第五十七話 レベル8と9
少し長くなってしまいました。
ミカエルの様子が少しおかしいが、アーシャは俺たちに向かって再び話し始める。
「それで、レベル8なのだけどーー」
「アーシャ」
レイが手を挙げ、珍しく真剣な顔をしている。
「何かしら?」
「そのレベル8ってさ。王家さえも簡単に閲覧できねーよな?」
「そうよ」
「なら、なんでお前は俺たちに話してるんだ?」
教室が静まり返る。確かにその通りだ。
このままいけば、国家機密を何も知らない学生相手にベラベラ話していることになる。
「リナ、私、レイ、コイル。私達四人は魔導八家よ?約定より、お互いの情報を共有することとなってるし、レベル9までなら閲覧可能。つまり、問題無いわ」
問題、無いのか?まあ、アーシャがそう言うんなら問題無いんだろうけど。
「カインは王族最後の砦、だったか?それに、ミスカは王族だよな。この二人は大丈夫。じゃあ、俺とミカエルはどうなるんだよ。完全に部外者だぞ?」
これははっきりさせないといけない。正直に言おう。禁忌を漏らしたとかいう事で捕まりたくない!面倒ごとに遭遇したく無い!
「そうね……。どうしたらいいかしら……。エイドの分解魔法とやらを語る上で外せないのだけれどーー」
「放課後も学習か!勤勉じゃのう!」
直後、アーシャの発言を遮る様に扉が開き、杖をつく音と共に軽快な声が飛んでくる。
そう。学園長だ。
「許可が無ければ取ればいい!てことで、わしが特例としてエイド及びミカエルに対してレベル9の記録を話す事を認める!」
何言ってんだ。このおっさん……。
「……は?」
俺は無意識的に声を出してしまう。
いや、待て。レベル8ですら国家機密なんだよな?
何でその上が出てきた?
「学園長。レベル9を断片的に話す事でも、国王の許可証が必要です。まさか短時間で取ってきたとでも……?」
「取れるわけないじゃろ。普通に昔から持っておるのじゃよ。これをな」
学園長は懐から漆黒のフレームの中心に天使の一対の純白の羽が写っている金属板を取り出す。
その瞬間、教室の空気が一瞬で冷え切る。
「それは……!」
カインは立ち上がり、アーシャも言葉を失っている。
「まさか本物……?」
「うむ。本物じゃ」
学園長はあっさり頷いた。その返答は、クラスの皆んなを更に驚かせた。
だが、この話の流れについていけてない人がここに一人。俺だよ。
「アーシャ。それってなんなの?」
「……はぁ。ここまで無知だったとは……」
アーシャは呆れた様に額へ手を当てる。
「いや、知らねぇもんは知らねぇだろ!」
反論すると、何故かミスカまで頷いた。
「エイド君。僕もこれを知らないとはやばいと思うよ」
「ミスカまで!?」
お互い、このクラスの馬鹿二人組って感じだったのに!裏切りやがった!
「まぁ良いわ。あの金属板はね。セルナール学園の学園長に、国王が直々に与えた権限の一つなの」
「権限の一つ?」
「えぇ。結構多いから省略するけど、その内の一つがレベル9以下の全ての魔導書と神代記録の閲覧可能権限。そして、学園長が認めた者にもその権限は付与できる」
マジかよ……。このオッさん。ここまで凄かったとは。
学園長をみると、勝ち誇った様にピースを俺に向けている。
その顔を見て、思わず殴りかかりそうになったが、俺はいい子ですので、すんでところで押し止まる。
何故俺が殴りそうになったか。あの顔が、俺に神を押し付けた時のセブノックに似ていたからだ。
「それでは、これで役者は揃いましたね?」
コイルが締めくくる事で、嘘の様に空気が張り詰める。
先程までの雑談交じりの雰囲気は消え失せ、教室には静寂だけが残った。
アーシャも真面目な表情になり、ゆっくりと制服の胸ポケットへ手を入れる。
取り出したのは、八角形の青い金属製エンブレムだった。
中央には王冠の紋様が刻まれている。
「それは?」
俺が聞くと、カインが代わりに答えた。
「魔導八家の当主及び当主候補が持つことの出来る、レベル9までのアクセス許可証ってやつ」
「何か凄そうだな」
