第五十話 自己紹介③
自己紹介回。ようやく終わりそうです。
(何で、こんな事に……)
泣きそうになる涙腺を気合いで押し止め、皆の俺に対する皮肉を必死に耐える。
こうなったのはついさっきの事だ。
*
レイナ先生に自己紹介する様に言われ俺は立ち上がり、その場で自己紹介をしようとした。すると、横に座っていたカインとレイが「やれやれ」とでも言いたげな仕草で俺のことを見る。
「何か文句でもあんのかよ?」
「「大アリ」」
二人とも、永らくの親友見たいに息ぴったりでそう俺に言う。
「先ず、前に立て。話はそこでしろ……」
「……ん?何で俺がそんなことーー」
「良いから立ちなよ。エイド君」
カインが、感情の籠っていないと言っても反論できない程の声で俺に言う。
俺、この声聞いたことがあるな。確か、フリザエルに昔喧嘩を売った時だったかな……。
それはともかく、フリザエルが苦手すぎるあまり、俺はこの感情が籠っていない声を聞くと体が言うことを聞いてしまうとのである。
「さっさと自己紹介しろよー!」
「早くやりなさい!」
そして、気がついたら教壇の上である。いつの間にかレイナ先生も教室の窓の側に立ってるし。ほんと、無意識って怖いな……。
「何で俺がここでするんだよ!みんな自分の席だったろ!」
「そうね……。だけど、貴方は無所属。つまり補助教員って訳だから立派な教職員の一人なの。そんな人が、自分の席で?冗談じゃないわよね!」
俺の疑問を完璧に皮肉で返してきた。そして、あの合格発表時のアーシャが、このクラスに君臨する。
「さっさと始めなさいよ!私達を待たせないで!」
「わかってるよ!今からやるんだってーー」
「ポケットに手を突っ込まない!」
「はい!」
思わず姿勢を正してしまう。
「皆んな……。何で俺だけ……」
「俺……。いや、俺ら思ったんだけどよ。エイドって注目を受けてるじゃん。俺らより絶対問題児な筈なのに、さも俺達が問題児と言う様に指摘してるよな?」
それに関しては、まぁ、うん。弁解できないな。でもさ。忘れてはならない人が二人いるよね?
「……。アーシャとかさ……」
小声で呟いたつもりだったが、アーシャは地獄耳らしく、にっこりとした笑顔でどすの利いた声を発声する。
「ぁあ?」
「ゴメナサイ」
怖い……。初めて会った頃とは別の意味で怖い。だが、俺には後一人、問題児がいるんだよなぁ!
「コイルとかは?」
「いやあれは無所属を作った学園長が悪いからさ」
「………」
ミカエルにやられた系統外魔法である雷魔法の使い手、コイル。あの公衆全面でミカエルに決闘を挑んだ異常者。
「で、俺にどんな自己紹介をしろと……?」
俺とSクラスメイトに緊張の糸が走る。そして、代表してアーシャが口を開く。
「最低でも、カインは超える自己紹介にしなさい!わかったわね!」
「わかっ……。え?」
「え?じゃない!早くして!」
「はいっ!」
俺は一度深呼吸をする。
……いや待て。何で自己紹介でここまで追い詰められてんだ俺。普通もっと緩いだろ。名前言って趣味言って終わりだろ。何で「最低でもカイン超えろ」とか言われてんだよ。あいつ基準がおかしいんだって。
「「「ほーら。始めろ。さーっさと」」」
「ぐっ……!」
クラス全員が逃げ道を塞いでくる。酷くない?
