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隔絶した世界に転生した親友と  作者: まーくん
青年期ーリュート編ー

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第111話 騎馬隊、村へ

(ブランデル領 ブランドルフ村の入口)


 十月中旬。朝の空気はもう冬の気配を含んでいた。畑の縁に立つ木々はすでに葉を落としかけ、乾いた風が、土埃を巻き上げながら通りを抜けていった。鍛冶屋の煙すら、いつもより低く垂れ込めているようだった。村は静かに朝を迎えていたが、その静けさの底には、誰もが薄々感じていた緊張が潜んでいた。


 その日、村の入口に、騎馬の一団が現れた。


 地を震わせるような蹄の音が、遠くから近づいてきた。やがてその音は、誰の目にもはっきりと届くものになった。


 黒い法衣に腕章をつけた者が四名、銀の鎧に黒いマントを纏った者が十一名。彼らの腕章とマントには、正八角形の中に鎖が巻かれた剣の意匠が描かれていた。一人の腕章だけは羽ペンの意匠に変わり、一人のマントだけは、鎖が巻かれた十字架の意匠になっていた。馬蹄の音が、石畳の上を規則正しく刻んでいた。その姿と音が、村の空気を一段、固くさせた。


 入口で、ガレスが、彼らを迎えた。


「そなたらは教会の者か?所属と目的を述べよ」


 以前、エルドが異端審問官を迎えた時と同じ言葉だった。声の調子に乱れはなかったが、その奥には、これから起こることを覚悟している者だけが持つ、揺るがない緊張があった。


「ドミナリウム主聖殿所属、異端執行官、シグルド・ハルヴォルセンである。リュート・アーデンへの出頭命令に基づき、身柄を引き取りに来た。リュート・アーデンを呼べ」


 先頭に立つ男が、低く、よく通る声で告げた。馬上の姿勢は崩れず、視線にも一切の迷いがなかった。


「私はこの辺りの領地を任せられております、ガレス・ブランデルと申します。恐れながら、リュート・アーデンは現在、行方が不明となっております。私どもも捜索しているところでございます」


 ガレスが答えた。声は乱れなかった。


「リュート・アーデンの家まで案内せよ」

「かしこまりました」


 ガレスは、一団を村の奥へと案内した。土を踏む靴音と、馬の蹄の音だけが、村の通りに響いていった。


 アーデン家に着くと、シグルドたちは家の中へ踏み入り、慎重に、しかし容赦なく検めていった。棚の中、寝室、台所――生活の跡が残るそのすべてに、何の感情も乗せない視線が注がれていった。竈の灰は、すっかり冷たくなっていた。壁にかけられた古い木剣がまだそこに掛けられたままだった。それも、シグルドたちにとっては手がかりの一つに過ぎなかった。


 シグルドが、護衛隊長のソルヴィに目を向けた。

 

「ソルヴィ、どう思う?」

「逃亡した、と考えるべきです」


 すぐに、答えが返った。シグルドが、執行補佐官のエルリングに目を向けた。


「エルリング、地図を」

「ここに」


 地図が、机の上に広げられた。羊皮紙の上に描かれた、王国とその周辺の地形が、灯りに照らされた。


「帝国か、森国。他に行き先はない。王国内はどうだ?ソルヴィ」

「王国内に潜伏する可能性は低いでしょう」

「隊を二つに分ける。異論は?」

「ありません」


 ソルヴィが、護衛隊副長のヴィグルに視線を向けた。それだけで、ヴィグルはすぐに隊の編成を二つに分け終えていた。


「よろしい。私とソルヴィの隊が帝国方面、エルリングとヴィグルの隊が森国方面だ」

「はっ」


 一団の全員が、揃った声で応えた。


「領主」

「はい」

「補佐官のイーヴァルを教会に残す。もしリュート・アーデンを発見した場合は、教会に連絡するように」

「承知しました」

 

 シグルドは、自分の隊の方へ向き直ると、「行くぞ」とだけ言い、すぐに動き出した。リュートの捜索と追跡が始まった。


 ガレスは、馬蹄の音が遠ざかっていくのを、その場に立ったまま見送った。土埃が舞い上がり、やがて静かに地面へ落ちていった。風が、空になった道の上を吹き渡っていった。村の者たちが、恐る恐る家の戸を開け、遠ざかる一団の背を見送っていた。

 

 村の出口を抜けたところで、二つに分かれた隊は、それぞれの方角へ馬を進めていった。蹄の音が二つに分かれ、それぞれの方角へ遠ざかっていった。教会の前には、補佐官のイーヴァルだけが、馬を一頭引いたまま静かに残った。どう見ても、見張り以外の何者でもなかった。


 誰もいなくなったアーデン家の前で、ガレスは拳を固く握りしめていた。


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