第二十話 参戦
更新が遅れてしまいました。すみません。
空気がピリッと張り詰める。
アンナとロッドは、俺とあいつの行く末を見守るのだろう。観戦する構えをとっている。
対する“俺の偽物”は、無言のままこちらを見ている。
その瞳に宿るのは、理解と観察の色だ。
「実に、不快ですねぇ」
それは、唐突にだった。
不意にその場に、もう一つの声が響く。
あ……この声は……。
「――ッ!?」
ロッドとアンナも衝動的に振り返ると、2人ともが息を呑む。
そこに居たのは、恐ろしく整った顔つきに白き羽を静かに畳み、俺の一歩後ろに初めからいたかのようにいる、超常的な存在。
「エイド様」
次の瞬間。
音もなく、完璧な動作で跪く。土が服に付こうが、その者の方が上であると言う考えが出ている。
剣を自らの足にあたる寸前に突き立て、跪く行為は、行為者の絶大な信頼を表している。
「このような“未完成品”にお手を煩わせるとは……」
ゆっくりと顔を上げる。
その翠緑の瞳は、穏やかで、圧倒的な信仰の色を含んでいる。
「一体、何故なのですか」
空気が、消える。
圧ではない。
この場の存在の優先順位が書き換えられたのだ。誰が上位の存在で、誰がその下に位置する存在かを。
アンナが、その圧に耐えきれずに地面に押し倒され、ロッドも、剣を支えにしてようやく立っている。
「ミカエルよぉ」
こいつ、マジの最悪なタイミングで来やがったな。
来た直後から、こんな圧をばら撒くなんてな。
「落ち着け。これは命令だ」
「申し訳ございませんでした。少し取り乱してしまいました」
その言葉の後、ミカエルから放たれていた神威の圧が薄まる。
「で、お前、後始末の仕事は?」
「エイド様が、あの空間から帰還なされた後、早急にあの世界の戦争の後始末を済ませてまいりました」
「……なら良いんだけどよ」
最悪だ……。まさか、こんなに早く仕事が終わるなんてな。今の俺じゃ、事象干渉系統のスキルは使えないし、だからと言ってミカエルに頼るのもめんどくさいし。
「この様な失敗作に、慈悲をおかけになっていたのですか?」
「んなわけねーだろ。張っ倒すぞ!」
「慈悲をおかけになるエイド様も実に素敵なのですがね!!」
「黙れ!恥ずかしい!それより、あれがこっち来るぞ」
俺の言葉通りに、“俺もどき”がミカエルに照準を合わせる。
そして、動こうとする"意思"が、空間に満ちた。
まあ、無駄だけどな。
「なり損ないの分際で、エイド様を模倣するとは……」
次の瞬間、“俺もどき”の身体がピタリと止まる。俺もどきも、なにが起こったのかわからないのだろう。目を見開き混乱している。
「やるのは良いが、負荷かけ過ぎんなよ?」
「承知しております。では……。スキル:万物消失」
静かな宣言。
その瞬間、“俺もどき”の周囲で発動していた神威が、完璧に消え去った。
空間の軋みも、模倣の挙動も、全てが“無かったこと”になる。
「――――ッ!?」
“それ”が、初めて焦れたように顔が歪む。
だが、ミカエルの興味は一切そちらに向かない。
「いーよな。俺、干渉系統のスキルを少しでも発動させたら、この世界が崩壊しちまうからな」
「??別に良いではありませんか。エイド様が世界を崩壊させようとも」
このメチャクチャな思考回路をどうにかできねーかな……。
「ミカエル。俺さ、ミスってこの世界が俺自身にかけた制限を破壊しちまったから、制限下での本気すら出せねーんだわ」
その言葉で、ミカエルの顔に理解の色が浮かぶ。
「……成程。恐れながら申し上げますと、早急に制限を御身におかけになられた方がよろしいのでは?」
「そうだよなぁ。普通のスキルしか使えないのはつまらないし」
そんな話しをしている間も、"俺もどき"が動こうともがくが、ミカエルは俺の方ばかり見て、"それ"にすら一瞥しない。
「後で制限はかけるとして……。ミカエル。あそこで動かれても視界に悪いし、さっさと消せ」
「エイド様の視界に悪影響を与えていたとは……。わかりました。今すぐ、視界から抹消しますね」
ゆっくりとミカエルは"俺もどき"へ歩き出す。
「神遺物の成り損ないとは言え、神遺物ではありますからね。形式的な段階を踏まなければいけません」
"俺もどき"の目の前まで来て、"それ"の頭部部分に手を翳す。
「事象時計に告ぐ。"これ"の未来に起こるであろう全ての発生確率を消去す。スキル:存在抹消」
その言葉は、あまりにも逆らいようも無く。あまりにも残酷だった。
「い、い――」
"俺もどき"が初めて焦った様に声を上げる。
だが、ミカエルは微笑む。あ、この笑顔は……。
「ご安心ください」
優しい声で、狂ったことを消える直前の"それ"の耳元で囁く。
「弱り切っているエイド様に害を及ぼす可能性がある以上、“存在していた並列世界”ごと排除致します」
パチンとミカエルの指が鳴る。
それだけで。“俺もどき”が消え去る。
影も、残滓も、痕跡も。"俺もどき"のせいで押し潰された木々も全てが元通りだ。
そう、最初からそこには何も無かったかのように。
少しの静寂が有り、森が、ようやく息を取り戻す。
「……処理、完了致しました」
「弱りきったがいらなかったがな」
ミカエルはめっちゃ笑顔で振り返り、再び、俺の前で跪く。俺は少しだけ愚痴を吐く。
「本来であれば、発生前に排除すべき事象でした」
項垂れながら、頭を垂れる。
「エイド様の御手を煩わせた事、深くお詫び申し上げます」
ロッドが、震えた声で呟く。
「……今のが……“謝罪対象”……?」
ミカエルは顔を上げずに喋る。
「はい」
迷いなくロッドに言う。
「エイド様が一度でも関与された時点で、私の管理不行き届きですので」
アンナは言葉を失う。
ロッドも、完全に沈黙する。価値観が、違いすぎるからだ。
少し恥ずかしくなって、おれは頭をかいた。
「……お前さぁ」
ため息。
「毎回それやめろって言ってんだろ」
「恐れながら」
即答。そう言うところなんだけどな。
「これが、これこそが、私の存在意義なので」
頭を上げ、ニッコリと笑う。
「そして、エイド様に敵意を向けた事象は、全て“破棄対象”ですので」
沈黙。アンナとロッドの顔が引きつる。
俺は空を見上げた。
「……この場の空気、どうすっかな……」
その一言に。
ミカエルは、心底嬉しそうに目を細めた。
「お手を煩わせてしまい、申し訳ございません」
「はぁ......思ってねーだろ。頼むから、お前、問題行動起こすなよ……」
明日の7時にも投稿します。
ぜひ見ていってください!




