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第四十話 ナニカ

がんばりましょう!

学園長が降り立って、先ず最初に行ったのはコイルの治療だ。


「魔術回路がボロボロじゃのう……」

「手伝いましょうか?学園長」


ミカエルが心配そうに学園長の後ろから声をかける。だが、学園長は大丈夫だと言うように手でミカエルを制する。

そして、もう一方の手をコイルの頭に当てて無詠唱で魔法を唱える。


「最上位回復魔法:魔術損傷回復」


ゆっくりとコイルの全身が淡く発光し出す。それは確実にコイルの魔術回路を治していく。

その様子に息を呑むものもいれば、悟りを開いたような表情をする者など様々だ。

そして、完全なる治療を終えた後立ち上がり、周りの新入生を見渡して言う。


「勝者……。ミカエル!」


学園長の声は、周りが静かだった為に、余計にその声は響いた。


「学園長。ミカエルは無所属のままですか?」

「うむ」


学園長が頷きながら肯定する。その時、空気をまるで読んでいないミカエルが手を振りながら俺の元に帰ってくる。


「エイド様ーー!」


その弾んだ声を聞いて、とりあえずミカエルに言いたい事が2つ出来たわ。


「ミカエル。先ずはよくやった」

「身に余る光栄。ありがたく」


恭しく跪き、嬉しそうに頬を緩ませる。確かに、ここは褒めた方がいいんだろうけど、これだけは譲れない。


「この、バカ!」


俺は怒りの勢いでミカエルの頭頂部目掛けて拳骨を喰らわせる。鈍い音が響いた直後、ミカエルの頭から血が吹き出して倒れる。


「……エ、エイド様……?」


ほざいているが知った事か。


「ミカエル。俺は今、猛烈に怒っている」

「……と、仰いますと……?」


いつの間にか回復したミカエルは、跪きながら言う。

大分昔に言ったことだから覚えてないと思うんだけど……。


「ミカエル……。命はーー」


その瞬間だった。突如視界が胸を締め付けるような激痛と共に大きく揺れた。


「ぐっ………!」


地面の感覚すら曖昧になる中、俺の意思とは関係なく"何か"が流れ込んでくる。


「エイド様……?エイド様……!?」


ミカエルが必死になって俺の名前を呼ぶが、その声も少しずつ遠のいていく。


(ミカエル……!)


突如、黒煙に覆われ、周囲の建物は崩壊しかけている光景が視界を支配する。

燃え盛る炎が瓦礫を赤く照らし、肉が焦げたような匂いと鉄の匂いが辺り一体に立ち込める。

そして、遠くから聞こえる悲鳴。助けを求める声。何かが崩れる轟音。


(なんだ……。これ……)


そんな中、血に濡れた瓦礫の中心で膝をついた一人の男に俺の視点が釘付けになる。

男の腕の中には、ぐったりと力を失った女性を抱いている。

白い服は真っ赤に染まり、腹部からは止まることなく血が流れ落ちている。


『ポチャ……。ポチャ……』


石畳に血の滴が垂れる音だけが俺の耳へと届く。悲鳴は、聴こえなくなった。

男は天を仰ぎ、その顔からは涙が零れ落ちている。

だが、その男の顔はピントが合っていない様にボヤけて誰なのかが全く分からない。

ただ、これは、これだけはわかる。


(諦めてるな……)


生への諦め。そして世界に対するとてつもなく深い憎悪。その男に抱かれた女性は、何かを言いかけてーー。


「ーーッ!……はぁ……ッ!」


視界が一気に現実へと引き戻される。

気づけば呼吸が乱れていた。額を拭うと冷や汗が滲んでおり、指先が小さく震えている。


「エイド様……!」


目の前では、ミカエルが今まで見たこともないほど焦った表情を浮かべていた。

その顔を見て、俺はゆっくりと頭を押さえる。


「……なんだ、今の……」


頭が、痛いな……。ここまでの痛みも久しく味わった事がない。だが、重要なのはそこではない。


(さっきのは……。一体……)


最低でもわかるのは自分の物では無いって事ぐらいだ。あの映像には、俺ではあり得ない特徴があった。

ーー弱すぎる。

俺ならば、街の一つや二つぐらい、寝ていても守りきれる。だからこそ、あの記憶に違和感すら抱いていない。


「ま、気にしてもしゃーないか」


とりあえず、今はミカエルを叱る事を考えよう。

そう考えてミカエルを見ると、その深緑の瞳は少し腫れ、どこか悲しそうな目をしていた。


「……どうした?ミカエル」


思わず素に戻って尋ねてしまったが、これはこっち優先だ。怒る事は後回しだ。


「すみません……。エイド様が心配で……」


少し笑ってミカエルは言う。自分では気づいていないと思うが声が震えてるぞ。


「お前、心当たりあるだろ?」

「……是。とだけ言っておきます」

「じゃあ教えろよ!!」


思わずムキになって言ってしまったが、その命令すらミカエルは悲しそうに受け流す。


「……これだけ言っておきます。エイド様。私は……。いえ、私達は、“人の過去に踏み込む権利はない“と……」


(いや、絶対何か知ってるだろ……)


だがミカエルのあの顔を見ていると、俺はそれ以上強く聞く気にはなれなかった。


「とにかくだ!」


一度息を吐き、俺はミカエルに言う。


「話を逸らすな。お前は反省しろ」

「……はい」


しゅん、と肩を落とすミカエル。

その姿は、先程まで化け物とか規格外と言われていた存在とは思えない。


「全く……。時間巻き戻すとか何を考えてんだ!あ?」

「ですが、死ぬ訳にはいきませんでしたので」

「だったら初めからちゃんとしろ!」


こいつ……。妙なところで戦闘狂だからな。ちゃんとしていれば死にかける事も、俺に怒られる事もなかったのに。


「申し訳ありません……」


ミカエルが素直に頭を下げる。


「……いや待て」


その瞬間、学園長が俺たちの間に割って入り、真顔で口を開いた。


「今、『時間を巻き戻した』と言わなかったかの?」


空気が止まる。ここで俺も自身の発言の過ちに気づく。


「あ……」


俺とミカエルの声が綺麗に重なった。周囲の新入生達も、一斉に固まる。


「……ほう?」


学園長の目がスッと細くなる。俺たちは思わず正座をしてしまう。


(マジでフリザエルみたいな覇気だな。このおっさん)


俺達は、教えられていた時期が違えど、フリザエルに対する苦手意識は徹底的にに叩き込まれているのだ。似た様な覇気を感じれば正座してしまうほどに。


「お主ら……。何をしてるんじゃ?」


戸惑った様に学園長は俺達に言うが、ミカエルはゆっくりと気まずそうに俺から顔を逸らした。


「………条件反射と言うやつです」

「どんな癖じゃよ……」

「全くです。どういう癖なのか私にもーー」

「お前が言ったんだろ!!」


パッと立ち上がりミカエルに言うが、その横から感じる冷気にすぐに座り直してしまう。


「……話しを戻そうかのぉ」


その言葉の直後、俺にすら視認できない速度で手を上げて、やらかしやがった。


「エイド様がよく知っておられます!!」


(テメェ!全部俺に丸投げか!?)


だが、俺の中にいい言い訳も思いつかず、愚策に出てしまう。


「……き、気の所為では?」

「誰が信じるか!!」


その声は、学園中の隅々まで響き渡ったのだった。

お読みいただきありがとうございます!

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