第三十二話 崩解
少し長いですが、読んでください!
瞬間、アーシャの足元に無数の魔法陣が構築される。
それも、俺と戦った時に見せた数では無い。
5つ、6つーー7つだ。
「構築!炎系第五階位魔法:【焔の弾丸】!」
魔法陣から無数の弾薬が物質界に顕現し、アーシャの頭上に設置される。
「初手から第五階位!?」
「レベル高すぎるだろ!」
直後、弾丸が俺を目掛けて亜音速で飛んでくる。
俺は【スキル:万物創造】を使い、氷の剣を創り出す。そしてアーシャ目掛けて走り出した。
直後、俺のいた所に弾丸が地面に衝突する。
「チッ!鬱陶しいのよ!」
苛立ちながら叫んでいるが俺は笑いながら挑発を繰り出す。
「それが俺の取り柄だからな!当てれるもんなら当ててみやがれ!」
この言葉で、アーシャの背後に浮かんでいた弾丸が倍増する。少しばかり熱量も上がっている様に見える。
「そんなに言うなら、避けてみなさいよ!」
アーシャは手を振り下ろし、俺に向けて弾丸を射出する。
俺は幾つかは剣で弾くが、後の何十個の弾丸は弾かずに俺の元まで来させる。
俺が一般的な受験生だったらここで弾丸の蜂の巣にされて終了だっただろう。
だが、俺にとってその攻撃は既に適応済みだ。
俺はほんの少しだけ体を横にずらして、一つの弾丸を服の隅に当てさせ、それ以外を全て避ける離れ業を披露する。
「あっぶな!!」
俺はわざとらしく、大きな声で叫ぶ。
(実際は、当たる訳が無いんだがな)
俺の【スキル:完全適応】は、一度見た攻撃は、最小限に、そして最適に回避、又は無効化できるスキルだ。
追加で俺は、【スキル:確定結果】を使い、今後起こりうる全ての可能性の結果を取得する。これにより、未来で視認したと言う事となり、アーシャが放つ全ての攻撃に対し適応できる。
そして、今回の戦いに置いて俺は完全適応の効力をあえて弱くしている。
だからこそ、弾丸一つを選び、それに自分の服の端を少し焼かせる業を成し遂げたのである。
「なら、これはどう!?」
アーシャが言葉を発した直後、俺の足元に炎色の魔法陣が構築される。
「炎熱系第六階位魔法:【地炎原】。束縛系第五階位魔法:【炎の鎖】!」
瞬間、俺の足に炎の鎖が絡まりつく。
剣で切った瞬間に圧力により爆発するタイプだな。
爆発したら、ゲームオーバーだっただろう。
(少しは活躍しないとな!)
俺は足に纏わりつく魔法陣に手を当てて魔法を使う。
「系統外魔法:【魔術式分解】!」
俺は、足に発生した二つの魔法を【分解魔法】で削除する。
その光景を見てアーシャが驚いた様に呟く。
「系統外……ですって?」
突如、観客席が騒がしくなる。
「系統外って、あのごく一部のやつしか使えない、固有魔法の事だよな!?」
「だとしたら、アーシャ=ウィルドムも負ける可能性が出て来たぞ!」
そんな奴らを黙らせるが如く、アーシャが新たな魔法陣を展開する。
「そんなの。関係ない!炎風系魔法:【炎の連鎖爆発】!」
俺の腰辺りを包む様にして炎の玉が俺の周りをゆっくりと回る。
こんなの……削除して下さいとか言ってるもんだろ。
「……はぁ……はぁ……。【分解】!」
肩で息をしながら、魔法を発する。
直後、俺の周りを囲っていた玉が一斉に消失する。
アーシャは思考を手放しかけたが、流石と言ったところか、直ぐに立て直した。
「だったら!」
両手を前に突き出し、盤上を覆い尽くす規模の魔法陣の構築を始める。アーシャも悟ったのだろう。このまま行けばアーシャの魔力が先に尽きると。
(決着は短期決戦!)
