第129話 隠していた血筋
(アリシア視点)
謁見が終わり、控えの間に戻る途中だった。緊張が解けたせいか、足取りが少し軽くなっているのが自分でもわかった。
「皆、フェルウィン先生のこと、リセル様って呼んでますよね?それに陛下も知り合いのような感じでしたし」
我慢できずに小声で聞いた。
「そろそろ教えてくれてもいいんじゃないですか?」
ユリウスが付け加えた。私も同じことを思っていたので、心の中で頷いた。
フェルウィン先生は少し歩みを緩めたが、すぐには答えなかった。廊下の窓から差す光の中を、しばらく無言のまま歩いた。しばらくしてから、ようやく口を開いた。
「仕方ないわね。……陛下は、私の叔母よ。母の姉にあたるの」
「えっ?」
思わず皆の足が止まった。ユリウスが驚いたように目を見開き、リュートは口を開きかけて、何も言わずに閉じた。誰も、すぐには次の言葉を継げなかった。
フェルウィン先生は数歩先で振り返り、こちらの反応を見て小さく眉を上げた。慣れているのだろう、驚かれることに。それでもどこか居心地悪そうに、視線をわずかに逸らしていた。
「様呼びだったので、地位は高いとは思っていましたが……まさか王族だったなんて」
「フェルウィン先生、お姫様だったんだ」
スーリィが小さく言うと、ランベルトさんが慌ててその口を塞ぎ、周囲に人影がないか素早く確かめた。
「お姫様は言い過ぎよ」
フェルウィン先生が苦笑した。
「気にしなくていいわよ。王族と言っても形だけ、私はただの精霊術学院の教師よ」
その一言に、スーリィの口を塞いでいた手がようやく解けた。
また歩き出し、王宮の奥へと進んだ。廊下の空気には、外の森とは違う、蝋と乾いた木の匂いが薄く漂っていた。長い年月をかけて磨き込まれた床が、足音を吸い込むように鈍く反響した。すれ違うエルフの侍女たちが、小さく会釈をしてすぐに視線を戻していった。
控えの間に戻ると、フェルウィン先生が話し始めた。
「これから、あの騎士、ロアリックに見張られながら、この王宮で暮らすことになるわ。他にも監視はつくでしょうね」
「まあ、人間ですしね」
ユリウスが肩をすくめて言った。淡々とした口調だったが、その言葉には諦めに似た響きがあった。
「まぁ窮屈なのは最初だけよ。そのうち打ち解けられるわ。悪い者なんていないのだから。ただ、お互い慣れていないだけね」
「そうですね。王女様、エノラ様はすぐに仲良くなれそうな気がしました。恐れ多いですけど」
「そういう子よ。気にせず、仲良くしてあげて」
そんなやり取りの傍らで、リュートは少し落ち着かないようだった。座り方も、心なしかそわそわしていた。見かねて、私は口を挟んだ。
「どうしたの?」
「いや、実際に声に出して頼むのは、思ってたよりずっと緊張するもんだな」
「あれだけ堂々と言っていたのにか?」
ユリウスが呆れた表情で、投げるように言った。
「話している時は必死だったからな。終わった今、後から効いてきた」
「まあ、いざとなったらやる男ってことだろ」
ランベルトさんが軽く肩を叩きながら言った。
「お兄ちゃんかっこよかったよ」
スーリィが屈託なく続けると、リュートは照れたように目を逸らした。その様子に、控えの間の空気が少しだけ緩んだ。そんな彼を見ていると、こちらまで安心して、気づけば自然と口元が緩んでいた。
フェルウィン先生が立ち上がった。
「さて、そろそろ部屋に案内するわ。王宮も案内しないとね」
「ありがとうございます。緊張で疲れました」
思わず本音がこぼれた。フェルウィン先生が小さく笑い、控えの間の扉を開けた。
「じゃあ、行きましょうか」
皆でこれから暮らすことになる王宮を案内されながら、部屋へと移動した。窓の外には、街の中心に残された古い巨木が、静かに枝を広げているのが見えた。