「いやもうお金がね……、これ一つ造るのに城が一つ建てれる額なんだよ」
「わぉ……」
そして、そのすぐ後、アーシャは右手にその紋章を握りしめて胸の前に翳し、教室に響き渡る声量で声を上げる。
「魔導八家が一家。ウィルドム家の当主候補。アーシャ=ウィルドム!同様にレイ=ソードマス!コイル=ドレイン!リナ=サーチャー!王族の砦。カイン=ウォール!そして、王族であるミスカ=エンペア。セルナール学園の学園長の許可証より、特例としてエイド、ミカエル。『悪魔の一日間』の閲覧権限の認証を望みます」
そう全員の名前を言い終えた時、アーシャの右手が淡く発光する。
そして、機械的な女性的な声が教室に鳴り響く。
「許可します」
アーシャはゆっくりと手を胸から離し、握りしめている手を開ける。瞬間、びっくり箱の様にアーシャの手から一冊の発光する本が飛び出してくる。その発光する本は空中でアーシャの周りをゆっくりと回転する。まるで意思を持っているかのように。
「うおっ!?」
思わずレイが椅子から腰を浮かせる。
本は一度アーシャの周囲を旋回した後、彼女の目の前で静止した。
表紙には文字も絵すらもない、完全に真っ白。
「閲覧:『悪魔の一夜』の神代記録」
アーシャがそう呟くと、表紙に血の様に赤い朱玉が最初からあった様に発生し、本が一人でにパラパラとページをめくりだし、一つのページでピタっと止まる。
直後、先程の機械的な声が再び教室に響く。
「記録を開始します」
「………さて、話すわよ」
アーシャは本を教卓にそっと置く。信じられないことに、本は教卓から5センチ程の所に浮いている。いや、物理法則はどこに行った!?
それに、あんな高性能な魔道具。見た事が……。いや、一つあったか!
『ミカエル……。あれ、聖遺物か?』
『エイド様もそう思いますか。ですが、聖遺物にしては神威が感じられないというか……』
それは俺も思った。だが、聖遺物以外にあり得ない。
何故か、俺が集めてきた大量の魔道具や魔導書、神遺物に聖遺物。物理法則を無視できる物は聖遺物か神遺物しか無いからだ。
まぁ、今はそんな事気にしても仕方がない。アーシャの話に集中しようか。
「まず前提から話すわ」
教室の全員が自然と姿勢を正した。
「『悪魔の一日間』……これは神話としてはレベル1でも読める有名な伝承ね。皆んなも子供の頃に読んだことぐらいあるんじゃないかしら」
俺は聞いた事はないが、周囲を見ると皆知っているらしい。その証拠に皆んなが頷いている。
「でも、本当の名前は『悪魔の一夜』なの。丁度今から神代暦で13万8588年前。現在は存在しない"城壁国家ベルグラン"がたった一日で滅亡した事件。表向きは、沢山の国が徒党を組んでこの国を落としたとされているわ」
アーシャはそう言いながら本のページ指でなぞる。すると空中に巨大な映像が浮かび上がった。
四方をとんでもなく高い壁で囲み、その壁からは大量の砲台や足場が見えている。
中は、見れないな……。
「この映像に映っている城壁に囲われた都市が、さっき言った城壁国家のベルグランよ。城壁の高さが五キヨで、この城壁の一辺の長さが大体二十キヨと言われているわ」
確か、一キヨが前世の世界でいうところの2キロだから、高さ10キロ!?デカすぎんだろ!神界でもここまでの高さはそうないぞ。いや、あるにはあるけど……。
レイも同じ感想を持ったのだろう。「デカすぎ……」と、ため息を吐く様に呟いている。
「そして、このベルグランは、“世界最強の防壁“と言われていた。事実、この国が発生してから800年間不敗。そして、何故一切の負けがないのか。それは、この城壁に施された結界の効果によるものと考えられているわ。その効果は、先ず魔法攻撃緩和でしょ?物理破壊不可、自然影響無効化、自動迎撃、敵意察知、気候操作、魔力貯蔵庫。判っているのはこれだけよ」
「いや、多すぎるでしょ!」
「当然でしょ。当時の世界最強よ?あ、あと言い忘れてたけど、この記録中にとったメモや文章は、全てこの本によって終わるタイミングで燃焼されるから注意してね。リナ」
