第23話 隔別 ー丘にてー
(リュート視点)
「これからどうするんだ?」
少し落ち着いてから、俺はヴァルトに聞いた。
「しばらくはここにいるしかない」
「何か当てがあるということか?」
「そうだな……だが、二ヶ月以内に何もなければなくなるな」
「どういうことだ?」
「まぁ、迎えが来るということだ」
「連絡は?」
「今はできないし、来ないだろうな」
少し考えた。
「ガレス様やヴァルデンブルク辺境伯様にお願いしてみるのもいいんじゃないか?」
「まぁ普通はそうだよな。ただ、おそらく、ここの国の国王でも無理だろうな……」
俺は黙った。国王でも無理、という言葉の重さが引っかかった。これ以上踏み込まない方がいいと感じた。ヴァルトがどういう立場の人間なのかは、まだよくわからなかった。それでいいと思った。
「まぁ二ヶ月くらいはいるってことか」
「そういうことだな」
「二ヶ月が過ぎても来なかったら?」
「その時はその時だ」
「……雑だな」
「お互い様だ」
俺の返し方だって大して変わらない。
***
(ヴァルト視点)
まだ話せるかどうか、わからなかった。ただ、黙っていていいことでもない気がした。
「あと、この記憶のことだが……」
切り出すと、リュートがこちらを向いた。
「誰も知らない記憶だ。毒にも薬にもなる」
「どういうことだ」
「理解や言葉にはできないが、今までの常識からかけ離れている。そんな記憶だ。下手にバレれば狙われる」
「そうなのか?」
「ああ。例えば……あの兵器とかな」
「兵器、あれか?きのこみたいな雲が出るような」
「ああ、……例えば、な」
言ってから、わずかに視線を逸らした。言い過ぎたかもしれない、と思った。リュートはそれを拾いはしたが、それ以上は追ってこなかった。
***
(リュート視点)
しばらく考えた。豊かになる気はする。確かに言葉にできない、わからない記憶があるのはわかる。でも狙われる?とはどういうことか。
「嫌なとこにいたのか?」と俺は聞いた。
「ここよりは殺伐としてるな」
「嫌なとこだな」
「そうだな」
「まぁ話しても信じてもらえないだろうからな。話す必要はないな」
「ああ」とヴァルトが言った。「話すとしたら命の危険がある時くらいだろう」
「それか、本当に信頼できると思った時か」
「そうだな。そんなことがあるかはわからないがな」
「あるかもしれないぞ」
ヴァルトは答えなかった。ただ、片側の口の端がわずかに動いた。
それが何を意味するのかはわからなかった。でも悪い意味ではないと思った。
――――――
それなりに時間が経っていた。
「そろそろ戻るか」と俺は言った。
「あまり時間が経つと起き始めるからな」
「そうだな。特にお前のいる館だと、使用人が起きるのは早いだろうからな」
「ただでさえ倒れて迷惑かけてるからな」
「じゃあ戻るとするか」
二人で立ち上がり、歩き始めた。それぞれが、さっきの話を頭の中に抱えたまま歩いていた。分かれ道で、「じゃあな」「またな」と言って別れた。ヴァルトの足音が土の道から外れ、草の上に変わった。しばらくしてから聞こえなくなった。
来た時と同じ道を戻った。夜の冷たい空気は変わらなかった。館に上がり、廊下を歩いた。精霊に光るよう頼もうとして、すでに薄く光っていることに気づいた。頼む前に、動いていた。
廊下の終わりまで歩いて、扉の前で立ち止まった。振り返ると、精霊の光が廊下の奥まで続いていた。いつの間に、そこまで広がっていたのか。
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