28位目
いつも読んでくださってありがとうございます。
「いや、これは無いな」
試しに見下ろした川面に映る姿に、思わず膝をつきそうになった。
今の僕の姿は端的に言って異様だ。
青い布にくるまった女性の顔が肩から覗いているのも大概だが、その上からぐっしょり濡れた外套を着込んでいる。間に毛布を挟んでいるから直接濡れた外套を着込んでるわけでは無いのだけど、そんなの見えるわけも無いしまずもって無理があるだろう。しまいには左手に大鎌、腰には昼間なのに火がついた角灯である。
なぜこれが問題なく人に会える格好だと思ったのか。
自分の正気がちょっとだけ疑わしくなってきた。おかしい。僕は一族で唯一『純朴 』という悪癖を持たない常人だったのでは無いのか。いや、一族って言っても父と顔も知らぬ父方の祖父と兄と弟二人と本来遺伝しないはずなのにした姪の五人に僕を含めたたった6人の話だけど……これだけいればまあ一族と言って差し支えないはずだ。もしかしたらもっと上にもいたのかもしれないし。
つらつら考えながら川面をじっと見つめていると、ふと静止した一瞬にさらに余計なものを見つけてしまう。
「顔洗い忘れてるし」
今更これ全部おろして洗うのは勘弁願いたいが、側頭部から流れた血が固まってなかなかに見苦しい。そのせいか髪の毛もあっちこっち逆立ってるし……これで外面よく対応してくれるとしたら、それは対面を気にしてるというより単に馬鹿か怯えているかだろう。あるいは死にかけと見て強気に出ることもあるかもしれない。
……何もかもうまくいかなさそうな状況だけど、このまま黙っていれば毛布に水がしみこんで彼女の病状が悪化することになるだろう。つくづく早まったとしか言いようが無いが、とかく動かなければならない。
だって今、人を一人担いだままで1時間と保つ気がしない。
疲労でふらつく足を奮い立たせて、アステラの反応を頼りに歩き出す。多分、アステラより先に村人の誰かに会うだろうし、そうなったらその人に村長の居場所を聞いて、彼を呼び戻そう。
「あれ、今なんか変な感じが……」
いや、今というか、なんだ、ここのところずっと何かを間違えていたような違和感があるんだけど……なんだかわからない。重要なことだとは思うんだけど、今は置いておこう。多分、今の状況自体に関係あることじゃ無い。
……しまったな。
だいぶ歩いてきちゃったけど、まず普通に水車小屋に行けばよかったんじゃ無いか。あそこに人間がいたって不思議じゃ無いだろう。
そう気付いたのは足元が険しくなってきた頃だ。よく考えたら村から川原まで道が出来てるのが当たり前なのに、つい今までの流れに合わせてまっすぐ突っ切ってきてしまった。水車小屋があれば、そのそばに痕跡があっただろう。何をやっているのやら。いよいよもって一族で唯一純朴で ないという僕の個性 が怪しくなってきた。
いや、八つ当たりだなこんなの。
単に体力が尽きてきたせいで判断力が落ちているだけだ。珍しくも無い。昔精霊の館……ヨゼウさんのところで働きすぎて、うっかりヨゼウさんを『お母さん』って呼んじゃったみたいな……いや、はっきり言ってあれはヨゼウさんだとも思ってなかった。ただ目の前にいるだけの人間を、つい溺れた人間が水面で口を開くのと同じようだ感覚で『助けてくれる人間』、つまり『親』だと呼んだだけだ。それも極端に本能的なものだろう。
そうじゃなかったら、咄嗟でも助けを求める相手は両親ではなく義姉だっただろうし。あるいは兄か。兄だったらきっと『にいちゃん』とか呼んでたんだろうな。いや、無いな。間違ってもあの兄に頼るとかは無い。いもしない両親に頼ることがあったとしても、だ。
ん、このままだとどこかの家の裏手に出てしまうな。さすがにそれはあまり外聞がよくないというか、ことさら心象が悪くなるようなことはさけたい。外側をまわり込もう。えっと、右で。
というか、僕はどこを目指すべきなんだろう。うーん? 村の集会所とか、村長の家とか、そんな感じかな?
——アステラ……聞こえるか?—— ——Bow!——
ずっとアステラの反応が動いてない。つまりあの男はどこかの建物に入ってから出てきてないってことになる。
つまり、自分の家に引きこもってるか、誰かに何かを相談しているかだ。どちらかといえば引きこもってる確率の方が高い気はするけれど、もしかしたら誰かに何かを……具体的には村長に僕らを発見したことを報告した後、そこにとどまっているかもしれない。第一目標はそこだ。
そこが違ったら……あるいはそれより先に誰かに会ってしまったら……まあ、その時考えるか。
「ちょっと、そこの人」
いや、ちょっと待てよ? 村長の家を見つけるのはそんなに難しく無いぞ。
だって村長の家にはほぼ確実に『勇者の魔宝』がある。精霊であるアステラやアルファート、一応エリクシルもその気配が追えるに違い無い。それを確認さえして貰えばいいんだ。
「聞いてますか?」
よし、アステラにはそのまま待機してもらうとして、ここはアルファートだな。まあ、応えてくれないかもしれないけど、それなら後で改めてアステラに頼めばいいし。
「ちょっと! 私の家で火のついた角灯なんて出さないで!」
「ん?」
あれ、もしかして僕に話しかけてたのか、この声。というか意識が散漫になりすぎてやしないか、僕。あたりを見回すと、右後ろに人の気配があった……そうか、肩に乗ってるヴァクシャサの顔で声とかの情報が遮られてたんだな。村と反対側からの声だったけど、ただ遠くからの声に聞こえてたのか。
「ああ、えっと、すまない。君は誰だ?」
っと、ちょっと気合を入れて方向を転換。いるのがわかるってだけじゃ会話は難しい。ちゃんと相手の顔を見ないとッ——
「あなたこそ誰?」
——うわあ。
内心の悲鳴を咄嗟に嚙み殺す。無難な受け答えをするべく口を開く。
「……教師だ」
なんだこれ、すごい美人だな。
前回出してしわすれた名前紹介
主人公からの愛称⇒普段呼ばれる名前
弟1 ミィ⇒ミーイクタ 牛乳をかけるのが好きだった方の天然ボケな弟
弟2 タァ⇒ターナント 牛乳をかぶるのが好きだった方の天然ボケな弟
姪 レン⇒レンレン 叔父達の言うことを何でも信じる天然ボケな姪




