第四十三話 羽虫と狼
結局、アイスはイチゴ味にしました。
『そして、二つ目ですが……』
突然、ミカエルは何も無い空間に手を突き出し、口を三日月型にして邪悪に笑う。
「……捕まえた……!」
そしてミカエルは、突き出した手を首を絞める様に握る。ゆっくりと、そして確実に圧力をかけ、最終的に握り潰す。
「……え?お前何してんの?」
その問いに、自慢げにミカエルは答える。
「少々羽虫が飛んでいましたので、術者本人まで消去させていただけました」
錯覚かも知れないが、ミカエルの手は血に塗れている様に見えた。俺はそれが少し不気味に思えたが、“ミカエルなら“と言う理由で俺の心からこの疑問を消した。
だが、ミカエルのこの表現……。
「監視されてたのか?」
「恐らくは……」
へぇ……。狙いは俺達新入生の監視だったのかな。しかし、一体何が目的で……。
だが、その術者は不運すぎたな。監視していたのが俺って事が、そいつの敗因だ。
「ちなみにだけど……。敵で間違いないよな……?」
これがもし敵じゃなくて、ただ監視していた人だったらちょっと人権的にやばいかも知れないからな。
ミカエルは、俺の問いに一瞬だけ目を丸くした。
まるで、「敵ではない可能性を考慮していたのですか?」とでも言いたげな顔だ。失礼な。流石に俺はミカエル程、理不尽じゃない。
「ご安心ください」
ミカエルは、にこやかに微笑む。それは先程とは違う、爽やかな笑顔だった。
「明確な敵意と悪意。そして、高位の隠蔽術式による監視を確認しております」
「あー、ならセーフか」
「はい。セーフです」
何がセーフなのかは分からないが、ミカエルが言うならセーフなんだろう。
その時、学園長が俺達の方向に振り返ってくる。恐らく、察したんだろうな。
俺は学園長に先程の出来事を簡潔に伝える。
『監視されていたらしいから、ミカエルが潰したぜ』
『ミカエル様が……!ならば安心じゃな』
いや、ミカエルに任せるのが怖いんだよ。何をやらかすのかわからないんだから。
「では、そろそろじゃな。各自!自分のクラスに行くのじゃ!!」
その号令と同時に、張り詰めていた空気が消えた様な気がした。
そして、新入生は一斉に騒めきながら動きはじめる。
「Bクラスはこちらに!」
「Dクラスー!こっちに来い!」
「Aクラスよ。集まりたまえ」
なんか一人、めっちゃ尊大な教師が混ざっていた気がするが、気のせいとしよう。
それより、ここの教師陣はやはり優秀だな。
さっきまで統率が取れていなかった新入生達が、その先生に従って動いている。
そんな事を考えていると、突然後ろから声をかけられる。
「貴方がエイド……?」
振り返ると、そこにはやや厳しそうな顔つきに腰までかかる程の長さの黒髪が特徴的な教師と思わしき女性だ。
「そう、ですけど……」
「私はSクラス担任のレイナ=アロマです」
「こちらこそ、挨拶が遅れました。エイドと言います。気軽にエイドと言って頂ければ幸いです」
にこやかにそう返すと、その女性は少し以外そうな顔をした。
「……もっと、荒い人物かと思っていました」
「ははっ。よく言われます」
即答すると、レイナはわずかに目を細める。
「入学初日にSクラスの生徒を二名戦闘不能、片方は治療必須。もう片方は学園長直々の介入」
「確かに、事実だけ切り取るとそうなりますね」
「……それで“普通に会話できる”のは、評価が難しいですね」
(いやー。それ褒めてないよな)
内心でツッコミを入れつつ、肩をすくめる。
するとレイナは一拍置いてから続けた。
「学園長からの命れ……。頼みにより、今後は私が貴方の監視及び監督役を任されました」
「……俺の方こそ、宜しくお願いしますね。レイナ先生」
こう言う所でポイントを稼いでおくんだよな!今、ミカエルのせいで、好感度が失われているからな。しっかりと稼がせてもらうぜ。
「よ、よろしくね」
そんな態度に戸惑いながらも、レイナ先生はちゃんと返事を返してくれる。
「して、学園長をどう思いますか?」
先程のレイナ先生の態度を見るに、学園長の事が苦手と見た。ここで学園長の悪口を出汁にして共感する事で、信頼を蓄積していく算段だ。
「どう、とは?」
「いや、人柄だったり。態度だったり。人使いだったりーー」
「わしの話かのぉ?」
頭を掴まれる形になりながらも後ろを振り返ると、学園長が笑顔で立っている。
「あ、あのー。学園長。話してくれません?」
「いやじゃ」
こうしている間も、少しずつ頭を握る力が強まってくる。まって、これって……。
「デジャブ、ですね」
「いや、言うなよ」
ミカエルが俺の顔を横から見ながら代弁する様に呟く。
「それで?さっきまでなに言ってあったのかの?」
「いやー。学園長は素晴らしいお方とーー」
「わしの人柄……。じゃったか?」
聞こえてたのかよ!不味いな。心理戦は学園長の方が何枚も上手だ。
「わしみたいに、優しくて、人を思い遣る心を持っている偉人はそう居ないぞ?」
「「……」」
俺とレイナ先生は思わず顔を見合わせて、頷き合ってしまった。
何で、出会ったばかりの人とこんなにも共感できるんだろうな……。
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