表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
隔絶した世界に転生した親友と  作者: まーくん
幼年期

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

31/46

第29話 隔別 ー帰還ー

(ヴァルト視点)


 城の、誰も使っていない一室だった。


 魔法陣の光が収束すると、石の床が足の下にあった。足元を確認してから、顔を上げた。ヴェルザリア姉上とガルディス兄上が正面に立っていた。二人ともこちらを見ていた。


 「意外に早かったですね」と言った。


 ヴェルザリア姉上がほっと息を吐いた。その吐き方が、いつもの姉上のものではなかった。どこかに力が入ったままだったものが、ようやく抜けた、そういう息だった。


 ガルディス兄上が「無事か?」と聞いてきた。


「問題ありません」と答えた。


 ガルディス兄上の顔を、少し長く見た。目の下に疲れが残っていた。一ヶ月分の、静かな疲れだった。何かを言おうとして、口が開きかけて、止まった。ヴェルザリア姉上もそれを見ていた。何も言わなかった。


 何を言えばいいかわからないのだろう。それはこちらも同じだった。


 「ありがとう」と言おうとしたが、言葉は出なかった。「助かった」も、他の感謝や労いの言葉も。出てしまえば、この一ヶ月にこの二人が費やしたものの重さが、全部こちらに来る気がした。それを受け取れるかどうか、まだわからなかった。


「父上のところに報告へ行きます」と伝えた。ガルディス兄上が小さく頷いた。ヴェルザリア姉上も頷いた。どちらも静かな頷き方だったから、余計に喉の奥が詰まった。


 一度、床を見た。それから顔を上げて、部屋を出た。


――――――


 父上の執務室を訪れた。ノックして名を告げると、「入れ」と返ってきた。


「どうした?」と父上が言った。

「人界より帰還した報告に参りました」

「そうか。伝えることはあるか?」

「後ほど報告書を提出します」

「わかった」


 父上の目がこちらを一瞬だけ見た。何かを確かめるような目だった。それから視線が書類に戻った。


 礼をして部屋を出た。


――――――


 次に母上の部屋を訪ねた。


 扉を開いた瞬間、母上が走り出してきた。そのまま抱きしめられた。


「母上、ただいま戻りました」

「無事なの?怪我はない?」と震える声で聞いてきた。

「はい、ありません」と答えた。


 少し間をおいた。


「訪れた先の者たちは随分よくしてくれましたので」


 母上の顔がわずかに動いた。


「……人族が」

「ええ」


 それ以上は言わなかった。リュートのこと、ガレス殿たちのこと、あの一ヶ月のことを、今ここで言葉にするつもりはなかった。言えば、何かが変質する気がした。


「今日はゆっくり休みなさい。また、お話を聞かせてね」

「はい。では失礼します」


 頭を下げて、部屋を出た。


――――――


 自室に戻る廊下で、ラグナスとすれ違った。


「先ほど戻ってまいりましたよ。ラグナス」と言った。


 ラグナスの顔が引き攣っていた。


「……無事だったのか」

「おかげさまで良い経験ができました。それでは」


 そう言い、自室に入った。扉を閉めた。


 窓の外を見た。遠くに見える観測塔を探した。消えていた光が、静かに灯っていた。


――――――

(リュート視点)


 ガレス様に、ヴァルトに迎えが来て帰ったこと、手紙を預かっていることを伝え、ヴァルトからの手紙を渡した。


 ガレス様は読んで少し考えた後、アリシアと俺にも手紙を見せてくれた。


 世話になった。拾われたのがあなた方で本当に良かった。いずれ借りは返す。それまで、お元気で。


 そんな内容だった。


 アリシアに渡すと、アリシアはしばらく黙って読んでいた。


 読み終えてから、少しはにかんだ。


「俺も見せてくれ」と手を伸ばすと、アリシアは慌てて紙を胸に押しつけた。

「ダメ」


 それだけだった。


 家に帰って、家族にもヴァルトが帰ったことを伝えた。


 父さんと兄さんはそうか、と言い、少し寂しそうな顔を見せた。母さんは「そう、寂しくなるわね」といつもの調子で言った。スーリィはショックを受けているようだった。涙を見せていた。歳の近い兄がもう一人できたように思っていたのだろう。次の日には元に戻っていたようだったが。


 その夜、一人で空を見た。


 魔界というのは、どのあたりにあるんだろうか。精霊に確認すると、理解できないという感触が返ってきた。俺自身もよくわかっていないので、それはそうだと思った。


「またな」と言っていた。


 その三文字が、思ったより長く、夜の中に残った。

 

今話で第一部「幼年期」完、次話から第二部「青年期ーリュート編ー」となります。

毎日20:00投稿予定

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