アーシャはゆっくりと、だが確実に残りの魔力を凝縮する。
だが、俺は何もしない。
何故か……。見てみたいからだよ。こいつの、今の到達点をな!
そんな俺の考えが分からない在校生は、焦った様にざわつき始める。
「何か、狙いがあるのか……?」
「無理だろ!いくら相性がいいからって言ったって!」
アーシャは、そんな奴らの言葉に踊らされる事なく、ただ目を閉じて構築を始める。
「元来ある。純然たる炎の結晶よ。世界を焼き尽くす業火よ!」
来たか。
「我、帝へと望みたまう。地獄を飲み込む炎、顕現する事を!相対す敵を打ち滅ぼす事を!」
禍々しい真っ赤な色をした魔法陣が、煙を立てて縦に何重にも渡り展開される。
「最上位血統魔法:【血に塗れた夜祭り】!」
その言葉の直後、超上空から赤紫色をした質量の塊が落下してくる。
「私の……勝ちよ!」
勝ち誇った様に言ったアーシャは、魔力を使い切ったのか、今にも倒れそうなほどフラフラしている。
「不味くないか……?」
「学園長は止めないのか!?」
野次馬がとやかく言っているが知ったこっちゃない。
「……確かに、これはヤバいかもな」
演技をする労力がな!
俺は直ぐに手を真上に上げて、とんでもなく薄い魔法陣を闘技場に蓋をする様に展開する。
そして、見せかける為に詠唱を開始する。
「理を司る概念よ。我が言に応じよ」
その瞬間、この場に集った全ての者が叫ぶ。
勿論、全ての言葉を詠唱していたら、この戦いが終わっちまう。だからこそ、この魔法を選んだんだ。
「存在を成す全ての要素、今ここに露わとなれ。歪みは正され、過剰は削がれ、やがて全ては本来の姿へと還る」
その瞬間、魔法陣が蒼海色に激しく明滅する。
「これが、これこそが……帰結だ!系統外魔法:【崩解】!」
直後、真っ赤な物体が、闘技場に迫らんとしてくる。そして、俺が展開した魔法陣を通ろうとしたその時だった。
ーービシッ!。
まるで硝子に亀裂が入るような音が鳴る。
「……っ?」
アーシャの瞳が揺れる。
赤紫の塊の表面に、細かい“ひび”が走っていた。
一つ。また一つ。
「なに……これ……?」
次の瞬間、音もなく、物質そのものが、内側から崩れた。
爆発ではない。ただ、“分解”された。
粒子にすらなれず、存在そのものが削ぎ落とされるように、音もなく跡形もなく消えていく。
「……は……?」
観客席から、間の抜けた声が漏れる。それもそのはずだ。
この魔法、【崩解】は、俺が開発した初めての魔法だからな。
そして、その効果は崩壊だ。
物質であれ、非物質であれ、現象であれ。その全てを内部構造を把握せずとも時空間ごと、消し去る。この魔法で俺は様々な困難を乗り越えて来た。スキルを習得し始めてからはまるっきり使わなくなったがな。
「……はぁ……っ!……はぁ……っ!」
俺はわざとらしく手を膝を当て、肩で息をする。
手も、少し震わせる。
「……ギリ……だな……」
そう呟いて、額の汗を拭う。
まぁ、余裕だけどな
俺は視線だけでアーシャを見る。
その瞬間、アーシャの顔が歪む。
(……違う。今の……“ギリギリ”なんかじゃない……!)
魔力の流れ。術式の完成度。そして、あの“消え方”。
どれを取っても、“偶然”や“紙一重”で済むものではない。
「……あなた……」
震える声で、問いかける。
「本当に……それが全力……?」
俺はその言葉に、少しだけ目を逸らす。
「……さぁな」
軽く笑って、立ち上がる。
だが、その動きはほんの僅かに鈍い。
「……次、来るなら……もっと弱めに頼むぜ」
あくまで“余裕がない風”に。
その演技を、アーシャは見逃さない。
(……隠してる……!)
