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第四十五話 これはセクハラか?

明後日から、すこし不定期更新となります。

俺は手に力を込め、扉を力一杯で押す。だが、俺の予想とは裏腹に扉が重たすぎる。


「はぁ……。はぁ……。ちょっとタンマ!」


これ、どう考えても開かないじゃん!

後ろではレイナ先生が呆れた様に俺を見ていて、学園長に至っては床に転がりまわって面白がっている。

そんな様子を横目で見ながらも学園長を蹴り飛ばさなかった俺を誰か褒めて欲しい。


「もう一回っ!」


もう一度精一杯押してみても、びくともしない。

これ、本当に動くのかよ……。いや、動くんだろうけど。


「レイナッ先生っ!開くんですか!?これっ!?」


今も必死に押しているが、アリが象を押しているが如く動かない。

おかしいだろこれ。扉って普通こんな重量ある?


「エイド……」


後ろからレイナ先生の疲れた声が聞こえる。


「少し、落ち着いてください」

「いや無理ですよ!?これ絶対人類が開ける想定してないですって!!」


俺は全身に力を込める。腕が軋み、足が滑る。だがそれでもこの扉は少しも動かない。

マジで何なんだこの扉。後ろでは学園長が床を転がっていた。


「っははははは!!」

「笑うなジジイ!!」


しかも涙出る程笑ってる。そんなに面白いか!?それにあんた……。出た当初は厳格な雰囲気だったでしょうが!!


「あと少し……!」


俺は、今の肉体で出せる最高度の力を扉に与える。

その瞬間だった。


「うぉっ!!!」


突如として扉が開き、俺は扉にかけていた力を収める事ができず、前のめりになって倒れ込みそうになる。


(止まれっ!止まれ止まれ止まってくれーー!!)


だが無理だった。何せ、今の俺は全体重を扉に預けていたのだ。急に支えが消えればどうなるかなんて決まりきっている。そして俺の身体は、そのまま教室内へ勢い良く突っ込んだ。

そして、最悪な事に、俺の視線の先には輝くような長い赤髪を流し、頭に包帯を巻いた美少女がいた。

そうーー復活したアーシャ=ウィルドムだ。


「……え?」


アーシャが目を見開く。俺も見開く。だが、そんな事をしても現実は止まってくれない。


(神様!せめて方向だけでもっ!)


そんな願いも虚しく、俺の身体は一直線にアーシャへ向かって突撃した。


「きゃっ!?」


盛大にぶつかった。それだけなら事故として済まされただろう。だが、それだけでは止まらない。何故か……。勢いが死んでいないからである。

そして、アーシャの細い身体が俺の突撃を受けて大きく揺れる。

だが、俺自身も止まれない。足は完全にもつれて重心は何処かに消え去った。そしてここから先は、前へ倒れる未来しか見えなかった。


「ちょっ、あなーー!」


アーシャが何か言いかける。

だがその前に、二人まとめて床へ倒れ込んだ。俺は咄嗟に手をつく。本来ならそれで終わるはずだった。

だが、倒れる瞬間。アーシャの足が俺の足に引っかかった。そのせいで体勢がさらに崩れる。


「え――」


次の瞬間、俺の身体は完全にアーシャへ覆い被さる形になった。

ふわっとした赤髪が視界に広がる。そして、眼下にはアーシャの顔。


(こいつ……。近くで見たらマジで美人だな……)


こんな現実逃避じみた考えも虚しく、倒れた衝撃でアーシャの身体が軽く跳ね、その反動で俺の胸へ押し返される。その時、反射的に右腕でバランスを取る。それが最悪だった。


「……ん?」


右手に柔らかい感触が俺の手の感覚を包み込む。

嫌な予感を覚えながらも恐る恐る右手を見ると、案の定やらかしていた。

俺の右手はアーシャの胸部を押すような形で触っていたのだ。


(あ……。柔らかいな……)


俺の脳内演算領域と本能は、この現象を受け入れようとしなかった。否、受け入れたくなかったのだ。

だって、この後の展開はわかりきっている。

火炙りに物理的な処置を施される未来が、未来視を使わずとも見えてくるようになった。


「あ、あのー。アーシャ、さん?」


もう一度目線を上げると、数センチ先にアーシャの顔がある。

その顔は、先ほどまでと違い、完全にこの状況を理解したのだろう。肩がワナワナと震え始め、顔は真っ赤に染まって行く。赤髪からチラッと覗いている耳まで真っ赤だ。


「あ、あ、あああ貴方ねっっ!!」


直後、アーシャの体の周りに炎の柱が四本発生する。それは俺を囲うようにして展開され、そこからは想像を絶する様な温度が放たれている。


「あっついって!!」


事実、めっちゃ熱い。地獄に旅行しに行った時のサウナに入った時並みの熱さだ。

いや、その時点でおかしいんだけど。


「火力下げろよっ!!」


直ぐに起きあがろうとするが、アーシャの足に拘束されてしまい、思う様に動けない。

そして、俺はアーシャを見る。この顔はさっきのままだが、瞳は恐ろしいほどに冷え切っている。

そして繰り出された。俺がこの100万年間一度も喰らったことのない質量攻撃を。


「ーーふんっ!!」


刹那、強烈な打撃音と同時に、腹部から生命危険反応を示すアラームが俺の脳内に響き渡る。


(あ……。終わった……)


瞬間、とんでもない速度で俺の体は天井に飛んでいき、そのままの勢いでぶつかる。


「……痛っ!!」


それだけでも痛いのに、そのまま自由落下と来た。

そして、真下にはアーシャが居る。

そして、俺は思い出す。これと全く同じ状況を。あれは確か。ミカエルを真上に蹴り飛ばして落下するピンポイントでーー。


「はぁぁぁぁっ!」


アーシャが何か、柔術のような構えを取ったかと思うと同時に、俺の視界の流れが真横となり、遅れて俺の横腹に衝撃が轟く。


「……がっ!」


今度は回転しながらクラスの壁に高速で飛んでいく。そしてとんでもなく大きい衝撃音と共に俺の背中が壁に打ち付けられる。

薄れる意識の中、最後に見たのは学園長が笑いながら俺に何かを言っているなんとも胸糞悪い光景だった。

少しだけ聞き取れたが、それは聞き取れなかった方が良かったと俺は心からそう思った。

その言葉とはーー


「あの扉は押し戸ではないぞ!引き戸じゃ!」

お読みいただきありがとうございます!

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