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36位目

 ヴァクシャサは、隣の部屋の暖炉の前に作られた毛布の天幕 テントの中で寝ていた。室内で天幕 (テント)って……とか、火精霊 アルファートすごく気張ってるな……とか、思うところはいろいろあるけど、大事なのは一つの事実。死んでない。昨日、かどうかは不確かだけど、倒れた時と比べれば熱も下がりつつあるのか寝顔も穏やかだ。とは言えまだ全快したわけじゃない。かなりの汗はかいてるし、顔色も良くない。まだまだしてやらなきゃいけないことがたくさんあるだろう。着替えに、飯に、水に……

 うん、とりあえず水かな。とすると井戸か? それとも近くに川があるわけだし、あそこまで汲みに行くのか。

 どっちなのかは誰かに聞くのが妥当なところだと思うけど、聞くってことは誰かに会わなきゃいけないってことだ。誰かに……誰かねえ。ゴフェン、ミグナ、ララトリア、直接顔を合わせてことがあるのはこの三人くらいか。正直誰ともあんまり会いたくないけど……いつまでも引きこもるわけにもいかないし、ぐずぐず言っててもしょうがないんだよね。しかし、引きこもるといえばあれだ、結局今はいつなんだろうか? 夜になって月が出ればその形で判断できようものだけど、出来れば日が出てるうちに知りたい。水を汲む場所と一緒に聞くのが妥当かなぁ。

 でもこれ聞くと寝込んでたのがばれるよね、水は井戸の場所知らなくても川で汲んでこられるわけだし。


「よし、人に会うのは全体的に後回しにしよう」


 ちょっと遠いけどそこは我慢だ。

 さて、水汲みといえば適当な容器をまず探さなきゃな。一番は桶だけど……あ、あった。水と洗濯物がごっちゃになってる。ここまでやったんなら洗濯しようよ僕……いや、洗濯はしたけど干してないだけとかってこともあるか? まあどっちにしろ洗濯しなおすけどな。桶はダメっと。なら鍋はって言うと……お、竃の上に置いてある。もしかしたらなにか、食物でも作ってたんだっけ? アステラが兎とってきてたし。ちょっとわくわくする。


「……なんだ」


 中身は灰だった。多分煮詰めすぎて……とかじゃないな。水分の気配が無い。とすると、洗剤でも作ろうとしてたんだろうか。寝てしまう前のことはちょっと思い出せないけど、他にやることあっただろうに。まあ、灰はどっかに移しておけばいいや。この鍋で水を汲もう。


「あれ……えっ?」


 鍋を手に取り家の玄関に向かおうと振り返った瞬間だった。突然壁が近付いてきて、僕は吹き飛ばされる。

 いや違う。吹き飛んではいない。押し潰されようとしてる。

 ……いや、それも違う。僕は倒れたんだ。

 っというか、二回目だろこれ。

 森の中でもやったぞ。

 背骨を氷に作り替えられたような悪寒、節々から感じる激痛、加速度的に重くなる頭、吐き気。脂汗か冷や汗か、判断のつかない何かが背中や足の裏、腋の下からあふれる。自分の体温と違う液体が体を覆うって、こんなに不快なんだな。いや、単に冷や汗が不快なのかもしれないけど。

 河原で目覚めたときはなんとも無かったから忘れてた……っていうか治ったんだと思ってたけど、どうやらそうじゃなかったらしい。未だに僕はヴァクシャサに負けず劣らずの病人だったんだ。


「ぁ……ぃ……」


 すごいな。声もろくに出ない。これはもしかしたら最初に倒れた時より症状重くなってるかもしれないぞ。

 本当ならゆっくり休んで治さなきゃいけないところだけど、今回はそんな時間はない……というか、そんな余裕がない。なんだかよくわからないけどなんとかなった森の中でのことを再現するのが最善だろう。そう。


「エリクシル?」


 目の前に青い人影が現れる。いや、半人半魚の姿の水精霊。エリクシル。普段こいつどこにいるんだろう? そういえば近くに井戸があるかどうかだって彼女に聞けるかもしれない。まあ、日付はそもそも概念が違うから無理だろうけどね。形も尺度も違う定規同士で何かを測るなんて、たぶん一番付き合いが長いアステラやジスコとだって無理だ。

 まあ、水より先に解決するべきことがある。ええと、こないだみたいに助けて欲しいんだけど……なんて言えば。


「っ!?」


 助けてほしい。そう思っただけで全てがよくなった。

 痛みも怠さも悪寒も消え去り、服を濡らしていた汗も一瞬で乾いた。いや、正確に乾いたのかどうかは知らないけど、なんだかさっぱりした。エリクシルってすごい。まさかこれが水精霊の平均ってことはないよね。だとしたら水精霊の力が強すぎる気がするんだけど。

 これは、ヴァクシャさも助けてくれるように頼んだほうが良いかもしれないな。


「ありがとう。して欲しいことは?」


 ただ、その前にお互いが対等だってことを忘れたらいけない。他の精霊にも言えることだけど、僕と彼らの関係はあくまで対等であり、助けを求めたことに気まぐれで答えてくれているにすぎない。この子が何を求めているのかは知らないけれど、一方的に頼み事ばかりをしていては関係を保てない。

 で、え、なに? 血が欲しいの? 僕の? ついさっきドラーキと契約した時に作った傷が、まだほとんど血も止まってないから簡単に出せるけど……ん? 他の指が良い? というか自分専用の吸い口が欲しいってことかな。あんまり好きに吸われると血が足りなくなりそうだけど……まあいいさ。好きにしてくれ。

 これからも世話かけるだろうし、それで機嫌が取れるなら良いさ。

木曜。土日中。決めたことが守れなくて申し訳有りません。

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