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第三十九話 決闘②

明日は休みます。すみません。

手を雷雲に向けてミカエルは、囁く様に権能を発動する。その権能は【全能の果て(オーバー・マイティ)】だ。この世界に受肉した為、権能を応用する事はできない。だが、それはこの場における最も適切な魔法を創造する。


反魔法(アンチ・マジック)全能の否定(アン・マイティ)

「これで、終わりです!!」


コイルはそう発し、手を握り潰す。瞬間、雷龍が雷雲から発生し、ミカエルを喰わん迫る。

逃げ場など、存在しない。防御不可、回避不可の一撃に、観衆が息を呑む。


「お、おい……あれ……!」

「直撃したら終わりだぞ……!」


だが。その中心でミカエルは、動かない。否、動く必要がない。

刹那、雷龍がミカエルに触れた。瞬間、横に空間ごとブレる様に弾かれ、雷雲ごと消え去る。


「…………は?」


コイルはありえないものを見た様に呟く。


(範囲も……。出来るのか……!)


心の中に一筋の希望が消えた様だった。そんな心情のコイルにミカエルは冷静に尋ねる。


「まだ、やりますか?」


その空気を読まない発言が、コイルの闘争本能に火をつける。

コイルは歯を軋ませ、拳を握る。


「舐めないでくださいっ!」


コイルは自身に対して雷魔法を発動させる。直後、コイルの全身を雷が薄く纏う。


「系統外魔法:雷纏(らいそう)!」


この魔法は、ドレイン家にある固有魔法である毒纏を改造したコイル自身の魔法だ。

この効果は、自身に雷属性を付与すると言うシンプルかつ凶悪な技だ。

そして、自身が雷になると言う事は雷と同じ速度で動けると言う事だ。


「行きますよっ!」


刹那、懐に滑り込んだコイルはミカエルの横腹に掌底を撃ちつける。直後、ミカエルの視界が360度回転する。そして勢いのまま魔法障壁にぶつかり、地に伏せる。


「ゴホッ……」


血を吐きながらもミカエルの思考は冷静だ。ゆっくりと立ち上がり、コイルを見据える。


(雷と同じ性質という事ですか……。いよいよ、後がなくなってきました……)


ここでミカエルが取れる行動は2つ。一つ、この世界ごと破壊する。だが、これは論外。主に怒られる事だけは、何があってもならないからだ。

そして二つ、スキルを使う事。コイルの全身を纏う雷を解除するスキルはあるにせよ、それを使ってはせっかくの戦いが面白く無くなる。


(ならば………!)


ミカエルは地面に手を当てて土の剣を作る。ミカエルの魔力を混ぜているのだから脆いわけがない。強度は鉄の何十倍だ。


「では、行きます」


ミカエルは一気に剣を手に持ち走り出す。

それを見ていたコイルは少し嬉しそうな声色だ叫ぶ。


「剣ですか!!」


瞬間、ミカエルの背後に回り込み、蹴りを入れたーー。だが、その一撃は横に数センチずれて服を掠める事しかできなかった。


「なっ!」

「忘れていましたか?私が重力を扱う事を」


ゆっくりとミカエルは勝ちを確信した目でコイルを見据える。

だが、それで勝ちを確信するわけがない。だが、それを可能にするのがミカエルだ。

目で追えないはずの速度にもミカエルは冷静に剣で対応する。

そんな状況に、少しずつコイルの表情が曇り始める。


「おや、お顔が曇っていますよ?」

「うるさいっ!」


軽口を叩きながらもミカエルとコイルは恐ろしい速度で斬り結ぶ。隙をついてコイルが放った雷撃も、頬を掠めるだけで大きい成果は出せていない。

そして、ミカエルの魔力量にはまだ余裕があるが、コイルは少しばかり余裕がない。このままいけばコイルはジリ貧で負けてしまう。だが、それを良しとしないのがミカエルだ。


「では、勝負を決めます」

「同じく!」


コイルは残った魔力全てを雷へと変換し、その全てを右腕へと叩き込む。

骨が軋む。筋肉が裂け体が悲鳴を上げる。だが、止めない。

少しずつ、空気にプラズマが走り出し、周囲の魔力が、右腕一点へと強制的に引き寄せられていく。

その異様な現象に、ミカエルの目が僅かに細まる。


(……これは)


神界で長らく不動の地位を確保してきたミカエルにとって、久しぶりだった。“無視できない”と判断したのは。

コイルの右腕は、既に人の形を保っていない。

光に侵食され、輪郭が曖昧になっている。

それでも、構わない。ここで終われば、全てが無意味になる。


「奥義――雷霆!」


瞬間、ミカエルに向けて右腕を突き出し、人の目では視認することさえできない雷撃が、一筋の光となり、圧倒的な熱量を持ってミカエルに迫る。


(速い――)


ミカエル自身、"思考加速"によって雷霆がゆっくりと流れてきている。だが、遅すぎた。


(判断を、見誤りましたか……!)


