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第二十四話 第一試練

試験官の声が、グラウンドに響く。


「これより、セルナール学園入学試験の、実技試験を開始する!」


ざわ、と空気が揺れる。

受験者たちの表情が一斉に引き締まる。

さっきまでの雑談が嘘みたいに消えた。


「まずは第一試験」


試験官が手を上げる。

次の瞬間、ドンッ!と地面が震えた。


「……は?」


受験者の誰かが呟く。このセリフ。ロッドなら絶対言ってるな。

地面の一部が盛り上がり、そこから現れたのは、巨大な魔物だった。

全長三メートルはあるだろうか。

岩のように鈍く光る皮膚に、鈍く光る赤い目。


「魔物……?」


周囲がざわつく。


「第一試験は単純だ!」


試験官が声を張る。


「この魔物を、この場にいる全員で討伐しろ!」


一瞬だけ、静寂がその場を支配する。

そして次の瞬間、爆発的に騒ぎが広がる。


「はぁ!?」

「全員でも殺せるか!?」

「無理だろそんなの!」


まあ、普通はそうなるわな。ここまでの魔物を……か。この世界のレベルからしたらかなり高い。

俺は、腕を組んでその魔物を見る。


「……ふーん」


ミカエルが横で静かに呟く。


「なるほど。この世界基準では上位個体に当たりそうですね」

「そうだろうな」


正直、話にならないくらいに弱い。

だが、


「エイド様」


ミカエルが小さく俺の耳元で言う。


「少しばかり、レベルが低くないですか?」


あぁ、そういうことか。

周りの受験者の動きを見る。人数は二百人。詠唱に時間がかかってるやつや、剣を握る手が震えてるやつ。

そして、既に諦めてるやつさえいる。

……なるほどな。


「……ちょい調整するか」


俺は一歩前に出る。

試験官がこちらを見る。


「準備はいいか?」

「いつでもどうぞ」


軽く答える。

その瞬間、魔物が咆哮を上げ、地面を砕きながら突進してきた。一般人が当たれば、最悪の場合即死……。


「おいおい」


俺は、少しだけ笑う。


「入学試験にしては、やりすぎだろ」


俺は、ゆっくりと一歩踏み出す。

その瞬間、俺の身体の"腕"が消えた。


「……え?」


誰かが、そう呟いた時にはもう遅い。

直後、鈍い音がして、魔物の巨体が宙を舞った。


(やべ……。やり過ぎた!)


俺の思い虚しく、その魔物は何10メートルも吹き飛び、地面に擦り付けられようやく動きが停止する。

その光景を見て、受験生達がざわつき始める。


「おい。何だ!今のは!」

「魔物が……飛んだ!?」


緊張の糸が切れた様に、会場は騒がしくなる。そんな中、俺に秘匿念話回線でミカエルの言葉が送られてくる。


『エイド様。やり過ぎでは?』

『言われなくてもわかってるわ!俺だって、やり過ぎの自覚ぐらいはあるわ!』


ミカエルに怒りをぶつけても仕方がない。この試験の中、注目が集まっているのは俺だ。この状況をどうするか。それは……。


「はぁ、はぁ、やったか?」


俺は肩で息をする演技をしながら、表面上の魔力の量を大幅に減らす。こうする事で、大量の魔力を解放して吹き飛ばしたという認識になるからだ。

だが、俺に予想できなかったことがある。そう、あの魔物の頑丈さだ。


「なっ!」


俺の口から出たこの声は、演技でも何でもない。心からの驚きだ。


『エイド様!仕留め切れていませんよ!』

『わかってる!……ミカエル!弱体化されろ』

『かしこまりました』


ミカエルの声が、静かに返る。その声は、先程までとは違い、至って冷静だ。

次の瞬間、誰にも気づかれないほど微細な魔力が、空気中に溶けた。


「……?」


魔物の巨体が、わずかに揺れる。

それだけだ。外から見れば、何も変わっていない。

だが中身は違う。骨格強度、筋力、魔力循環――その全てが、“この世界の平均的より低い魔物のレベル"まで一気に引き下げられた。


『完了いたしました』

『サーンキュ』


これでいい。ようやく、“戦いを見せれる相手”になった。

俺は、地面を軽く蹴る。


「っ……!」


わざと少し遅めの速度で接近する。

魔物が咆哮を上げ、再びこちらへ突進してくる。

さっきまでの圧とは違う。

今度は、ちゃんと“受験者が戦うべきレベル”だ。


(これなら問題ねぇな)


