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「我々ルーベルハイムとしても、ルキオは脅威と捉え、調査をしておりました。アルベール殿下は元より陛下もご存じであらせられます」
リージオの眼光に射抜かれて、ラファエルとラヴィエルは居住まいを正して聞き入る。
エクレイアも、ここのところ婚約破棄でてんてこ舞いだった心を落ち着け、新たに加わった知識とともに、これまでに起きていたことを整理しながら聞き入った。
「近頃貴族のうちで不穏な気配がするという情報もあり、しばらく泳がせておりましたが、今のところ我が国においては、そのような凶行はないものと考えております。しかしながら、至極残念なことに、そのルキオなるものの拠点は、我が国の中にあるものとも、把握しております」
そうだ、それはエクレイアも知っていた。
そして、何故、ルルイユではなくエルヴィアーナでそのような薬物による洗脳まがいの凶行が起きたかといえば、
(宗派の違いかしら……。洗脳などなくとも伝播したルルイユとは違って、エルヴィアーナでは受け入れられにくかったのかもしれませんわね)
新たな視点を存分に使い、一人で納得しつつ、しかしこれをどうやって他者に伝えるかを考えながら、リージオの話を追った。
「ルキオなるものの思惑は掴みかねますが、しかしながら、時はそろそろ満ちるものと、考えておりました」
エクレイアには、リージオの目が、光ったように思えた。
ルキオの思惑はどうということはない、その宗教紛いの思想を広めること、だろう。エクレイアはそう推測している。そして、前の彼女の知識を紐解けば、宗教というものは、一概にこそ言えないものの、征服の手段となり得ることもまた事実。だとするなら、それを広げていくということは、恐らく目的は、二国の征服、そして裏から牛耳ること。そこまで大仰なことではない場合でも、少なとも、少なからず益を得ようとはするはずだ。熱心に広がる宗教の、始まりはただ安寧を願う祈りだったとしても、一時経ってある程度力をつけていけば、悲しいことだがそこに加わる人の思惑は、決して清らかなだけでは済まない。
(いや……まあ、ほんとうに、人を救いたいという聖人めいたものがいるのなら話は別だけれど、………洗脳紛いだもの、ないわね)
一片に湧いた考えを切って捨て、エクレイアは静かにリージオを、ラファエルを、ラヴィエルを、順繰りに見た。そしてもう一度、リージオに視線を戻す。
異なる世界の知識をもってようやっと辿り着くその思惑に、リージオはきっと辿り着くことはできない。前提としてそもそもこの世界に存在しない概念だったのだから。なにやらイカサマをしている気分になるエクレイアであるが、やっていることは恐らくそれとなんら変わらないだろう。
しかし、それを察することはなくとも、なにか思うところのあるらしいリージオの聡さには、空恐ろしいものを感じるエクレイアだった。我が父ながら、というやつである。
「ルキオなるものが如何様な目的を持つのかは知れませんが、そうだからといって、泳がせておく期間が長すぎましたな。隣国にさえ疫病をばらまくようであれば、病巣は切除せねばなりますまい」
すっかり温くなった二杯目のお茶に静かに口をつけてから、なんのことはない風に落とされた、笑みさえ混じるその言葉に。
その波紋によりぴしりと凍る空気に背筋さえも冷えて、エクレイアは静かに拳を握った。
娘でこれなのだから、教え子二人は尚更だったと見えて、
「……切除、とは」
というラファエルの言葉が落とされるまでに、数秒の間があった。それでも、年の差は親子ほど、潜った修羅場は雲泥の差の、ルーベルハイムの参謀の、悪魔じみた支配から一声発することができたというのは、流石は皇族というものか。
「……まあ、その辺りも含めて。陛下、そして殿下とを交えて、話さねばなりませんな」
ははは、と、笑う声を意図して和らげたのか、凍りついた空気はようやっと溶けて、ふと、エクレイアは肩から力を抜いた。
別段武術だのなんだのを極めたわけでもなければ、年齢でいえば王宮の長老たちの中で一番の若造であるというのにこの気迫、実際目にすることはなかったとはいえ一体どれほどの修羅場を潜って来たのやらと、口伝にのみ聞いたあれやこれやに想いを馳せる娘である。
「しかしながら、ラファエル殿下、そしてラヴィエル閣下におかれましては」
ふう、と、落ちた父親の溜息に、疲れたようなものを覚えてふと、エクレイアは紅茶に伸ばしかけた手を止める。
「くれぐれも、これを事前にここで話したという事実を、どうかお忘れなきように」
壁には常に耳がある。
言外に混ざったその色に、静かな首肯を返した異国の二人は、それを言葉で問うような、愚かな真似はしなかった。
そうやって、真面目な討論会は終わり、温くなった紅茶を囲んで、シャルロットケーキに舌鼓を打つ小さな茶会は、穏やかな空気の中に溶け込んでいった。




