第六十七話 ミカエルの回想⑨
今更ながら私ってアイス好きなんですね。特にバニラ味。
*
常日頃から私は私自身に問いかけた。
彼の神を救えずして、何が彼の神の臣下か。
彼の御身が傷つこうとも私は何も出来なかった。看取る事さえ叶わなかった。そして、看取った者達の痛みを私は想像すらも出来ない。
そうして後悔が更なる後悔を呼び、やはり私は考えてしまう。『我らの王が、彼の神の末路を辿らずにはいられない』と。
この世界に生まれ落ちて私は何が出来ただろうか。是、何も成していない。何も為していない。
『私自身、彼の王を救うことは出来ないやもしれない』
されど、この命にはまだ役割がある。同じ結末を再び歩ませてはならない。それを見届けなければ死んでも死にきれない。
『命の歯車が動いている以上、私は、一つの歯車動き続なければならない』
どうか、この命が来たら時までに持つことを。どうか、次こそは我らの王を…………。
*
嫌な、夢でした。
ゆっくりと瞼を開くと、視界いっぱいに変哲のない天井が映ります。
「……朝ですか……」
窓から差し込む柔らかな陽光が部屋を照らし、小鳥の囀りが微かに耳へ届きました。
昨晩は、安眠の魔法が施された部屋で休んだはずなのですがね。
「過去というものは、実に不思議です」
私は静かに上体を起こし、胸へ手を当てます。
鼓動は……落ち着いています。額を拭っても汗は出ていません。
ですが、胸の奥だけは妙に重く先程まで見ていた念だけが鮮明に残っていました。
「……もうずっと前の出来事だと言うのに……」
あの日の後悔だけは、時がどれほど流れようと色褪せません。
情けない話ですが、まだ私にもやりきれない思いがあったのですね。
「『過ぎ去ってしまったことを変えることはできない。出来るのは心のうちに留めておくことと忘れる事』全く。皮肉も良いところですよ。ラミィ」
その言葉を口にした途端、部屋の中は再び静寂に包まれました。
返事が返ってくることはありません。当たり前です。
あれは、ずっと昔に交わした何気ない会話であり、彼女が放った最後の言葉なのですから。
「……貴女は、本当に強い方でした。私なんかを庇って逝かれる方では無いのですがね……」
私は小さく息を吐き、ベッドから立ち上がり窓辺へ歩み寄りました。
窓を開けると、朝の澄んだ空気が部屋へ流れ込みました。
街は既に目を覚ましているようで、通りからは人々の話し声や荷車の音が微かに聞こえてきます。
「過去を振り返るのは、この辺りにしておきましょう」
今の私は世界を旅するリョク、と言う設定です。
ミカエルでもなく、七天使長でもなく、この世界の管理人でもありません。
「……とは言え、簡単に切り替えられる程、私は器用ではありませんか」
小さく苦笑が零れてしまいました。
数える事を止めるほど永い時を生きても、失った命の重さには慣れません。特に、自身の内に近ければ近いほど。それに、慣れてしまえばそれこそエイド様が最も嫌う存在になってしまうでしょう。
「それだけは、許されません」
だからこそ、この胸の痛みも忘れてはいけない。それが、彼女らを忘れないということなのですから。
私はゆっくりと息を吸い、静かに吐き出しました。
「今の私は、旅人です。それが、瞬きの後に終わる事となっても」
そう口にすると、不思議と心が少しだけ軽くなった気がしました。
どんなに辛くても、過去は消えません。これは初代神が定めた唯一の法則であり願いだからです。
ならば、その過去を抱えたまま前へ進むしかないのでしょう。
私は窓から差し込む朝日に目を細め、小さく笑みを浮かべました。
「さて、さっさと降りるとしましょう……」
既に軽い身支度は済ませてあります………と言いたいところですがそもそも私には荷物という荷物が無いので身支度は必要ありません。
ですので今すぐにでも降りれるというわけですが……。
「アイリスさんも来ていないようですし、後少しだけ人を眺めてさせて頂きましょう」
我ながら賢明な判断ですね。
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