第五十四話 この世界の魔法とは②
最近、蒸し暑くなってきましたね。体調に気をつけて生活しましょう
「それで、この小さな円の中には、“治癒魔法”や“探索魔法“とかの、人の身体を傷つけない魔法が含まれてるんだ」
カインの説明は、ミカエルから送られてきた資料よりも優秀だ。それに比較的常識人だし。神界にもこう言う人材が欲しいんだよなー。
「そして、さっきエイドが僕に聞いた系統外魔法は、この六属性のどれかから派生した三つの非属性魔法を指すんだ」
そう言ってカインは、“炎”と書かれた頂点から一本の線を上に向かって引く。そして、その線上に小さな円を書き、続けて水と光も同様にそうする。
「現時点で派生場所が分かってるのがこの三つの属性で、言い換えると、世界で認められている非属性魔法が三つしか無いってことなんだ」
カインは炎の線上にある小さな円をチョークで指し示しながら、俺に向かって質問を投げかける。
「さて、エイド。ここで問題だよ。この円に含まれる非属性魔法の名前は何だと思う?」
俺の方を皆んなが興味津々で見て来る。特にミスカ。
いや、俺がわかんないから聞いてるんだけどな!?まぁ、答えとくか。
「炎だから……地震とかか?」
「違うね。正解は、コイルが使っている魔法だよ」
一斉にコイルに視線が集中する。
少し居心地が悪そうな表情をするも、断定して応える。
「雷魔法ですか……」
「正解」
そして、器用な事に、円の中に“雷”と言う文字を書き入れた。
「ちなみに、この理論はまだ王族関係者しか伝わってないよ」
その一言で場が一瞬で凍りつく。
——王族関係者しか知らない。
つまり今、自分達は本来知るはずのない情報を聞かされたという事だ。
「……おい待て」
最初に反応したのは、やはりと言ってはなんだがレイだった。
「それ、普通に聞いちゃ駄目なやつだろ……」
流石にいつもの軽い雰囲気は消えている。
アーシャも額を押さえながら深いため息を吐いた。
「えぇ……。何でそんなのサラッと言うのよ……」
ミスカに至っては青ざめた顔で小さく呟く。
「消されないよね!?僕達!」
「「「「ミスカは王族だろ!!」」」」
いや、発想が物騒すぎるだろ。
だが、カイン本人は「しまった!」とでも言いたげな顔をした後、困った様に笑った。
「大丈夫だよ。別に国家転覆級の秘密って訳じゃないから」
そのカインのフォローにすらなってない言葉に、皆がなんとも言えない空気となって押し黙る。
ここは俺がなんとかしなければ!
俺は小さく咳払いをしてから、皆の視線を集める。
「まぁ安心しろって。もし問題だったら、そもそもカインは口に出してないだろ」
そう言うと、カインは「うんうん」と頷く。
「そういうこと。流石に本当に危険なら僕も言わないよ。それに、こういう知識は共有してなんぼでしょ?」
まあ、こいつの場合、その基準が怪しいんだけどな。
だが、少しだけ空気が和らいだのは事実だった。
「そ、それならいいんだけど……」
ミスカが胸を撫で下ろし、レイも刀から手を離す。
アーシャはまだ疑いの目を向けているが、ひとまず納得はしたらしい。
コイルは興味深そうにしてカインに問いかける。
「雷は、炎魔法を極めた者が辿り着けると言うことですか?」
「いや、全然違うね」
カインは黒板に向き直り、"雷"と"炎"を繋いでいる線の一部を黒板消しで消す。
「雷と言うのは、あくまでも先天的な炎適性から派生した属性だ。つまり、生まれ持った才能って事。話を戻すね。次は水だよ。水から派生した属性は、空間だよ」
「空間……?」
レイが眉をひそめる。
「それって、転移とか空間収納の?」
「そうそう」
カインは軽く頷きながら、“空間”と黒板へ書き込む。
「水属性は流れ、循環を司る属性って考えられていてね。その極地が、空間そのものへの干渉なんだ」
「とんでもなくスケールが巨大化してるわね」
アーシャのツッコミはもっともだった。俺も正直そう思うしね。だが、カインは慣れた様子で続ける。
「実際、空間魔法持ちは水属性の適性が異常に高い傾向があるんだよね。王国の研究でもそれは確認されてる」
へぇ……。思っている以上にしっかりと研究されてるんだな。
「それで、最後は光属性から派生した非属性魔法。それは、収束魔法だ」
「収束魔法……?」
今度はミスカが小さく首を傾げる。
「それって、どんな魔法なの?」
「いや、ミスカは僕と一緒に王宮で習ったよね?」
ミスカの体が一瞬だけ固まる。
「……あ」
そして、数秒後。みるみるうちに顔が赤くなっていった。
「わ、忘れてただけだし!?」
「完全に忘れてた顔だったけど」
「違うから!」
カインの即答に、ミスカは顔を手で覆いながら抗議する。
「というか、収束魔法なんて滅多に使う人居ないじゃん!」
「まあ、それはそうだけど……」
カインは苦笑しながら頷いた。そんな様子を見ていたレイから苦情が入る。
「そこのお二人さーん?イチャイチャしてないで本題に入ってくれよー」
「レイくん!?いや、こ、これは違うからっ!」
恥ずかしさの余り机に突っ伏して泣き喚くミスカを横目に、カインは少しだけ悩む様に顎へ手を当て、それから黒板へ追加で文字を書き足した。
「簡単に言えば、一点へ集める魔法かな。光魔法って色んな種類があるじゃん。光源魔法だったり、光線魔法だったりね。これらは全部、圧縮しているんだ」
「でも、私の炎魔法も圧縮出来るわよ?」
「それとこれとでは理論が違うんだよ。炎や水の収束と、光の魔法の収束は何が違うのか。それは、密度だ。炎や水は物質なのに対し、光は実態がない。つまり、理論上は無限の圧力を生み出せるんだ」
密度……。この世界にも伝わってたか……。学園長も言ってた通り、前世の世界で不審死した人物は転生してたんだな……。
「その密度ってのは、異世界人の知識なのか?」
カインは、俺の言葉に少しだけ目を見開いた。
「……よく分かったね」
「まあな。聞き覚えがあった」
実際には“聞き覚え”どころじゃない。
この世界の時系列で言うところの百万年前。俺が異世界転生システムを提案した本人なんだからな。
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