第144話 伝える夜
(リセル視点)
部屋で資料をまとめていた。
あの子たちが、精霊術の純度を制御できるようになった。それを正しく記録し、検証すれば、私にもできるようになるはずだ。今はこの首飾りでどうにか成立させている森国以外での精霊術が、いずれは首飾りなしでもできるようになるということでもある。
「このくらいでいいかしらね」
机には四人分の記録が並んでいた。文字の詰まった紙は、少しずつ意味を持ち始めていた。しばらく窓の外を見た。エルヴィアの木々が夕日を受けて赤く縁取られていた。
あとは、森国でやるより学院で検証した方がいい。設備は学院の方が揃っている。それに、いい加減、ヘルミーネにも状況を話さないといけない。
あの子たちには夕食の時にでも伝えておかないとね。
そう思い、世話役に、今日の夕食はアーデン君たちと取ることを伝え、客人用の食堂に準備をしてもらうよう頼んだ。
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夕食の時間、客人用の食堂に向かった。まだ誰も来ていなかった。座って待つ間、どう伝えるべきかを考えていたが、結局、ありのままに伝えればいいだけだと気づいた。
ちょうどその時、食堂の扉が開いた。
「あれ、フェルウィン先生、どうしたんですか?」
アリシアが目を丸くした。
「今日は皆に伝えることができたから、こっちに用意してもらったの」
「伝えることって何ですか?」
「せっかちね。そういうのは食事中か後にするものよ」
話をしているうちに、四人がそれぞれの席についた。運ばれてきた皿から、根菜と香草の湯気が立ちのぼった。この一年で何度も食べた、森国らしい香りだった。
「じゃあいただきましょう」
一口運ぶと、根菜の甘みにわずかな苦味の香草が効いていて、体に染み込むような温かさがあった。しばらく食事を進めた。皿の音、窓の外を渡る風の音、それだけが食堂を満たしていた時間だった。
「そろそろいいんじゃないですか?」
アリシアが口を開いた。その一言で、四人の手が示し合わせたように止まった。皿に触れる音が消え、視線が自然とこちらに集まった。私はフォークを皿の端に置き、小さく息をついた。
「そうね。大した内容でもないし、あまり勿体ぶっても仕方ないわね」
少しだけ間を置いた。
「私は王国、学院に戻るわ」
バルネルト君は動きを止め、探るような目でこちらを見た。アリシアは眉を寄せ、スーリィちゃんだけが素直に声を上げた。
「え、先生行っちゃうの?」
「どうしたんですか?急に」
問いを重ねたのはアリシアだった。
「急というわけではないのだけど、そろそろ学院を出て一年が経つわ。手紙は出してはいたけれど、いい加減、ヘルミーネには直接状況を伝えないといけないわ」
「あぁ、そうですよね。そういえば学院の教師はどうしたんですか?」
「今は一応休職という扱いだけど、元々の目的は果たしているから学院にこだわる必要は無くなっているわね」
「辞めるんですか?」
「研究することはまだ残っているし、そういうこともヘルミーネと相談して決めないといけないわね」
「では、やっぱり学院にいかないといけないですね。いつ森国を出るんですか?」
アーデン君が聞いてきた。
「いつでもいいんだけど、来週かしらね。あ、先に言っておくけど、見送りは不要よ。苦手なのよね、ああいうの」
「わかりました。森国には戻って来ないんですか?」
「いえ、ヘルミーネとの話次第だけど、一度は戻ってくるはね。おそらく、ランベルト君が戻ってくる頃には戻ってくるはずよ」
「だいぶ先ですね」
「あっという間よ」
「そうですね。また会える日を楽しみに待ってますね」
アーデン君が言うのを聞きながら、私は皿の上に視線を落とした。
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翌週、森国を出る朝は、思っていたより静かだった。見送りは不要だと伝えておいたおかげで、誰も見送りには来なかった。エルヴィアの木々の隙間から差し込む朝の光が、街道の土を白く照らしていた。
鞄には、四人分の記録が入っている。学院に戻れば、ヘルミーネへの説明と、そして何より、この記録を使った検証が待っている。
馬に跨り、首飾りを一度握りしめた後、王都への道を進み始めた。