「……チッ」
諦めて前を見ると、皆の視線が集まる。
ミスカなんてキラキラした目で見てるし、リナは何か面白い事を期待してる顔だ。レイは腕を組んでニヤニヤしてるし、アーシャに至っては腕を組んで完全に教師面をしている。
この流れを知らない人にこのアーシャの態度を見せれば確実に教師と間違う。そのレベルだ。
「……エイドです……。趣味は宝石とか、綺麗な物探し。嫌いな事は面倒ごとに絡まれる事。憧れは……」
そこまで言って、言葉が止まる。
憧れ……?なんだそれ。そんなもん今の今まで考えた事もなかった。
神界じゃ、憧れる前に教育されて育ったし。それに、最初から皆んな慕ってくれてたし。
強いて言うならばーー
「親父……かな?」
「エイドの親父さんかー。会ってみたいな……」
ミスカが呟くが、絶対に会えないぞ?だって違う世界なんだからな。
「で、親父はさ。色んなことを教えてくれたんだよ。本当にな……。『辛いことはさ、少し経ってみれば笑い話さ』って口癖をよく言っていてな。これは俺にとって大事な意味を持つ言葉なんだ」
これは、心からの本心だ。
神界の作業で毎日、神界に来た数多の勇者や魔王、英雄や精霊を転生したくない者の魂を情報ごと削除してきた。
疲れ切っていた俺を、七天使長が慰めてくれていた時にもいつも思い出していた。
「……色々、あんたもあったのね」
そんな俺のしんみりした雰囲気を感じ取ったのか、珍しくアーシャが静かな声でそう言った。
教室の空気も、さっきまでの騒がしさが嘘みたいに落ち着いている。
ミスカはしんみりした顔をしてるし、レイですら、腕を組みながら真面目な顔をしていた。
いやー。話しずら!
そんな空気になると、逆に居心地悪い。
「親父はさ、不器用だったんだけど、格好良かったんだぜ。俺が落ち込んでても、無理矢理外に連れ出してさ」
そして、思い出す。今はもう数える事すら忘れてしまった年月の最初にある思い出を。
「確か、夕焼けだったな。安っぽいジュースを近くの駄菓子屋で買ってもらって、山頂にあるベンチで夕陽を眺めながら、悩みも聞いてくれたんだ……。で、その時に俺がさっき言った言葉をくれたんだよ」
「……グスッ……。良いお話ね……」
リナが涙ぐみながら聞いている。こんな空気になったら話しずらいな。
ここで、俺の中に一つの考えが浮かび上がる。
(この空気、ぶっ壊したらめっちゃ盛り上がるんじゃね?)
俺は、考えついたら即刻で実行するいわば感情型人間。
で、その結果がこれ。
「ーーちなみに、その親父。酔っ払った勢いで全裸になって川へダイブして警備兵に追い回されてたけどな」
「「「……は?」」」
さっきまでの感動を返せと言わんばかりに、全員の表情が固まる。
リナなんて涙が一瞬で引っ込み、口を半開きにしていた。
「え、いや待って!?今めっちゃ良い話の流れだったよね!?」
「そうよ!何でそこで全裸で川ダイブが出てくるのよ!!」
「いや、親父を語る上で避けて通れない事件だからな」
真顔で返すと、アーシャが額を押さえた。だが、この時の俺は馬鹿だった。
「他にも、“人は飛べる!”とか言って二階から飛び降りて骨折してた」
「馬鹿じゃない!?」
「でも本人は“飛べた。着地に失敗しただけだ”って言い張ってた」
「余計に馬鹿じゃない!!」
だからこそ気が付かなかった。自分が調子に乗っていることに。
「いや、それを言うならアーシャだって、合格発表の時に喧嘩をーー」
そこまで言った瞬間だった。ピタッと教室の空気が止まる。
ん?……あれ?何だこの嫌な静けさ。
俺は恐る恐るアーシャの方を見る。
「…………へぇ?」
笑っていた。ものすごく綺麗な笑顔で。だが、その額には青筋が浮かんでいる。
「乗ったのはあんたじゃない?」
「……はい?」
「私はねぇ?空気を壊したりしてないのよ?」
「いやでもーー」
「乗ったのは、貴方よ!」
ヤバい。本能が警鐘を鳴らしてる。
だが、時既に遅し。カインが俺の方を見ながら呟く。
「……同情はするけど、まあ、頑張れ」
貴方が言い始めた物語ですよね!?
いつのまにか五十話!ありがとうございます!