エイドを含む神界の生命体は、管理対象の世界に入る時、肉体の強度が洒落にならない程低下する。そんな状態で、この雷撃を喰らえば、確実に、"死"。

そしてこの世界で死んだ場合、輪冠の記録(アカシックレコード)に死亡記録が刻みつけられ、蘇生は不可能。だからこそ、ミカエルは焦る。


(……これは、受けるしか――)


次の瞬間、一筋の雷撃がミカエルの胸を貫いた。


「……ッ、カハ……!」


遅れて衝撃が爆ぜる。

体内を焼き裂く様な熱と破壊が、内側から暴れ狂う。

そして立ち込める焦げた匂い。視界が、揺れる。


(……しまっ……)


足が、ゆらよらと前に出る。一歩。二歩。そして、膝が地につき、倒れた。


「や、やったか……?」


そう小さく呟いたコイルは、その場に立ち尽くしている。

右腕は、もう動かない。焼け焦げた匂いが、遅れて鼻を刺す。

そして、コイルの視線の先にいるのは、地に伏し、倒れているミカエルの姿だ。

動かない。……動かない。


「…………」


誰も、声を出さない。

観客席も、教師陣も。空気が、止まっていた。やがて。


「……勝ったのか……?」


誰かが、恐る恐る呟く。その一言が、引き金だった。ざわ……と、小さく波が広がる。


「終わったのか……?」

「マジで……?」


現実が、ゆっくりと受け入れられていく。

コイルは、ようやく息を吐いた。


「……終わりましたか……!」


確信だった。そしてゆっくりとミカエルから背を向ける。その背中には、先程までの戦意はもうない。

完全に、戦いを終えた者のそれだった。

だからこそ、それは必然だったのだろう。


「――素晴らしかったです!」


その声は、あまりにも鮮明に響いた。ざわめきが、止まる。直後、魔法障壁が黒く塗り潰される。

それと同時にコイルの足も止まり、思わず呟きが漏れる。


「……は?」


理解が追いつかない。


(確実に倒したはずだ……!どういう……!)

「素晴らしかったです!!私を地に伏せさせるとは!」


ゆっくりと、コイルが振り返るとそこには何事もなかったかの様に無傷のミカエルが拍手をしながら立っていた。

そして、その表情は興奮気味だ。


「実にいい!エイド様への土産として、実にいい!」


だが、直ぐにコイルの視線に気づき、咳払いをして真面目な表情となる。


「さて、続きを始めましょうか」

「ど、どう言う事だ!」


コイルの眼には、ミカエルは理解できない情報として写っている。


「何って、時間を巻き戻しただけですよ」

「……化け物かよ……」


当たり前の様に言い放った言葉に、コイルは心からの思いを口にする。そして、コイルは戦いを再び始めようと魔法陣を生成しようとしたが、それは途中で崩れ去り、コイルの目から血が滴り落ちる。


「おや、オーバーヒートですか。不便ですねぇ」


その言葉の後に、コイル仰向けに倒れていった。視界は真っ赤に染まり、ミカエルの顔すら正確に把握できない。

そんな倒れたコイルを横目に、ミカエルは考えた。


(これは、私が勝ったでいいのでしょうかね?)


ミカエル自身、スキルを使わなければ負けていたのだ。ここで嘘でもミカエルの勝ちと言ってしまう事は、ミカエルのプライドに反する。


(はたしてどうするべきか……)


その時、コイルから弱々しく声が発せられる。


「何を、迷っているのか知りませんが、貴方の勝ちで……す……」



「何を迷っているのか知りませんが、貴方の勝ちで………す……」


そう言って、力尽きる。


「そうですね。これは、失礼に当たりますか……」


その瞬間。外側を覆っていた障壁が、音もなく揺らぎ、ピシッ……と、細い亀裂が走る。

次の瞬間、ガラスが砕け散る様な音と共に障壁が崩壊した。

押し込められていた魔力が一気に外へと溢れ出し、突風の様に観衆を打ちつける。


「うわっ!?」

「な、なんだ今の魔力……!」


誰もが目を細め、この煙の中を見ようとする。そして徐々に視界が晴れていく。


「は……?」


そこにいたのは、無傷で立っているミカエルだ。反対にコイルは地に伏している。

その光景に理解が追いつかないが、それを冷静に分析している者がいる。


「やはり、監視者じゃのう……」


学園長は額に流れる脂汗を拭いながら、興奮と恐怖の狭間の様な感情を呟きとして溢す。


「さて、この茶番を終わらそうかのう」


そう言ってミカエルの勝ちを宣言する為に地に降りていった……。


お読みいただきありがとうございます!

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