↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
PR
12/59

11

「エルヴィアーナ皇国の皇太子がおいでになる」


そう、父親たるルーベルハイム公爵リージオに聞かされた時は、天と地がひっくり返った心地だった。近所の丘がいきなり噴火したと言われてもきっとここまで驚かなかったと思う。その場でショック死しなかった自分に拍手喝采である。理解も納得もしたくないので、せめて三度ほど聞き返してやろうかとも思ったが、残念ながら父親について外交の勉強もしていたエクレイアは、告げられた言葉の意味をきちんと理解してしまっていた。…来るんですってよ、エルヴィアーナの皇子様が。

だというのに、隣で同様にそれを聞かされたラヴィエルはと言えば、動揺しまくるエクレイアと正反対で、


「…………まあ、そうだろうな」


ときたものだ。


「お父様、それは何かの間違いでは…」


言いかけたエクレイアも、父が手に持つ封書を見れば黙り込むしかなかった。翼を広げた獅子。どう見てもエルヴィアーナ皇家の紋章。見間違いなどではない。


「到着は明後日、ラヴィエル殿、ご宿泊されるのは迎賓館ではなく当家とのことでしたが、真によろしいので?」

「兄上の希望ならば、そのように。ご迷惑でなければ是非にと」

「正気ですの!?」


エクレイアの相槌は最早悲鳴に近いものがあった。ラヴィエルは肩を竦め、


「元よりルーベルハイム公爵家は、国賓の世話を任された家だと聞き及んでおります」


その通りですけども!

という絶叫をなんとか押し留め、エクレイアは頭痛をこらえるように眉間を揉みほぐした。

確かに、ルーベルハイムは歴史的に見ても、ルルイユにおいて重要な客人、いわゆる国賓貴賓のやんごとなき方々を手厚くもてなすことが多かった。それは、ルルイユの参謀とまことしやかに囁かれるルーベルハイムが、国の害になるものをいち早く選定するための諜報として、ルルイユ王家が特例で認めたシステム、なのだそうだが…。


「でもお父様、いくら当家とはいえ、他国の皇位継承権第一位の方を王族ではない我々がもてなすというのは…」

「先方の要望であるとのことだから、陛下からもお許しを得ているよ」


救いの道は音を立てて閉ざされた。

深々とため息をついて、がっくりと肩を落としたエクレイアのホワイトブロンドを、リージオは優しく撫でた。愛娘の柔らかな髪から視線を外さぬまま、リージオは静かに口を開く。


「……これからは、ルーベルハイム当主リージオではなく、エクレイアの父としての独り言なのだが」


がらりと変わった雰囲気に、エクレイアは恐る恐る視線を上げる。


「お前には幼い頃から不自由を強いてきた。王子の婚約者、未来の王太子妃。私もパルティアも、お前が書物を愛し、学問を好み、魔の道を志していたと知っていたのに」


なんてことを、と、エクレイアは青くなった。

他国の大貴族がいる前で、王太子妃という晴れがましい役職を『不自由』と言い捨てるのは、恐ろしいほどにリスキーなことである。下手をすれば首が飛びかねない。物理的に。

しかしリージオは言った。優しい父親の瞳には、ただただ娘を案じる色があるだけだった。


「立場上、本来ならば決して言ってはならぬことを言おう、エクレイア。……お前は、留学すべきだよ」

「お父様…?」

「国のことも、ルーベルハイムの家のことも。私とパルティアの目が黒いうちは、そして陛下と王太子殿下がおわします限りは、お前が案じる必要など微塵もないほどに守護してみせよう」


だから、と、本来ならば立場と役職に雁字搦めにされて、決して放つことのできない言葉が、聞くことができない言葉が、父の口から滑り落ちた。


「ルーベルハイムのことも、ルルイユのことも、一切何も考えずに、お前のやりたいことをやりなさい」


留学でも、学院に通うでも、なんでもいい。

お前が諦めてきた全てを取り戻すいい機会だと、リージオは穏やかに言ってから、名残惜しそうに、エクレイアの髪から手を放した。

そして、ラヴィエルに深々と頭を下げる。


「殿下、お耳汚しをお許しください」

「…いや」


それを手で制して、ラヴィエルは笑った。


「俺はなにも聞いていない。……ただ、『おじ上』が娘を案じただけでしょう」

魔の道とはそのまま「魔法」「魔道」のことなんですが…字面………

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[一言]  隣の国の貴族にすぎないラヴィエルが、内々の場に現れるのは不自然だと思う。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。