第十七話 この落ち着いた世界に崩壊を!
すみません。タイトルに違和感があると思いますが、無視してください。
どれくらい眠っていただろうか。
ゆっくりと、おれの意識が浮上する。
「……いつぐらいだ?」
目を開けると、見慣れない天井……みたいなファンタジーじみた展開はなく、ロッドの家の天井が視界いっぱいに広がっている。
体を起こすと、ソファーの向かい側でアンナがまだ眠っていた。
創律ナーバを抱くようにして、静かに寝息を立てている。
「……ほんと、疲れてたんだな」
俺が課したクソ試練の後だ。
まあ、無理もねぇか。
「ん……」
小さく身じろぎしたアンナが、ゆっくりと目を開ける。
「……エイド様……?」
「おう。起きたか。具合はどうだ?」
ぼんやりとした目で周囲を見回し、状況を思い出したのか、アンナの顔が少しだけ赤くなる。
「……すみません。取り乱してしまって」
「気にすんな。むしろよくやった方だろ」
軽くそう言うと、アンナは少しだけ驚いたように目を見開き、俺をじっとみる。
「ありがとうございます」
小さく、だがしっかりとした声だった。
「さて」
立ち上がり、アンナに声をかける。
「ロッドもいねーし、どうしようかなー」
「確かに……そうですね」
アンナも立ち上がり、創律ナーバを腰に差す。
少しの沈黙。
「……街、見て回るか?」
「……え?」
「どうせロッド帰ってくるまで暇だろ。試練も終わったわけだし。ついでに、お前の新しい力の感覚も慣らしとけ」
アンナは少しは考えるかなとか思っていたが答えは違った。
「はい!行きましょう」
アンナは確かに頷いた。
*
外に出ると、街はいつも通り?の賑わいだった。まあ、来た事ないからわからんけど。
人の声やら商人の呼び声、そして子供の遊んでいる笑い声。
「ゆったりしてるな……本当に」
「……平和、ですね」
俺が思っていたことをアンナがぽつりと呟く。
「そうだな」
俺は空を見上げる。
ここで敢えて意地悪な発言をする。
「だからこそ、こんな平和が壊れた時が面白いんだけどな」
「……エイド様?」
アンナが真顔で見てくるが、俺はそれを軽く受け流し、
「あんまマジになんなって……まあ、冗談だよ」
軽く笑って誤魔化す。
まぁ、実を言えば、半分本音だが。
こんな争いもない世界は、一度戦が起こると容易く崩れ去るだけだ。
アンナからグルル、と音がして、アンナを見ると顔がイチゴみたいに真っ赤だ。
俺は思わず笑ってしまう。
「ククク……アハハハハハ!」
アンナが恥ずかしそうにしながら声を荒げて反論する。
「お、お腹がなったくらいで……!」
その反応が実に可愛くて……。おっと、これ以上は危険だ。
俺は空気が読める人間?なのだ。これ以上煽ったら流石に殺される。
「腹が減ったんならよ。アンナ。何か食うか?」
近くにある屋台の方へ顎をしゃくり、屋台に向けて歩き出す。
「え、あ、はい……」
アンナが少し戸惑いながらもついてくる。
「すみませーん!串焼き二つ!」
「はいよー!」
店主が慣れた手つきで串を取り出して俺に手渡す。
適当に串焼きを2本買って、1本をアンナに投げる。
「ほらよ。」
「ありがとうございます」
恐る恐る一口。まあ実に一口の量が小さいわけだ。
「……美味しいです」
「だろ?」
「……なんでエイド様が自慢げなんですか」
「そりゃ。俺が選んだんだからな」
しばらく、他愛もない時間が流れる。
世間話やら、ロッドの過保護な事例やら。
そして、街からゲートに向かって帰る時、アンナの質問が俺に飛ぶ。
「先程、エイド様はこんな平和を壊したいと言っていましたよね?いったい何故ですか?」
あちゃー。覚えていたか……。まあ、大したことでもないし、教えてやるか。
「この世界以外にもいろんな世界があることは知っているな?」
「はい。この世界ではその情報は国家機密です」
あの日、アンナと偶然会った景色が鮮明に蘇る。未来とは、いつでも予想できないものだ。いや、それも運命ってやつなのかな。
「エイド様?」
「あぁ、すまん。ちょっと考え事をしててな。続きな。ここみたいな争い事がない世界があってな。その世界に、魔王が発生してな。人々は一瞬で魔族や魔物に支配された。だからミカエルはどうしたと思う?」
アンナは少し考えたあと言った。
「魔王を、殺したとか?」
「……まあ、ある意味合ってる。正解は、その世界ごと存在を消したんだ」
俺の言葉を聞き、口を手で覆うアンナ。少しショッキングな話だが現実は残酷だ。
「なんで……なんですか?」
何故か、か。昔、この話を聞いたラファエルにも聞かれたな。俺はラファエルに言った言葉をアンナに教える。
「手遅れだったからさ」
「手遅れ?」
「そうだ。俺たちが介入して、世界を助けてみろ。そしたら、その世界の住人は俺たちに全てを任すこととなる。それは管理上面倒だし、世界にはそれ以上の発展は望めない」
「ですが!まだ、生きる希望を持っている者たちだって、いたんじゃないんですか!」
やはり勇者だから耐えられないんだろう。アンナは俺に向かって反論する。
「だから、ミカエルが消したんだよ」
「え?……」
「あの時、ミカエルが俺になんて言ったと思う?
『貴方様は、ご自身の手を汚す必要はありません。汚れ仕事は、このミカエルにお任せを』って言ったんだよ」
優しいだろ?……この言葉は、俺は言葉にしなかった。もし、この会話もミカエルに聞かれてたら面倒臭いからな。
「要するに、これ以上発展が望めないのなら、"死"って訳。勿論、死んだ人達は、邪悪なものを除いて転生させてある」
「邪悪な者?ですか……」
「そ。イカれた殺人者とか、悪意を持って人を傷つけた者とかのことだね。そいつらは、輪脱させた」
「輪脱、ですか?」
アンナが首を傾げる。知らないのも無理はない。こちらの世界での単語だからな。
「魂ってのは輪廻転生するだろ?」
「いや……初耳です……」
知らねーのか?まあ仕方ない。
「それが法則な。で、その輪廻から、魂を外すんだよ。その魂が行く先にあるのは、"無"だ」
「その"無"とは一体?」
「存在消える。文字通りだ」
滅多にいねーが、十年に一回ぐらいはいるな。
「私も、そうならないようにしないと……」
その言葉を聞いて笑ってしまう。そしてアンナに笑いながら言う。
「勇者は、一回でもなったら無になることはないよん」
「……っ!」
顔から煙が噴き出ている(比喩でもなく)。アンナの顔が真っ赤だ。今日、何回こいつの赤い顔を見ないといけないのだろう。
*
ある森の中。
「はあ、はあ、早く、エイド様に報告せねば……」
目に見えぬ速度で森を駆け抜けるロッド。
服は所々破けており、口には血が着いている。
「まさか、"あれ"が……」
ロッドの呟きは、思っている以上に森の中で反響した……。
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次の更新は4月9日の8時30分です!!!ぜひ見てください!!