俺は拳を握り、振りかざす。


「ウォォォォォ!」


と雄叫びを上げながら重い一撃を魔物の頭に叩き込む。

魔物がぐらりと揺れる。


「おおっ!?」

「効いてるぞ!」


周囲の受験者たちの声が変わる。

さっきまでの“意味不明な現象を見る目”じゃない。

ちゃんと、“わかる戦いを目にした時の目”だ。

いい流れだ。俺はもう一発魔物の頭に拳をぶち込む。

ガンッ!!今度は踏み込みを強め、撃ち抜く。すると、ダメージか、弱体化のせいか、魔物がヨロヨロと後退りする。


「今だ!」

「畳み掛けろ!」


ようやく、他の受験者も動き出す。

火球が飛び、風刃が魔物の体を削り、氷が魔物の足を凍らす。連携もクソもないが、十分だ。

俺は一歩下がる。


「はぁ……っ……!」


肩で息をする。こうする事で、完全に“限界近い奴”の仕草になる。

ミカエルが、恍惚とした様な満足そうな気配を出す。


完全調整(パーフェクト・セーブ)ですね!流石はエイド様!』

『いや、まだだな』


魔物はまだ立っている。だが、もう時間の問題だ。


「くそっ……!」


俺はフラつきながらも一歩を踏み出す。

この演技をしている時、俳優の気持ちが少しわかった気がする。めちゃくちゃ気を使うわ。


「行けっ!」

()れぇぇ!」


周りの受験生が叫ぶ。

その叫びを聴きながら、拳を魔物の胸部に叩き込む。

今度は本当に、本当に少しだけ、本当に少しだけ力を乗せた。魔物が倒れる様にな。その拳を打ち込んだコンマ1秒後、魔物の動きが止まり、ズシン、と音を立てて崩れ落ちた。

完全な静寂が場に流れる。


「……討伐を、確認!」


試験官の声が響く。

その瞬間――


「うおおおおお!!」

「倒したぞ!!」

「マジかよ……!」


受験生達から歓声が上がる。

俺はその場に膝をつく。


「っ……はぁ……はぁ……」


完全に“やりきった感”を出す。息を荒げとけば、周りから"張り切った奴"として見られるだろう。実際は疲れてすらないがな。

そんなことを考えている俺に、ミカエルが静かに近づいて来て、何処から取り出したのか、タオルを俺に渡してくる。


「お見事でございます」

「疲れた……ってことにしとくぜ」


タオルで汗を拭きながら、小声で返す。



試験官が前に出る。


「第3試験会場の、第一試験の評価を発表する!」


ざわ、と空気が引き締まる。


「今回の討伐において、最も貢献した者――」


視線が俺に集まる。


「受験番号112番、エイド!」


まあ、そうなるよな。


「本試験の基準により――50点を与える!」


周りからどよめきが出る。


「50点!?」

「満点じゃねぇか!」


試験官が続ける。


「なお、他の受験者も討伐に貢献したため、個別に加点を行う!」


お、そこはちゃんとしてるのか。


「基準に達した者は、実技合格とする!」


一気に安堵の空気が広がる。

さっきまで絶望してたやつらが、一斉に崩れ落ちてるな。

俺は立ち上がる。


「……思ったより、まともな試験だったな」

「そうですねぇ。協力型に変更されていたのは想定外でしたが」

「……なんで知ってんの?」

世界魔法(ワールド・マジック)世界盗聴(アラウンド・ヒア)ですよ」


ミカエルが淡々と返す。

まあ、雑談はこの辺にして。


「結果としては、良い方向に作用しましたな」

「はい。仰る通りです」


ミカエルが俺に相槌を打った。その時だった。


「続いて――第二試験!」


試験官の声が響く。この言葉で、先程までのざわめきがサッと消える。


「第二試験は魔法基礎能力測定を行う!」


空気がまた変わる。


「個別評価だ!全員、順番に並べ!」


受験者たちがザワザワと騒がしくなってくる。


「おいおい、魔力を使った後でかよ!」

「それが狙いなんじゃねーのか!?」

「性格悪すぎたろ!」


この受験生達は、本当に解説役に向いているな。

そんな光景を横目に、俺は軽く肩を回す。


「次は個人戦か」

「はい。こちらは誤魔化しが重要になりますね」

「……一応言っとく。わかってるな?」


ミカエルが小さく笑う。そして、言う(問題発言を投下する)


「分かっております。全力、ですね?」

「ちげぇよ!」


頭がおかしいミカエルを相手にしながら俺は受験生達の列に並ぶ。

さて――ここからが、本当の“勝負”……いや、"調整"だ!

次は第二試練です!

次も読んでください!

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