41.国王と参謀の談笑
王城の一室。
鈴蘭の名を冠するその部屋には、かの国の王と、まことしやかにその右腕と囁かれる男の姿があった。
「レクセンに、か。お前の娘は、何を考えているのだろうかな?」
「さあ。どうでしょう。近頃あの子の考えは幾分か読みにくい」
窓ガラスの向こう、温室が見える。
そこには今日は、娘の姿はない。当然だった。何せその娘は今、この国にすらいない。隣国エルヴィアーナの、災いの火種を孕む街に、娘はいる。
温室にあった娘の影を追い、ルルイユの参謀という二つ名を持つ男は、娘の行き先を見晴るかすように目を細めた。
「なんと、お前にも読めぬ、とは。やはり、慧眼だけではないか、その血は」
残念なことをした、と、国の王は、どこか面白そうな、しかしやはり口惜しそうな声で言う。
「ジルベールとの婚約を破棄してから、エクレイアは随分と冴えている。よもや、鈍らせていたのは、我々だったとは」
ふ、と、笑って、リージオはそれには答えなかった。
「しかしあの子は…、近頃、物思いにふけることが多い。やはり、婚約破棄とは、年頃の娘には酷なことだったのでしょう」
「……ふふ」
「陛下?」
声に非難めいた色が混じっては、国王はいよいよ鷹揚な笑い声を立てた。
「いや、なに……、獅子のようなことを宣ったとて、やはりその本筋は変わらない。あの子はお前の掌中の珠だな」
「……男親は、娘には甘くなるものです」
「お前ほどの男でもか」
「私とて人の親だったと、それだけのこと」
「そうだなあ」
目を伏せて、二人の親は、我が子たちを思った。
「あの子は、近頃、随分と冴えている。私にはそれが恐ろしい」
「ほう」
「まるで、眠っていた竜を起こしでもしたかのような……」
「美しい娘を捕まえて、竜と呼ぶか」
「…竜は力の象徴です。ですが、人間如きが逆らえない、天災の象徴でもある」
「………」
「………などと、まあ、娘に、今までになかった一面を見せられて、動揺しているのでしょうな」
リージオは笑った。
「女は皆女優、と申しましょう。女には、いくつもの顔があったと、そういうことなのでしょうか」
「……一度鏡を見れば、それが女だけではないと理解できる証が映ると思うがな」
声を立てて、二人は笑った。




