第六十三話 ミカエルの回想⑥
少し長くなりました。すみません。
あ、後熊怖いですね。知能が高くなっていますね。
エイド様が神界に来てからのお話や、セブノック様が神として働いていた時の話を、御二方の真名を使わずに面白おかしく話していると、いつの間にか日は頭上に昇り、周囲の気温は夏と間違える程とても暑くなっていました。
暑さを感じることはありませんが、そこはまあ気分ですよ。気分。
そんな時ふと、風に乗って人々の話し声が耳へ届きます。
「……おや」
視線を前へ向けると、そこには遠目からでも圧倒されるほど巨大な城門が聳え立っていました。
その両脇には天へ届かんばかりの城壁が果てしなく続き、多くの荷馬車や旅人が門に列を作って順番を待っています。
「着いたぞ」
エンペーア氏が手綱を軽く引きながら笑いました。
「ここが、城壁国家ベルグランだ」
「これは……凄いですね……」
私自身、あの場所から沢山の人の人生や国、世界を見てきたからこの建築には驚いていません。私が驚いているのは城壁にかけられた魔法と結界です。
「凄いでしょ!ベルグランは気に入った?」
「……インカ嬢は見慣れているのですか?」
「うん。お父さんと一緒に何回も来たことがあるよ!」
「インカ……。お前がイキがる事ではないだろ……」
呆れたようにエンペーア氏がインカ嬢を宥めていますね。
実に微笑ましい光景です。そんな光景をもう見れなくなるのは残念ですが、別れというものは一瞬です。
「では、ここでお別れですね」
「「あ……」」
二人共、頭の中から私が旅人と言う素性を忘れていたようですね。
インカ嬢は先程までの笑顔を引っ込め、小さく俯きました。
「……もう、お別れなの?」
「はい。私の旅はまだ途中ですから」
そう答えると、インカ嬢は「そっか……」と小さく呟きました。
困りましたね……。本来であれば、ここで何も残さず立ち去るべきなのでしょう。今はもう形骸化された神界の規則もそうなっていますしね。
ですが、この親子には随分と世話になってしまいました。
そして何より、この二人は善き魂を持つ人です。それも、傲慢な者が沢山いるこの神代でです。
私は静かに空間へ手を差し入れ、小さな木箱を取り出しました。
「お兄ちゃん。空間魔法も使えるの?」
「まあ、はい。私も魔法使いの端くれですので……」
流石は神代の子供ですね。空間魔法程度では驚きもしませんか。
今の時代であれば、大騒ぎになっているのでしょうが。
「インカ嬢。別れの挨拶に、これを」
私は手に収まるほどの小さな木箱を空間から取り出し、ゆっくりと蓋を開けました。
中に入っていたのは、決して豪華とは言えない装飾のペンダントです。ですが、真ん中にある紺碧の宝石は
太陽の光を受け、どこか包み込むように輝いていました。
「インカ嬢。これを貴女に渡します」
インカ嬢の手を取り、箱を軽く握らせます。ですが、私の意に反して、インカ嬢はすぐ中は受け取りませんでした。
「ダメだよ!」
そう言って私の手に木箱を戻してきたのです。
「な、何故ですか!?」
これは確実に受け取って貰わねば……。七天使長の名に懸けても!
「だって、知らない人から物を貰っちゃダメだってお父さんが言ってるもん!」
「そう言う意味ですか……!」
危なかったです。思わずズッコケそうになりました。エンペーア氏の方を見ると、苦笑いをしながら私に言葉を投げかけました。
「なんか、すまねーな」
「いえいえ……教育がよろしいようで……。ですが……」
私は木箱をそっと胸元へ引き寄せ、小さく目を伏せました。エイド様が見たら『胡散臭っ!」と言っていたでしょうね。
*
一方、神界八階層で事務処理をしているエイド。
「……へっぷしっ!!!」
何だ……?風邪か……。いや、神になってからそんな事一度もねーからな。となると、
「誰かが俺の噂をしてやがるのか?」
そう考えると余計に腹が立ってきたな……。長年かけて練った計画が一瞬でパーになった俺を嘲笑っているようだな。
その時、扉がバッと開き、七天使長で唯一の常識人のガブリエルが転がるようにして入ってきた。何やら焦っているようだな。
「エイド様!たった今第25世界で破滅龍が顕現したとの報告が!至急、再輪使を派遣する許可を……!」
再輪使とは、また大きく出たな。
再輪使と言うのは七天使長を補佐する十四柱を指す名称だ。
七天使長直下と言うこともあり、戦闘能力も一般的な天使とは比べ物にならないほど高い。
だが、そんな些細な情報はどうでもいい。問題は、
「破滅龍か。出現……はねぇよな。てことは召喚か?」
「はい。私自身早急にあの邪龍を抹消したいのですが、あいにく、別世界の勇者に加護を与えてこないといけないので……」
「……ラグエルはどうした?あいつ、今暇だろ?」
多分……。とガブリエルが聞き取れないように俺は呟く。
「それが……。何故か有給をここにきて消費したミカエル殿が勝手にラグエル殿に時間軸の業務を押し付けちゃいまして、ラグエル殿も手が離せないのです。ですのでどうか、再輪使の派遣許可を……」
別に許可を渋っている訳ではない。むしろ俺の仕事が減るから大歓迎だ。ミカエルが有給を消費したミカエルに関しては何も知らないとして、さっさと許可を……待てよ。
「いや、今回は俺が出る」
絶対に、何が何でもあの駄龍をぶっ潰してやる!今回の計画がうまくいかなかった俺の心を落ち着かせる為の礎となってくれ……。
「な!御身が直接ですか!……ですが、神転輪を作動させるには七天使長全員の神威を込まなければ……」
「おいおい、頭が硬いぞ?俺が行けねーのなら、こっちに来させるだけだ」
「ま、まさか!?」
流石はガブリエル。戦闘能力と常識力を同時に兼ね備えているだけあるな。俺の言いたい事を正確に読み取ってくれた。
「そうだ!破滅龍をこの神界に直接転移させるんだよ!」
「な、成程……。確かに、エイド様が負けることはないので確実性はありますが……。神界の被害を考えてくださいよ!前はミカエル殿でしたが、今の神界の修理は私なんです!」
「それが?ぶっちゃけていい?うん。良いよな。俺さ、さっき長年かけて練った計画が台無しになったんだよね。そのイライラを何処にぶつけるか。あの駄龍以外いないでしょ!それに、今回は地形破壊の件は心配しなくてもいいぞ」
「何故です?」
「俺の八の軌跡の中で相手するからだよ。それならいいだろ?」
「分かりました。それなら構いません!すぐに手筈を済ませますね」
そう言ってガブリエルはあたふたと俺の部屋から出ていった。
ガブリエルが第八階層から消えた事を確認して、俺は椅子から立ち上がり、扉に向かって歩きながらノーモーションで真っ黒の服を体に羽織った。
「さて、待ってろよ。破滅龍君」
あいつ、殴ってもまあまあ耐久性あるからな。サンドバッ……。相手になってもらうぞ!
ミカエルの回想が長いですね。思っている以上に。




