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隔絶した世界に転生した親友と  作者: まーくん
青年期ーリュート編ー

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第32話 出立

(リュート視点)


 翌日、アリシアと二人で村の教会に向かい、ホフマン神官とベルクマン神父から入学試験の詳細を聞いた。試験は実技と筆記に分かれ、実技は精霊術の試験、筆記は読み書きと計算と理解力の三項目だという。理解力というのが最初ピンとこなかったが、想像力や一般常識を問うような内容だと教えてもらえた。実技の比重が高く、実技の出来の方が重視されるとも。


 辺境育ちの俺たちに一般常識がどこまで通じるか不安だったが、ホフマン神官とベルクマン神父が手伝ってくれると言ってくれた。その後の一ヶ月は、アリシアと問題を出し合い、答え合わせをして、また解いた。ひたすらその繰り返しだった。


 あっという間に出発の日がやってきた。


 馬車はヴァルデンブルク様が護衛付きで手配してくれた。本当に全部用意してくれるんだな、と改めていた。入学試験を受け、そのまま合格発表を待つ。合格すればそのまま入学。つまり合格したら、今日から約四年間、皆と別れて暮らす最初の日になる。


 見送りに来てくれた顔ぶれを見て、なんとも言えない気持ちになった。父さん、母さん、兄さん、スーリィ、ガレス様、マリナ様、エリオット様、それにホフマン神官、ベルクマン神父。全員が来てくれていた。


「しっかりな」父さんが言った。「体に気をつけてね」母さんが続いた。「見せつけてこい」兄さんが笑い、スーリィが「頑張ってね」と言いながら、今にも泣きそうな顔で我慢していた。


 ガレス様は「アリシアのことを頼む」と言い、マリナ様は「仲良くね」と笑い、エリオット様は「安心して行ってこい」と言ってくれた。


 馬車に乗り込もうとしたとき、父さんが「リュート」と呼んだ。振り返ると、父さんは一瞬口を開きかけて、間を置いてから言った。


「……いや。しっかりアリシア様を守るんだぞ」


 何を言いかけたのか、わからなかった。でも父さんの目は赤くなっていた。


「はい」とだけ答えて、アリシアと一緒に馬車に乗り窓から手を振った。見えなくなるまで、全員が手を振り続けてくれた。最後まで手を振っていたのはスーリィだった。


 馬車の中でアリシアと試験問題を出し合う繰り返しの中で、五日目か六日目だったと思う。いつものように問題を出し合っていると、アリシアが問題を読み上げる手を止めて、窓の外を見たまま、ぽつりと言った。

 

「ねえ、リュート。ブランデル領、遠くなったね」

 

 窓の外には、知らない村が流れていた。なだらかな丘、石の塀、見慣れない形の教会。

 

「そうだな」

 

 短く返した。三週間もこの速度で走れば、馬車でも相当な距離になる。帰るのに、また三週間かかる。「遠くなった」というのは正確な感想だった。


 アリシアはそれきり窓の外を見続けていた。俺も、少しだけ同じ方向を見た。それからまた問題を出し合う日々が続き、三週間は過ぎた。

 

――――――

 

 王都グランツィリアに入るには、身分の証明が必要だった。門の前に列ができていた。その長さだけで、ここを毎日通る人間の数が知れた。ヴァルデンブルク様とガレス様が用意してくれた身分証明書のおかげで、入門審査は滞りなく通れた。


 城門をくぐった瞬間、音の種類が変わった。石畳に響く蹄の音、荷車が軋む音、人の声が重なり合う音。ブランデル領とは密度が違った。空が狭かった。建物が高く、道の両側に迫っていた。人の流れが止まらなかった。

 

「……でかいな」

 

 思わず口から出た。アリシアは黙ったまま、きょろきょろと首を動かしていた。


 しばらくそうしてから、護衛隊長と宿の前で別れた。「いい仕事をさせてもらった」と言ってくれた。また機会があれば、と思いながら見送った。


 宿の受付で確認すると、合格発表までの日数分の部屋がすでに取られていた。アリシアと顔を見合わせた。ヴァルデンブルク様は……本当に全部手配してくれていた。ありがたい。ちょっと怖いくらいだが。


 部屋に荷物を置いてから、アリシアが言った。「入学試験は明後日だけど、一度学院を見に行こう」賛成した。下見は必要だと思った。


 道中、周囲の店を眺めながら歩いた。どう見てもお上りさんだろうが、実際その通りなので気にしなかった。


 精霊術学院の門の前に立った。


「すごい……」とアリシアが呟いた。


 確かに。敷地が広く、様々な建物が建っていた。国が運営しているだけのことはあった。


 でも、精霊が、ざわついていた。


 村とは違う。何かにじっと耐えているような、重さのある揺らぎだった。


「ちょっとつらそうな感じがする」とアリシアが言った。

「そうだな。何が理由かはわからないけど」


 王都という場所の問題か、精霊術を使える人間の数の問題か、それとも別の何かか。今はわからない。でも、気にしておく必要はあると思った。


 宿に戻り、夕食をとった。母さんの料理とは違ったが、これはこれで美味しかった。そのうち家の味が恋しくなるのかもしれないな、と思いながら食べた。


 翌日は一日、試験の最後の追い込みをした。


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