31.参謀と盟友の語らい
時は少し遡る。
エルヴィアーナの皇太子が、ルルイユの地を踏む少し前、王城のとある一室に、二人の男の姿があった。
「しかし、だ。もう二十年以上経つというのに、未だにこの有様だ。どう思う、参謀殿」
「その、参謀というのはどうにかならないか。私はそのような大層なものじゃない」
「よく言う。先頃の戦役、相手の動向を見透かすに飽き足らず天候すら予測して見せた鬼才だろう」
「だからそう大層なことじゃない。あれは。単純な計算と、ありふれた統計だ。娘の前で言わないでくれよ、あれには関わっていないことになっているんだ」
「お前が隠し通すのならそのようになるさ。しかし、ルルイユにはまだ真新しい学問だな。……エルヴィアーナ、何を考えている」
「別段害意があるわけではなかろうさ」
「それはそうだろう。害意を持った連中に、掌中の珠を近付けるような男ではない」
「またぞろそのようなことを言う。買い被りすぎだ」
「事実だろう。しかし、ああ、そうか、お前自身もまた、皇太子とは親しいのか」
「ああ。いい子たちだよ、彼らは」
「ほう」
「まあ、打ち解けているのは娘の方だがね」
「そうだろうとも」
「私の見立てが正しければ……」
「うん?」
「この停滞は時期に動く。エルヴィアーナの賓客は、その嵐の目になるだろう」
「ほう?」
「そして、我が娘もそこに立つだろう。…であるのならば」
「お前もまた、そこにあるか」
「仕方がないだろう。…いや、そうだな」
「その顔は、楽しみ、ということか?」
「ああ、そうだとも。…まったく、我ながら悪趣味なことだ」
「ああまったくだ。……備えはしておこう」
「背は任せているよ、ベルグラス。ずっと昔から、ね」
「重いな。凄まじいほどだ」
二人の男は、楽しそうに笑う。
温室へと入っていく娘の姿が、その部屋からははっきりと見えていた。




