着いた。


 訓練場のような場所で、布張りの仕切りで区切られた小さな区画が横一列に並び、各区画の内側には的が四つ立てられていた。


 試験官が説明を始めた。一人ずつ前に出て、好きな精霊術を的に向かって放つらしい。得意な術を全力で使うように、とのことだった。


 試験が始まった。受験番号181番から順に呼ばれた。


 181番の男子が息を整え、詠唱した。


「献身の灯よ、静謐の内に宿り、禁欲の枷をもって荒ぶりを戒めよ——」


 その瞬間だった。


 何か脆いものが、胸の奥でひびを入れた。音ではない。形のあるものでもない。でも確かにそこで、何かが欠けた。


 精霊が、苦しんでいた。


 俺は反射的に胸に手を当てた。目の前では小さな火の玉が現れ、的のギリギリに当たり、181番の男子が「よし」と喜んでいた。周りからちらほら拍手が起きた。俺はそれどころではなかった。ひびの感触が、胸の奥でまだ続いていた。


 次の受験者が詠唱した。また、その感触が来た。今度はひびではなく、引き千切られるような揺らぎ。精霊が、詠唱が流れるたびに何かを削られていた。


 俺が感じているのは、精霊の痛みだった。そう気づいた瞬間に、吐き気に近いものが込み上げた。詠唱が一つ流れるたびに、ここにいる精霊が一つだけ縮んでいった。その感触が波のように来て、俺の体の芯に積もっていった。


「顔が青いぞ、平民。あの程度の精霊術で顔を青くするようでは合格は無理だ。恥をかく前にさっさと帰るんだな」


 隣の男子が声をかけてきた。


「いや、そういうわけではないんだけど」


 また詠唱が始まった。また、欠ける感触。今度は少し大きかった。思わず口を引き結んだ。


「貴族の僕に向かってその言葉づかいはなんだ!」

「ごめん。ちょっとそれどころじゃなくて」

「貴様——」

「ユリウス・フォン・バルネルト君、前へ」名前が呼ばれた。


 ふん、と鼻を鳴らして踵を返した。ユリウスという名らしい。


 前に出たユリウスは、息を整えてから詠唱を開始した。


「献身の灯よ、禁欲の枷を解き放ち、調和を外れし奔流となれ。焼き尽くす炎として顕現せよ——」


 その瞬間、これまでとは比べものにならない衝撃が来た。


 割れる、という表現しか出てこなかった。薄い陶器を真ん中から真っ二つに割ったときの感触が、胸の奥で起きた。一つではない。連なるように、幾つもの何かが、音もなく砕けた。区画の中で炎が広がり、的を三つ一度に燃やしていた。受験者たちがどよめく。ユリウスが俺を見て、口角を上げた。


 俺は俯いて、しばらく呼吸を整えることしかできなかった。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