確信に近い疑念。
だが同時に、焦りも生まれる。
(なら……引き出す!)
アーシャは残った魔力を無理やり絞り出す。
「……なら、これはどう……!」
手を俺に突き出し、手のひらに収まるほどの真紅の魔法陣が一つ。大きさだけを見れば一般的な魔法陣だ。しかし、それは今までより明らかに何かが違う。
「一点集中……?」
観客の誰かが呟く。
巨大ではない。派手でもない。だが、密度が異常だ。
「圧縮型……!」
学園長が、思わず立ち上がる。
「魔力を……一点に極限まで圧縮しておる……!」
アーシャは、俺から目を逸らさない。
「……逃げないで……ちゃんと……。見せなさいよ」
挑発ではない。これは、あいつにとっての挑戦なんだろう。
俺は、その言葉に一瞬だけ沈黙する。
「……めんどくせぇな」
ボリ、と頭をかく。
次の瞬間、勢い良く、アーシャの魔法が視認すらできない速度で俺目掛け、一直線に撃ち出される。
「……遅ぇよ」
俺は、一歩だけ踏み出す。そして正面から拳を振るう。それは、魔法でもなんでもない。
ただの拳の一撃。それだけで、圧縮された魔力ごと衝撃で弾き飛ばしだ。
「……なっ!」
アーシャが怯んだ隙を、普通の奴でさえ見逃す訳ねーよな。
俺は右手に少しの魔力を込めて、初級魔法を放つ。
「ーー【超魔力弾】!」
光の速度を超えて、そして速度の法則すらも改変し、アーシャの腹に突き刺さる。
「……ガハッ……!」
闘技場の端の壁に叩きつけられる様にして飛んでいく。
その光景に誰もが呆然となる中、学園長の声だけがこの場に響き渡る。
「勝者……エイド!」
誰もが、その宣告を受け入れるのができなかった。
それより、心配なのがアーシャだ。
「医療班。今すぐアーシャの元に!」
俺は、闘技場に待機しているであろう医療班に声をかける。
俺の言葉を受け、直ぐにアーシャに向かう。
ひとまず、これで安心かな?
「学園長……戻っていいですかね?」
「うむ……。それは良いのじゃが、エイドよ。命令はどうするんじゃ?」
命令?なんそれ?
俺は聞き覚えのない事柄に首を傾げると、それを感じ取ったのか学園長が説明を始める。
「この権利には、罰があるのじゃよ。その罰は、勝った側の言う事をなんでも聞く権利じゃ」
なんでも……?
その言葉に、俺の眉がピクッと動く。
「なんでも……と仰いましたね?」
「う、うむ。そうじゃが」
その言葉に、思わず顔がニヤけてしまう。
そんな俺の顔を見て、観客が揶揄う様に叫ぶ。
「アーシャさんで変な事考えてんじゃねーよ!」
「笑った顔が気持ち悪いぞー!」
「うるさい!黙っとけ!」
思わず叫んでしまったが、これは俺悪くないよな?
その時、学園長から思念が送られてくる。
『エイドよ……』
『……なんでこの回線番号を知ってんだ?学園長』
『今から、わしの部屋に来い』
『拒否権は?』
『当然ない』
思わず頭を抱えるが、まあ良いか。正体がバレるのも時間の問題って訳だし。
『……良いぜ。行ってやるよ』
その会話の直ぐ後に、学園長は振り返って、闘技場全体に響き渡る声で言う。
「これからエイドとは、権利をどうするか。その説明の議論をしてくる。後の入学式は教頭先生に任せるぞい」
「「「わかりました!」」」
全く……。元気がいいのか悪いのか。いや、少なくとも元気は有り余っているな。
「それじゃあ行きましょうか。学園長」
「うむ」
そうして俺達は闘技場の最上階にある校長専用の部屋に向かったのであった。
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