「え……?」
悲しげな音楽が聞こえてくると錯覚する程の表情でリナはアーシャを見詰める。
「どうにかならないの……!?」
「残念だけど、諦めなさい。レベル8以上の記録は、メモすることも許されないわ。記憶するのよ」
「記録するのではなく記憶するのですか……。帰路くするのですね」
シーンとした様に教室が静まる。コイルは顔が真っ赤になって、思わず俯く。
その冷え切った空気を切り裂くように、アーシャが静かに続きを口にした。
「そして、ここからがレベル9」
空中に浮かぶ映像が変化する。巨大な城壁国家ベルグラン。世界最強と謳われた要塞都市。
その周囲を埋め尽くすように存在していた無数の軍勢が、一瞬で消え去る。
「……え?」
誰がその声を漏らしたのか。そんな事はどうでも良い。大事なのはこの映像だ。
「もう一回見せるわよ」
そう言って本を指でなぞって映像を巻き戻す。
だが、何回見ても結果は変わらない様に、またも一瞬で要塞都市が消え去る。
「学園長は知ってますよね?なんでこうなったのかを」
「勿論じゃ。ちょいと失礼」
学園長はアーシャの隣から映像に向けて手を出して、ある一部分を拡大する。
そこには、暗いマントを羽織っている高身長の性別不明の男だ。
だが、顔はモヤがかった様に判別できない。その男は、城壁に手を当てる。
「ーー」
そう呟くと、瞬間、先程の何も無い更地の映像に切り替わる。
あまりにも意味不明だったからだ。
城壁国家ベルグラン。世界最強の防壁で八百年間無敗。そんな国家が、本当に一瞬で消滅した。
「……これが、レベル9で開示された情報よ」
アーシャが静かに言う。
「城壁国家ベルグランを滅ぼした犯人は一人。そして、その方法は現在でも不明」
レイが額を押さえた。
「いやいやいや……。不明ってなんだよ」
「そのままの意味よ」
アーシャも困ったように肩を竦める。
「そもそもね。この現場がどうやって撮ることが出来たのか。それも解らないのよ?方法がわからないのは当然じゃない。でもねーー」
そこでアーシャは言葉を区切り、ゆっくりと俺に視線を合わせる。
「方法はある程度、検討付いているのよ……」
まって。嫌な予感しかしない。
「その男が使用したのは、分解魔法ではないか?ってね」
瞬間、皆の視線が一気に俺の方に向く。
いや、そんなに見詰められても何も知らないぞ!この世界に来たことすら無いのに!
なんとか弁解してもらおうとミカエルの方に視線を向けると、何故か目を下に向け、汗がダラダラと出ているミカエルが目に映る。
「ミカエル……。大丈夫か?」
「わ、わ、私は大丈夫です!!」
立ち上がり、俺に向けて敬礼する異常行動をミカエルは何故かした。
俺にもわかんない。皆んなも意味不明なものを見る目でミカエルを見ている。
「ま、こんなやつ放っておいていいから。話を続けようぜ?」
「わ、分かったわよ……」
そう納得した?様に再び俺たちに向けて今度は分解魔法について話し始める。
まぁ、その分解魔法については俺は知っているから、アーシャには悪いがミカエルの焦りを優先させてもらうぜ。
『で、ミカエル。なんでそんなに焦ってんの?』
『エ、エイド様!私、私ですね』
『落ち着け。ミカエル。いつも言ってるだろ?困ったりしたときは深呼吸だって』
『念話中なので出来ませんよ』
『神様ジョークって奴だよ』
全く。このジョークが判らないとは。理解に苦しむね。
『それで、怒らないから言ってみろって』
『本当に怒らないですね?本当に?』
『怒らないから。あまりにも悪かったら反省文を書かせるけどな』
『分かりました。話しますね』
意を決したみたいだな。現実でミカエルは深呼吸をして、再び俺と念話を繋げる。
『あの悪魔と呼ばれている高身長イケメン男子。私なんですよ……』
『……ミカエル。その話。詳しくね』
『反省文コースですか……』
『当たり前だろ!何やってんだよお前!!』
場合によっては、反省文どころでは絶対に済まさせない。誰が邪魔しようとな!
次は、最初はいつもの視点で。その後はミカエル視点です!




