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終末の地球を渡る僧侶  作者: 仲居雅人


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第4話 ラスト・サミット

 上海の港から日本の横浜に着くまで2週間掛かった。ここに来るまで一緒に働いていた人達は何人も死んだ。私を船に乗せてくれたあの男も死んだ。

 感染症が流行したようだが、幸い貰わなかった。もちろん、安全な場所へ隔離されていた政治家も誰一人感染することはなかった。



 戦前、日本で政治家が集まる場所といえば東京だった。それか原子爆弾の落ちた長崎か広島。しかし東京にも原子爆弾が落とされて人が集まれるような場所ではなくなった。だから横浜なのだろう。

 しかし終戦してもう10年だ。そもそもその終戦すら公式に発表されたものではなく、風に乗って届いた噂話に過ぎなかった。一体、今更集まって何をしようというのだ?




 私は船を降りて、中国の政治家達を尾行した。

 下船してからは荒廃した街並みが続いていた。しかし目的地に近付くに連れて最近建てられたばかりの、真新しく整然とした物が見られるようになってきた。


「な、なんだあれは…」


 そして荒廃した時代には似つかわしい巨大な建造物を目撃した。周囲の風景を反射する、全面が鏡のような建物だ。その屋根から生えるアンテナは折れた上海タワーよりも高くまで延びていた。


「まともに電気が通ってないこのご時世にテレビ塔か…?」


 もう少し近くで見てみたい。しかし関係者以外は通さないように銃を持った兵士達が警備を行っていた。




 どこかに侵入できる穴はないかと辺りを歩いていた時だった。建物の方から人の話し声が聴こえてきた。大勢の人へ語り掛けているようだった。


「想定していたよりも多くの人々が集まったようで…賢い選択を出来たようで何よりです」


 若い声だ。どうやらこの声の主がここに政治家達を集めたようだ。


「今より始めるのは歴史上最大の規模にして最後の主要国首脳会議、ラスト・サミットとなります。戦前以来という事もあって不慣れな点もありますが、御辛抱ください」

「サミットとはG7だけで行うものではないのかね?日本、フランス、ドイツ、アメリカ、イタリア、イギリス、カナダ…それにしては余計な肌色が見えるようだが…」

「そうでしょうね。これは正式なサミットではなく、主催者である私がサミットと呼んでいるだけ。遣いから渡された招待状にもそう記しておいたでしょう。そもそもここにいるのは揃って臆病者ではありませんか。産まれてから招待状が届くまでの間、安全な地下から足を一歩も踏み出す事なく、地上で生活している人々がどれだけ苦しんでいたか想像したことのない薄情な方々でしょう?」

「なんだと…」

「文句は受け付けませんよ。私達は16年前から荒れ果てた地上で暮らしてきたのですから。そんなあなた達を恨んで当然の私があなた達を救おうとしているのです…態度を改めろ!」


 警備をしていた兵士達が一斉に建造物の方を向いた。銃口は政治家達を向いていた。

 あのマイクを持った少年は16歳なのか。兵士達はそんな若い子供に忠誠を誓っているのか?


「事のキッカケは5年前。新しいインターネットを築こうとしている時でした。あなた方と比べて戦争に消極的だった日本には物資が残っていたのです。開発したパソコンで試験用のサーバーに繋ごうとしたのですが、パソコンは未知のサーバーに繋がったのです」

「未知のサーバーとは?インターネットはとっくの昔に使われてないのでは?」

「戦前まで使われていたインターネットは失われたままです。私達が繋がったのはこことは別の世界に存在するサーバーだったのです」

「異世界にあるインターネットと繋がった?そんな馬鹿な話があるか!」

「信じたくなければどうぞお帰りください。しかしこのゲートを開くのは一度きり。送るべき人を送った後は跡形なく爆発させるつもりです…私はそのサーバーで別の世界の住人と交信を行いました。そしてこの世界での現状を伝えると親切な事に、そちら側へと渡る装置の設計図を送ってきたのです。私が交信したルートピアの人々はこの世界からの移民を受け入れてくれるというのです!なんと親切な方々でしょう!」


 別の世界!?移民!?いきなり受け入れ難い話が始まったぞ!?


「安全な場所へ移り住めるなら移動するべきでしょう。しかしこの地球に生き残っている人達全員で押し寄せるわけにもいかない。そう考えた私達は地下で生き延びた政治家のご子孫であるあなた方のような賢く、生きるべき人々を送ろうと考えたわけです」

「それでは君は、この世界に残る人々は生きるべきではないと?」

「はい、あなた方と同じでそういう風に考えております。同じですよね?でなければ国の代表という使命よりも保身を優先するような行動は取りませんよね。あなた達がここに残る人々を大切に思うようなら、そもそも今の景色は違っていたし、この装置が造られる事もなかったでしょう」

「…君は一体、どの立場から話しているのかね。誰が助けてくれと頼んだ?」

「私の助けが不要ならおかえりください。もう未来のないこの世界で最期を過ごすというのも中々悪くない、ロマンチックな選択ですね…好機を逃すというのは私には理解しがたい考えですがね」


 安全な場所で生きて来た政治家達とあの少年とでは考え方が大きく違うのだろう。

 しかし少年の言葉で我が身が惜しくなったのか、生意気な態度を見せた男は黙り込んだ。その場から離れる事もなかった。


「…私としてはここへいらっしゃった皆さん全員にルートピアへ渡って欲しいわけですが、急にこの話を受けて混乱された方もいるでしょう。なのでこのルートピアへ渡る装置を起動するのは3日後。それまでの間、あなた方には様々な判断材料をご覧いただきます。ルートピアへ渡るかどうかは、あなた方の直感に任せます」



 話が終わると、政治家達は用意された宿舎へと案内された。


 別の世界へ渡る装置。知らぬ間にそんな物が造られていたとは…

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