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第二十六話 筆記試験

いやー。宿題多い。

魔法測定の騒動の後、受験者たちは半ば強制的に移動させられた。

……まあ、結果的にはミカエルのやらかしも悪くなかったが。あれで試験が崩れてたら、本気でぶん殴ってたところだ。


「次は筆記試験だ!受験する者はついて来い!」


試験官の声が響く。


さっきまでの熱気が、嘘みたいに引いていく。

代わりに残ったのは、静かで張り詰めた空気だった。

整備された石畳の道を進む。均一に刈られた芝、魔力灯の柱、無駄のない配置。見ただけで分かる。ここを作った奴はめっちゃセンスいい。


「へー……ちゃんとしてるな」


通された教室は、四十人は入る広さだった。

机と椅子は寸分違わず並び、天井から落ちる光は柔らかい。


「……懐かしいな」


無意識に呟きながら席に座る。

ミカエルは、当然のように斜め後ろに位置取った。


『エイド様。少々よろしいですか?』

『なんだよ』


暗号化された念話が届く。


『今回は、如何なさいますか?』


俺はペンを指先で回す。

滑らかに、無駄なく。止める。


『平均点』


短く、それだけ。

一瞬の沈黙。


「……完璧に、ですか」

「あぁ。ズレたら目立つからな。あえてだよ。あえて」


やがて問題用紙が配られる。そして、試験官の声が響く。


「試験時間は50分!それでは開始!」


紙の音が一斉に鳴る。


(さて)


問題は三つ。歴史、魔法理論、魔物知識。

どれも、俺からすれば知識ですらない。勿論、満点は取れる。だが、満点は論外だ。

俺はゆっくりと瞼を閉じる。


【満点】論外。

【128点】高すぎる。

【91点】まだ高い。

【81点】まだ削れる。


削り、削り、削る。

そして、ついに出来た。


【75点】


「……これだな」


俺は、右手で間違いと正解が混雑した答え。左手で計算式を書き続ける。わざと迷い、わざと間違え、わざと正解する。

“出来る奴が調整した答案”じゃなく、“そこそこ出来る奴の答案”を作る。


・歴史:18

・理論:32

・知識:19


完璧だ。心の中で高笑う。そして俺は、ゆっくりとペンを置いた瞬間チャイムが鳴り、試験官の声が響く。


「終了!結果は明日の正午に学園の掲示板に張り出す!では、解散!」


紙が回収され、周囲から崩れる声が漏れる。


「終わった……」

「無理だろあれ……」


その中で、ミカエルだけが静かに笑っていた。俺はミカエルに念話を送る。


『どうだった?』

『……エイド様。暗号強度を上げてください』


全く、いつもはこんな性格じゃないのにな。律儀なやつだ。


『で?』

『当然。満点でございます』

『だろうな』


短く返し、立ち上がる。ミカエルも俺の後ろからついてくる。外に出ると、空気が変わっていた。昼の熱は引き、風が少しだけ冷たい。

西に傾いた光が、街を柔らかく染めている。


「……終わったな」


ぽつりと漏れる。


「はい。全試験工程、完了しております」


後ろから聞こえる声はいつも通り。だが、どこか満足げだった。


「結果は明日か」

「はい。正午です」


一日、一日だけだが、時間が空く。


「時間あるな」


ミカエルが、ほんの少しだけ間を置いて言う。


「……街をご覧になりますか?」


俺は肩をすくめる。こいつと意見が合うのはラファエルに対する愚痴だけだと思ってたんだけどな。


「珍しく意見が合ったな。俺もそのつもりだ」


そして俺達はゆっくりと門の外へ出る。その時、少しだけ、空気が変わる。

人の声。店から漂う食べ物の匂い。流れる魔力。生きている街の感触が、肌に触れる。


「……悪くねぇな。行くか」


ミカエルが後ろで微笑む。


「エイド様がそう仰るなら。私はどこまでもお供します」


そのまま、人の流れに紛れて歩き出す。その時だった。

視線が俺の背中に当たる。

ほんの一瞬だけだが、好奇心の色を含んだ視線の感覚だ。

だが、


「気のせいか」


俺は気にせず歩き続ける。

こう言う事を言ったら必ずイベントが起こるからな。

背後で、ミカエルが小さく呟いた。


『……いえ、確実に見られていますね』

『お前、本当に空気が読めねーな。ほっとけ』


街の喧騒やら商売の声が飛び合う中へ、俺たちは溶けていった。

明日投稿します。

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