第十八話 例のモンスター
少し遅れての更新となりました!すみません
ロッドが家に着いたのは調査しに行った三日後の夕方だった。
「エイド様!居ますか!?」
その声で、俺はソファーから玄関を見る。
なんだかんだ言っても無事に帰ってくると思ってたんだかな……。
「おいおい、どうしたんだよ」
思わず俺は目を疑った。あのロッドがボロボロだからだ。腐っても元勇者。こいつを打ち負かせられる存在となると……。
「ロッド……。闘うなって言ったよな?お前に任せたのは調査だけのはずだが……」
「違うんです!聖遺物などは無く、私が戦った魔物は……スライムでした」
「「……スライム?」」
俺とアンナは揃って声を出す。
だって、あのスライムだぜ?ゲームに出てくる「僕はスライム!悪いスライムじゃないよ!」とか言うチュートリアルのモンスター。最弱にして、最も人気の高い魔物。
「お前らの世界じゃ、スライムってまあまあ強いのか?」
「いやいや、最弱ですよ。スライムはG級冒険者でさえ、一撃で殺せます。そんな魔物に……」
「信じてください!ほんっとうにスライムだったんです!!」
この言葉を俺は最大限信用できる。何故なら……。
ロッドの声が、震える。それはただの恐怖じゃない。
理解できないものを見た時の、あの震えだ。こんな様子のやつを信じれないなんて、それは気狂いかバカだけだ。
「……落ち着け。何があったか詳しく聞かせろ」
俺が低く言うと、ロッドは一度深呼吸をし、言葉を絞り出した。
「神威を放っていた者は、そのスライムしかなかったので、そのスライムを殺せばいいと思いました。スライム程度、簡単にやれると思っていました。弱くて……すぐに斬れました」
「なら、なんでそんなボロボロなんだよ」
ロッドは、ゆっくりと首を振る。
「斬ったんです。確かに、斬ったはずなんです……なのに」
その目が、恐怖に染まる。
「……再生したんです。スライムが再生することはよくあることです。ですが、なんと言うか……ただの再生じゃないんです」
部屋の空気が、重く沈む。スライムの形が変わることは珍しくない。環境に最適な姿に変化するからだ。だが当然その特性もロッドは知っているはずだ。だからこそ、ここまで驚いているんだろう。
「斬られるたびに、“形”が変わっていったんです」
「形……?」
アンナが小さく呟く。
ロッドは、はっきりと頷いた。
「最初はただの水色の塊でした。ですが……次第に、腕が生え、脚が生え……」
そして、ロッドは一瞬だけ言葉を詰まらせる。
「そして、最後には“人の形”になったんです」
「……ほぉ」
思わず口元がにやけてしまう。
それはまた、面白ぇじゃねえか。
「その姿は……まるで……、四代目勇者、そのものでした」
沈黙。
アンナの顔色が、見る見るうちに青ざめる。
確か、アンナが五代目だから、そのスライムはアンナの親父ってことかな?
「そ、そんな……ありえません……」
「認めたくないのはわかるよ。だけどね、事実なんだ。私がこの目で見たからな」
ロッドは、拳を握り締める。
そして、俺の方に向き直り話を続ける。
「しかも……あのスライム、こちらの技を“真似”してきたんです」
「なるほど……コピーか」
そこまで来たら、可能性は一つしかない。
「最後には、私の動きすら……完全に読まれていました」
だからその傷、ね。
俺はゆっくりと立ち上がる。
「エイド様……あれは、魔物じゃありません……。あれは、確実に“聖遺物"です」
その言葉に、少し、胸が高鳴る。
「いいねぇ」
久しぶりに、退屈しなさそうだ。
「なあ、ミカエル……。面白くなってきたじゃねえか」
これもあいつが用意した愛なら、ちゃんとやってやらないとな。
「恐らく、と言うかほぼほぼ確定だが、それの名前は"贋作"だな」
俺の言葉に首を傾げるアンナ。
「その神遺物には、エイド様の宇宙や私の創律の様に、二つ名がないのですか?」
「いいところに気づいたな。少し詳しく説明しよう」
そう言うと、俺は別次元の箱から前世でお馴染みのホワイトボードを取り出して、文字を書く。
「この赤丸が見えるか?」
「「バカにしてるんですか……」」
「冗談だって!冗談冗談」
2人が絶句しているが、笑って誤魔化す。
ロッドはともかく、女を怒らせたら、神でさえも殺されるからな。悪ふざけもほどほどにしないと。
「でだ。この丸の中に収まっている物が神遺物で、外側にある者は聖遺物ってわけ。ここはまえ言ったっけな?」
ホワイトボードを軽く叩く。
「……それは、以前教えていただきましたね」
アンナが頷く。
「確かに、ラファエル様がお越しになった時に話していました。」
ロッドがアンナの言葉に付け加えて頷く。
「あー、そっか。じゃあ続きな」
「……それぐらいおぼえといてくださいよ」
「はいはい悪かったって」
軽く流しつつ、俺は続ける。
「で、本題だ。さっき言った“贋作”ってやつな」
ペン先を、円の“内側”と“外側”。つまりは線の渕に当たる。
「これはな、分かりやすく言うと、神遺物に“なり損ねたもの”だ」
「……なり、損ねた……?」
ロッドが眉をひそめる。
「本来、神遺物ってのはできた瞬間から“完成された概念”だ。最初から完成してるか、あるいは完成に至るだけの器があるかのどっちかだ」
一度言葉を切る。ホワイトボードに線を一本引き、真ん中ぐらいで切れ込みを入れる。
「だが、ごく稀にだが、途中で脱落しちゃうんだ。完成できなかった力が、形だけを保ったまま残る。中身は空っぽ、なのに“本物になろうとする”」
静かに、笑う。ここまで来たらわかるかな。
「それが、“贋作”だ」
部屋の空気が、ひやりと冷える。
「じゃあ……あのスライムは……」
アンナが小さく呟く。
「“何か”になろうとしてる最中ってわけだ」
ロッドの表情が強張る。
「……だから、形を変え……真似を……」
「そ。スライムって魔物は、俺が知ってる限りだと、贋作と相性が最高にいい。見たもん、使われたもん、全部取り込み続けて完成に近づこうとしてる」
俺は肩を回しながら立ち上がる。
「で、四代目勇者を真似たってことは、“勇者”って言う概念をお前らから読み取ったんだろうな。つまり、あいつは四代目勇者並の力を持ってるぞ」
「……っ!」
アンナが息を呑む。
ロッドは、拳を握り締めた。
「そんなものが……存在していいはずが……」
「いいかどうかは関係ねぇよ」
俺は玄関の方へ歩き出す。
「存在してる時点で、“対処する側”の問題だ」
ドアに手をかける。
「行くぞ」
振り返らずに言う。
「アンナ、お前は実戦だ。ロッドは案内」
「は、はい!」
「……承知しました」
二人の声が重なる。
俺は小さく呟いた。
「なりそこないが、“本物”を気取るとか笑わせんなよ」
その言葉と共に、ドアを開いた。
「あ、ロッドとアンナの模擬戦したかったんだけど、今からする?」
アンナとロッドが呆れながら一言。
「「それ、今言いますか……?」」
4月9日にも、ちゃんと出します




